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#11 AAO初日終了

「…しょうがない。次の宿が決まるまでうちに来るか?」


ゼクターの申し出は宿屋がこれからも見つかりそうにない俺たちにとっては渡りに船だった。


「いいのか?俺らは嬉しいけど、家族とかいるんじゃないか?」


「まぁ何週間もいられると困るがよ。何日かなら何の問題ないわな!」


申し訳ないがここはゼクターの言葉に甘えようか。


「トゥニアもいいよな?」


「ん、ゼクターの家楽しそう」


「じゃあ、行くか!うちは西通りの方にあるから少し歩くぞ」


セントルムの街は東西南北に中央の広場から大通りが走っていて、広場の中心には北東に領主館、南東に冒険者ギルド、南西に商業ギルド、北西に神殿があるらしい。神殿と冒険者ギルド以外場所がわかっていなかった俺に宿屋を探しながらゼクターが教えてくれたのだが、宿屋は主に南北の通りに集まっているのでその周辺で探していたのだ。

そして、西通りをしばらく歩き途中の小道を進んだ後ゼクターが立ち止まった家は、おおよそゼクターのような厳つい男が住むようには見えないファンシーな庭に囲まれた一軒家だった。


「…ゼクター、ここがお前の家か?」


「…言いたいことはわかるが外装は嫁さんの趣味だ。俺も似合わないことは分かってるから言うな…」


「綺麗なお庭」


ゼクターを先頭に家へと向かって行くと、ドアが開いて中から男の子がゼクターの胸へと飛び込んできた。


「父ちゃん、おかえり!」


「おう、ただいま」


男の子は満面の笑みを浮かべてゼクターに抱きかかえられていたが、やがて背後の俺たちに気づきキョトンとした表情で口を開いた。。


「父ちゃん、この人たち誰?」


「この2人はうちにしばらく泊まることになるムクとトゥニアだ。ちゃんと挨拶しろよー」


ゼクターが男の子を下ろすと、男の子は若干恥ずかしがりながらもこちらに歩いてくる。


「俺の名前はムク。よろしくな。君の名前は?」


「僕、はリト。6歳」


「リトだな、よろしく。ほら、トゥニアも」


後ろを振り返るとトゥニアは珍しく緊張した様子でリトを見ていた。

ゼクターにもリセナさんにも物怖じしてなかったのにどうしたんだ?


「えっと…私はトゥニア。よろしく」


挨拶もそこそこにじーっとトゥニアを見つめるリトに気圧されたのかトゥニアが助けを求めるようにこちらを見てくるが…頑張ってみなさい。

俺とゼクターは一旦2人を庭に残して家の中に入ると、そこには黒色の髪の女性が待っていた。

年齢はゼクターと同じで30代といったところだろうか。クリッとした紫の瞳が印象的な美人だ。

ゼクターと並ぶとまさに美女とや…。


「…おい、何か失礼なこと考えてないか?」


やばいやばい、泊めてもらうのに怒らせてはいけない。


「そんなことはないさ」


「まぁいい。サヤ、こいつはムク。新人冒険者なんだが泊まる宿屋がなくてな。奥の部屋に泊めてやろうと思って連れてきたんだが構わないか?」


「せっかくここまで来てくださったのにここで断ったら逆に失礼ってもんでしょう?私はもちろん構いませんよ。ムクさんですね。ゼクターの妻のサヤです。どうぞよろしくお願いしますね」


「ありがとうございます。よろしくお願いします!」


トゥニアも…と考えたところでトゥニアを庭に残して来たのを思い出した。


「すみません、あと1人いるんですが…」


「そうなんですか?その方はどちらに−」


サヤさんが言いかけたところでドアが開いてリトに手を引かれてトゥニアが中に入ってくる。

ちょうどよかった。トゥニアに挨拶を−


「お父さん!お母さん!僕トゥニアとけっこんする!」


してもらおうと口を開きかけたところのリトの衝撃発言に俺は目が点になる。

あまりの衝撃に固まったままギギギと首をゼクターに向けるとゼクターも状況が飲み込めていない様子。


「あらあら…ムクさん。この子がもう1人の方かしら?」


唯一全く動じていないサヤさんは大物なのかもしれないな…などと現実逃避の考えに逃げつつ、無意識に頷くとサヤさんはトゥニアにゆっくりと話しかけた。


「トゥニアさん、うちのリトはこんな風に言ってるけどトゥニアさんもそのつもりなの?」


トゥニアも突然のことだったようで目を白黒させながらも、サヤさんの質問に対して首を振る。

それを見てサヤさんは今度はリトに向き直り、


「リト、なんで急にそんなこと言いだしたの?」


「…かわいいって思って。けっこんしたいなって思ったから」


「その思い自体はいいことだけど。相手が何も言っていないうちに無理やり手を引いて勝手に決めるのは悪いことよ。トゥニアさんにちゃんと謝りなさい」


「…急にごめんなさい」


サヤさんに諭されたリトはトゥニアに悪いことをしたと分かったらしくシュンとしながらも謝った。


「…ん、大丈夫」


トゥニアの許しが得れたリトは安心したようで花が咲いたような笑顔になった。

こんなに初々しい恋愛久々に見たなぁ…。


と、ほっこりしていると視界の隅にウィンドウが映り『宿取れた?僕らはギルド着いたよ』という健介からのメッセージが届いていた。

だが、このままここを放っていくわけにも行かないし…一旦俺はメッセージ欄から再び健介を呼び出した。


『あ、武久。宿は取れた?』


「いや、貸してくれる人は見つかったんだがまだもう少しかかりそうだ…。健介たちは時間大丈夫か?」


『うーん、こっちもトルナとモネ…あ、詠里ちゃんと早希ちゃんのことだけど。2人をそろそろログアウトさせなきゃって話だったんだよね。他はまだ残れるけど、どうする?改めて明日にする?』


早希ちゃんって誰だっけ?

疑問も残るが時刻はもうすぐ10時過ぎ。確かに中学生と一緒にプレイするなら気をつけなきゃいけない時間かもな。


「そうしたら申し訳ないんだが、明日にしてもらってもいいか?」


『了解。まぁこっちから頼んでることだし気にしないでよ』


「すまん、恩に着る」


おおげさだな〜との言葉を頂いてしまったが一回約束したことだしな…。


「お、話は終わったか。そしたら部屋の案内をするぞ」


そう言われてゼクターに連れられて入ったのは普段は客間にしているようでベッドが二つと棚のあるシンプルな内装の部屋だった。


「しばらくはここを使ってくれ。さっきのリトの様子じゃトゥニアがこの家にいてくれた方が嬉しいんだろうしな!」


そう言って笑うゼクターに苦笑いをしながら、俺はトゥニアに声をかけにいく。


「トゥニア、俺はログアウトするんだがトゥニアはその間どうなるんだ?」


「私は基本的には自由に行動してる。サヤさんに市場に誘われたのでこれから買い物」


なるほど、ログアウトしている間はいなくなってるとかそういうことはないんだな。

となると、やっぱり広場とかでログアウトはできないな…。

そう考えながら、サヤさんにトゥニアのことをお願いし、俺は部屋へと戻りログアウトした。




気がつくと、俺は現実世界の自分の部屋のベッドで目を開けていた。

VRギアを外して起き上がると、同じ体勢でしばらくいたせいで凝っていたのか体のあちこちから音がなる。

この調子でやってると体固まりそうだな…。

廊下へ出て、妹の部屋をノックするが応答はないのでまだAAOの中にいるようだ。

とりあえず風呂へ入りながら明日健介たちの説明のために今日の出来事を整理しようと決めて俺は風呂場へと向かうだった。



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