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不思議なプレゼント

作者: うさぎバチ

三本構成の物語です。



 クリスマス――、


 世間がLEDや、オーナメントで色どられている。


 そんな中、只のサラリーマンで独身である俺は、当然のように会社に出勤。


 世の中のカップル共が、キャッキャッウフフしている。


 今頃、そんな奴等がデートやら何やらで楽しんでいることだろう。 


 ……別に妬んでるとか、羨ましいとか考えてない、考えてないし。


 何時ものように、残業して帰宅する。その帰路の途中で、小さな本屋がある。


 この日に向けてなのか、一週間ほど前から店内にはクリスマスツリーが飾られていた。


 そして――、


 今日も、その木の下で少女が立っていた。


 小学生位の女の子で、毎日この時間に誰かを待っているようだった。


 一体、誰を待っているのだろうか?


 ――サンタクロース、とか?


「久しぶりじゃのう?」


 不意に話かけられて、そちらの方に振り向く。

 

 モジャモジャの白髪と白髭を蓄えた小太りの老人が、そこにいた。


 サンタクロース!?と、思ったのだが、


「……なんだ、店長さんじゃないですか」


 俺は、この本屋に何度も来たことがあって、この人とは知り合いだった。


 以前は、よく漫画や小説を読んでいた。


 しかし、最近は仕事も忙しくなって寄ることすら、少なくなっていた。


 それでも、店長は覚えていてくれた。


「ぶおっふぉっふぉ、ちょっと頼まれてくれんかの?」


 そう言って、リボンのついたプレゼントの箱を手渡しして、


「あの子にプレゼントを渡しそびれておっての、代わりに渡しといてくれんか?」


 店長は、その子の方へ手で指し示した。


 その子供とは、木の下で立っていた少女のことだった。


「どういことですか……?」


 俺が店長の方に顔を戻したときには、すでに姿はなかった。


 ――きっと、忙がしいだろう。やれやれ、仕方ないな。


 俺は渋々、女の子の元にプレゼントを持っていく。


 女の子の方も、俺に気付いたようだ。俺は女の子の目線の高さまで、屈みこむ。


 さて、どう話しかけるか……?


「こんばんは、誰かを待ってるのかい?」


「……こんばんは、……お父さんを待ってたの」


 ――待ってた……?


 過去形の返事に疑問符が浮かんだが、とりあえずプレゼントを渡すことにしよう。


「はい、おじいさんから君にプレゼントだよ」


「ありがとう!」


 女の子は少し戸惑った様子だったが、受け取ってくれた。


「飽けてもいい?」


 いいよ、と答えると女の子は直ぐにプレゼントを開ける。


 入っていたのは、毛糸で編んである帽子だった。


「わあ、可愛い!」


 女の子はそれを早速、頭に被る。


「おじいさんに、ちゃんとお礼を言うんだよ?」


「うん!」


 女の子は嬉しそうに、返事を返す。


 ――ふと、先程の会話を思い出した。


「お父さんはどこに、行ったの?」


「どこにも、行ってないよ?」


 女の子は不思議そうに、そう答えた。俺も不思議だった。


 何故なら近くに、それらしい人は居なかった。


「……お母さんは?」


 少し、質問を変えてみる。すると女の子は、俺の後ろを指差して、


「あっちにいるよ」


 指差す方に、俺は振り向いた。そこには、ここの店員らしい姿の女性が立っていた。


 その女性の顔には、見覚えがあった。


「……もしかして、先輩ですか!?」


「……えっ、うそ!モッキー君なの!?」


 俺たちは、互いを指差して驚いた。


 何故なら、学生時代の頃の先輩後輩の間柄だったからで、会うのは数年ぶりだった。


 ――ちなみに、モッキー君というのは当時やっていたテレビ番組のマスコットの名前で、俺のあだ名だ。


「じゃあ、お母さんって先輩なんですか?」


「はぁ?私、まだ独身なんだけど」


 先輩は、あきれ顔だった。


「とゆーか、君に少女趣味があったなんて……」


「違いますよ!」


 俺は疑いを晴らすべく弁解をし、理解してもらった。


「……成る程ねえ、私はここでバイトしているんだけど、あの子いつも居るなぁって話しかけようと思ったの。


 そうしたら、怪しい男が居るんだもん、てっきり誘拐とか思っちゃたよ」


 その言葉に俺は、冷や汗に苦笑いだ。言われてみれば、怪しさ満点である。


 しかし、そうなると女の子はいったい誰を……あれ?


 女の子の方に目線やると、そこに姿はなかった。


 先輩も気がついたようで、二人で辺りを探したがどこにもいなかった。


「うーん、もう親御さんに会って帰ったのかなぁ?」


 すると、店長がやって来た。それに、俺たちの会話を聞いていたようで、


「ぶおっふぉっふぉ、すまんかったの。女の子なら、さっきお母さんと一緒に店を出たぞ」


「どうやら、大丈夫そうですね」


「ちょうど、私の後ろにお母さんが居たって事なのかな」


 先輩は腕組みをして考える、と思ったら直ぐにやめて、


「あーやめやめ、もう勤務時間も過ぎてるし」


 彼女は、ぼやきながらエプロンを脱ぐ。


「お腹も空いたし、牛丼でも食べに行こう」


「そこはフライドチキン、とかじゃないんですか?」


 今日は、鶏肉が多く消費される日でもあるのだ。


「どうせ混んでるだろうし、店長お先に失礼します!」


「おお、気をつけてなぁ」


 見送る店長を後に、俺たちは帰路についた。


 こうして俺は、いつもと違うクリスマスを過ごしたのだった。




 ――時は流れて……。


 


 今日は、クリスマス。


 私は、クリスマスパーティーの準備をしていた。


「ただいまー」


 ケーキの下ごしらえをしていると、お父さんが帰ってきた。


「おー、すごい飾り」


 部屋に飾られたクリスマスツリーを見て、彼は驚いていた。


「おかえり、店長さんからもらったの」


「へー」


 店長さんというのは、以前にバイトで働いていた本屋のおじいさんの事だった。


 今は転職して辞めてしまったのだけれど、私の家族ともよい関係である。


「これって、ブッシュドノエル?」


 彼は次に、製作途中のケーキの生地をみている。


「そうだよー」


「これを見ると、おばあさんの話を思い出すなぁ……」


 おばあさんの話というのは、私が子供の頃の話だろうと思った。


 店長さんの奥さん……つまり、おばあさんからのプレゼントの謎かけの話。


『雪と葉っぱと炭、どのケーキがいいかい?』


 その謎かけに私は、炭のケーキが良いと言ったのだった。


『どうしてだい?』


 おばあさんは、すごく驚いていた。


 雪を選ぶ子供は多く、葉っぱを選ぶ子供も少なくなかった。


 ただ、炭のケーキを選ぶ子供は、私の他に居なかったからだった。


 それに私は、


『だって、ケーキは焼くでしょ?雪は溶けるし、葉っぱは焼けてバラバラになっちゃう


 だけど、炭は焼けても残っているもん』


 その答えにおばあさんはすごく喜んでいた。


 そしておばあさんは、謎かけのケーキを持ってくる


 雪のケーキは、ショートケーキ。


 葉っぱのケーキは、ミルフィーユ。


 そして、炭のケーキはブッシュドノエルだった。


 これは木の形をしているケーキ、要するに木を焼いたから炭のケーキということ。


 おばあさんは、私に親近感を感じて笑っていたのだった。


 こうして私は、切り分けられていないケーキをもらったのだ。


 ……まあ、大きすぎて結局、みんなで分けたのだけれど。


 そんな思い出もあって、このケーキの作り方を教えてもらってのだ。


 パーティーの準備をしながら、お父さんが、


「そういえば、まだ帰ってきてないの?」


「まだ、店長さんの所の図書館でパーティーを楽しんでると思うよ」


 店長さんは、本屋の経営を息子夫婦に引き継ぎ、元の本屋に売り物にならない本を集めて、図書館にしている。


 今日はその図書館で、クリスマスパーティーがあった。


 そのパーティーに、私たちの娘が友達と一緒に出掛けていた。


「そっか、じゃあ今のうちにプレゼントの準備をしようっと」


 お父さんは嬉しそうに、プレゼントの隠し場所を考える。


 ――全く、子供みたいなんだから。


 それからしばらくして、ケーキも焼き上がり、パーティーの準備も終わった。


「それじゃあ、迎えに行ってくるね」


「オッケー!」


 お父さんは、隠しきれないプレゼントの箱に悪戦苦闘していた。


 それを尻目に、私は我が子を迎えに図書館に向かった。


 図書館に着くと、クリスマスツリーの根本に女の子が立っていた。


 それが、私の娘だ。


「お母さーん!」


 娘は、エプロン姿の女性の横を通り抜けて、私の元にかけてくる。


 そんな我が子を私は、向かえ抱きかかえた。


「あれ、その帽子どうしたの?」


 娘の頭には、可愛い毛糸の帽子がかぶされていた。


「モッキー君から、貰ったの!」


 ……モッキー君?あのテレビ番組のマスコット、まだ現役なのかぁ。


 私は辺りを見回した。しかし、それらしい着ぐるみは居ないだった。


 というより、図書館の内装が前の店内みたいな……?


「お母さん?」


 私の様子に、我が子は不思議そうに見ている。


「ごめんごめん、何でもないよ。お父さんが待ってるから、帰ろっか」


「うん!」


 そして、私たちは家に帰る。


 今頃、お父さんはまだ悪戦苦闘しているかしら、それとも帰りを待ちわびてるかな?


 娘と、そんな会話をしながら。




 ――時は少しだけ遡り……。




 きょうは、おじいさんのとしょかんでクリスマスパーティー。


 わたしは、友だちといっしよにパーティーにいったの。


 すごくたのしかったよ。


 それからパーティーが終わって、みんながかえって、わたしもお母さんがむかえにくるのをまっていたの。


 なんとなくクリスマスツリーのところに行ったら、木の下に星のかざりがおちてた。


『その星を僕に飾ってくれないかい?』


 わたしはビックリした、だってツリーがしゃべったんだもん。


 ちょっと怖かったけど、星のかざりをツリーさんにかざってみた。


『あぁ、飾ってくれてありがとう、お礼に面白いものを見せてあげる。』


 ツリーさんがそういったら、としょかんのなかがかわっちゃったの。


『おっと、この時間じゃなかった。ちょっと待っててね。そろそろ、モッキー君がくるから』


 モッキー君が誰なのかわかなかったけど、まわりがどんどんかわっていってこわかった。


『待たせたね、あの人がモッキー君だよ』


 ツリーさんがいったからまわりをみたら、お父さんがきてくれた。


 でもお父さんじゃなくて、お父さんそっくりな人だった。


 その人が、モッキー君なんだと思う。


 その人からぼうしをもらって、お母さんはってきかれた。


 そしたら、その人の後ろにお母さんがいて、でもその人もちがって。


 こわくて、だけどお母さんがきてくれて、お母さんの所に走ったの。


 お母さんにあえて、すごくあんしんしたよ。


 お母さんは、プレゼントのぼうしが気になったみたい。


 だから、お母さんにモッキー君からぼうしをもらったよっていったよ。


 モッキー君、ぼうしのプレゼントありがとう。たいせつにするね。




 ――おしまい。

「ぶおっふぉっふぉ、これでプレゼントを配り終わったの」

『やれやれ、渡しそびれて時を遡るじゃあないよ』

「いやいや、今回はツリーにやられたわい」

『それもそうじゃの、いったい何がしたかったのか』

「きっと、若い頃のお父さんとお母さんを見せたかったのじゃろうて」

『むう……そうなるとなぁ、あの子がこないと両親が会わなくなり、あの子が産まれてこない。じゃが、そうなるとこの事がない……うーん』

「どちらが先かなんていいんじゃよ、あまり考えるとシワが増えるぞい」

『言ったなジジィ、そんなもの魔術でなんとかするわい』

「あまり変わっとらんがのう」

『今に見ておれ、若返ってあっと言わせてやるわい』

「ぶおっふぉっふぉ、楽しみにしておるよ」




「おーいたいた、何してんの?」

『……えー、今さっきサンタクロースと魔女のおばあさんを見ました』

「えっ、それ本当?」

『ソリに乗ったおじいさんと、箒にまたがったおばあさんが、飛び立つ所を目撃しました』


以上です。

今回は、こんな話にしてみましたが楽しんで頂けたでしょうか?

それでは、また次の機会にでも。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 少し不思議で可愛らしいお話でした。
2023/07/04 16:11 退会済み
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