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手を繋ぐとき  作者: YOUka
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第1話・告白







 過去も未来も 僕らが背負う翼

 全て受け入れ突き進む心が 僕の中にあるだろうか

 まだ恐いよ

 過去も未来も 僕らには見えない

 目の前の階段がいつ崩れるか分からない恐ろしさに

 僕はまだ怯えているんだ

 

 それでもみんなは堂々と進んで行く

 立ちすくむ僕を追い抜かして









 「なんか嫌だ、この歌詞」


愛守は口を尖らせた。

両耳に当てていた大きめのヘッドホンをはずす。

ベッドで寝転がって漫画を読んでいた愛護がのんびり彼女を見る。


「そぉ?」


「うん。なんか嫌い」


即答する愛守は仏教面でヘッドホンを睨んでいる。

その様子を見て、愛護は思わず苦笑した。

いいと思うんだけどなぁ、この曲。

歌詞は暗いけどなかなか良いように思うし、サウンドも悪くない。

何より自分の好きなアーティストが歌っているだけに、ちょっと反論もしたくなった。


「どうして?なかなか納得させられる歌詞だと思うんだけど」


とうとうヘッドホンを投げ出してしまった愛守は、プクーっと白い餅の様な頬を膨らませた。

彼女は気に入らない事があると子供っぽい反応をする。

愛護は漫画を置いてベッドを降り、彼女の隣に座った。

何やらポリポリ頬を掻きながら考えて、少し言いにくそうに小声で呟く。


「過去とか未来ってのが嫌なんだろ?」


ビクリ。

愛守が小さな体を強ばらせた。


「で、何?また何か見えたのか?」


「…」


小さな唇をきゅっと結んで、正座した足に握りしめた拳を置いて、ブルブルと体を震わせる。

どうやら図星のようだ。

やれやれと軽く首を振ると、愛護は右手を愛守の小さな頭に置いた。


「よしよし」


優しくその頭を撫でる。

まるでペットを撫でるかのように、優しく優しく…ずっと落ち着くまで続けた。

気付かないフリをしていたが、愛守が泣いている事くらい分かっていたから。

こういう時は変に元気付けるより、黙って優しくするのが一番だ。

根拠はないけど、愛護はそう思っていた。






 もう辺りは暗い。

さっきまで赤く輝いていた夕陽も沈んでしまった。


愛護はまだ頭を撫でていた。

肩に寄り掛かって泣き寝入りした愛守を起こそうともせず、

ただずっと傍に居ることを決めた。

それだけで力になれる。


「お前が辛い思いしてんのは知ってる。

お前しかそんな思いをしない事も知ってる。

俺にはお前に見えてるもんが見えないから、どうにかしてやる事もできない。

悔しいけど、それは仕様のない事だと思うんだ」


寝ている相手に語りかけているのか、それとも独り言なのか、愛護は淡々と続ける。


「短い付き合いだけど、お前の事は全部知ってる…て言うのは無理があるかもしんねーけど、

他の奴らよりはお前の事知ってるつもりなんだ。

俺ができる事なら何だってやってやる。

話も聞くし、アドバイスもするし、一緒に居て欲しいならいつまでも一緒に居てやる。

勇気出して打ち明けてくれた事、俺はちゃんと信じてんだ。

秘密も守ってる。だから…」


撫でていた手を止め、頬の乾きかけの涙を拭ってやる。

柔らかい感触が指を伝って、愛護は彼女をとても愛おしく思った。

弱い彼女を守ってあげたいと思った。

好き・・・とか、そういう感情かどうかは分からない。

恋愛感情抜きにしても、愛守は大切な人だと思う。

もちろん男として女の子を守りたいと言う気持ちもあるが、

友人として守りたい気持ちも強かった。


「ありがと」


いきなり、愛守が呟いた。

愛護は少し焦って、暗い部屋に目を泳がせる。


「…お母さんがね」


唐突に話し始めるのはいつもの事だった。

愛護は焦りを解いて、何気ないフリをすべく天井を見上げた。

これから話される事に対する覚悟も必要だった。

…いつの間にか、愛守の小さな手を握っていた。


「お母さんがね、泣いてるの。

凄く悲しそうに泣いてるの。

真っ白な部屋のベッドに寝たまま泣いてるの。

そこにあたしが居る。家族みんなが居る。

みんな泣いてて、悲しそうで…でもね、でも、あたし泣いてないんだ。

あたし一人、泣いてないんだ…」


声が震える。

また泣いているのだろうか。

愛守は顔を愛護の肩に埋める。

愛護は小さな手を握る手に力を入れた。


「凄く嫌なの。嫌な感じがするの。

今までなかった事だけど、最近毎晩見るの」


「愛守…」


「やっぱりはっきりとは分からない。

ぼんやりとしか分からないんだけど、なんか嫌だ…嫌だよ!!!」


悲痛な叫び声が、暗く静かな愛護の部屋に響いた。

彼は思わず目を閉じる。

深く苦しい彼女の悲しみが、彼の心に直接流れ込んでくる。


愛守の話しからすると、おのずと分かってしまう結果。

真っ白な部屋のベッド、寝ている母親、泣き続ける家族…


愛護の脳裏に『死』と言う言葉が嫌になる程響いていた。














読んでくださり、ありがとうございます。

小説は読むのも書くのも大好きです。

これからよろしくお願いします。


YOUka



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