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7話 歓喜の出会い

 大きさは100センチネルにも達していないだろう。僕の腰からお腹の間ぐらいまでの身長しか無い緑色の化け物。額の少し上辺りには1本の角が生えており、奴らの視線は僕に釘付けだった。


「グギィィ……エサ……ミツケタ」


 僕を見ながら声を出す小鬼。片言で聞き取りづらい声だったけど、他の奴らには聞こえたのか、小鬼が現れた森の奥から新たに小鬼が現れた。全部で5体。足を押さえている僕を見て奴らは嗤っていた。


 そんな奴らを見て僕の奥底からグツグツと何かが込み上げてくる。


 実力が最底辺と言われた僕の目の前に現れた小鬼たちへの恐怖か。


 命の危険があるこの山奥ですら、最底辺と嘲笑し、坂から突き落としたトーラスたちへの怒りか。


 足を怪我して上手く動けず、木々が鬱蒼と生い茂って暗いこの山の中に置き去りにされた悲しみか。


 ……全てが違う。そんな余りにも些細な事ではなかった。僕の奥底から溢れてきたこの気持ちは……歓喜だった。こいつら鬼たちに家族や村の人たちを殺されたあの日から感じる事の無かったこの気持ちが、元凶である鬼たちを見る事で、心の奥底から溢れてきたのだ。


 恐怖? そんなものは僕の人生の目的を達成する前に気持ちが変わってしまう方が恐ろしい。


 怒り? こいつら鬼たちに会うために我慢しなければいけなかった事だ。そのためなら甘んじて我慢しよう。


 悲しみ? 父さんや母さんが死んだ時の方が悲しかった。そんな事に比べたら、こんな状況は些細なものだ。


 僕を見て嗤う小鬼たちを見て、僕も笑った。ようやくスタートラインに立ったのだ。奴らを殺せる可能性のあるスタートラインに。それなのに喜ばずにはいられないだろう。


 僕は側に落ちていた手のひらぐらいの大きさの石を掴み、気を体中に流して走り出す。突然笑い出して走り出してきた僕に、油断していた小鬼たちは動く事が出来なかった。


 そんな奴らに僕は向かい、1番初めに現れて1番僕に近い小鬼の顔面に向かって石を叩きつける。油断していたところに鼻っ面を思いっきり叩かれてグシャッと潰れる小鬼の鼻。


 顔には響いた衝撃で顔を逸らして顔を押さえようとする小鬼だが、僕はもう一回殴りつけて背中から倒れるように押し倒した。


 倒した小鬼の上に馬乗りになり、小鬼の顔に目掛けて石を持った手を何度も振り下ろす。小鬼は僕を退かせようと暴れるけど、何度も石を振り下ろしていると、次第に動きがゆっくりになっていく。


「はぁ……はぁ……」


 息が上がってきて石を振り下ろすのをやめて下を見たら、顔がグジャグジャな小鬼の死体があった。


 周りの小鬼たちもこの数分の間のあっという間の出来事だったので、助ける事も出来ずに立ち尽くしていた。


 僕が石を振り下ろすのをやめて、顔の潰れた小鬼の死体を見てようやく動き出した程だ。


「グギャァッ!! コロセッ! コロセッ!!」


 僕の方に指をさしながら棍棒を振り上げて向かってくる小鬼たち。僕は立ち上がって迎え撃とうと思ったけど、後ろから衝撃が頭に走る。


 倒れそうになるのを我慢して前へと転がる。ちらっと後ろを見れば、別の小鬼が手に持つ木の棍棒で僕の頭を殴ってきたようだ。


 前から迫ってくる小鬼が2体。僕は殺した小鬼の側に落ちていた他の小鬼が持っているような棍棒を拾う。ガツンッと左肩に衝撃が来るが、そのまま小鬼2体の間を通り抜ける。


 そのまま振り向きざまに左側の小鬼の背中を棍棒で殴る。背中を殴られた小鬼は片膝をつく。その後ろに向かって殴ろうとするけど、その横を通り抜けて別の小鬼が突進して来た。


 僕の腰を掴むように突進して来た小鬼の額には鋭い角。これをくらったら一溜りもないため、横に避けて棍棒を振り下ろす。


 バキッと音と折れる感触が手に伝わるが、小鬼はその場に倒れるだけで立ち上がろうとする。再び棍棒で殴りつけようと思ったけど、倒れている小鬼の腰巻辺りから光るものが見えた。


 やっぱり、小鬼を殴り倒して腰の物をとる。どこで拾ったのかは知らないけど、少し錆びた短剣だった。その短剣を鞘から抜いて小鬼の喉に背筋に何度も振り下ろす。


 その間、何度も僕の頭や肩に棍棒を振り下ろしてくる小鬼たち。それから僕は殴られながらも小鬼たちを殺す。


 1体殺すのに右肩を割られて、1体殺すのに右足を折られ。全部の小鬼を殺した頃には両腕は折れて、肩も折れて、足も片足折れて、体中血まみれだった。


 自分の血だけでなく小鬼たちの血も混ざってはいるけど、体中から流れるのがわかる。


 ……ははっ、鬼に出会えた嬉しさに真っ直ぐと突っ込んで袋叩きにされたせいで、もう一歩も動けないや。……もう、ここで終わりかなぁ。


 そんな事を考えていたら


「うむ、お前なら良さそうだな」


 という声が聞こえて来た。顔を上がるのも億劫なほど疲れているのだけど、その声には何故か反応しないと思い、最後の力を振り絞って顔を上がる。


 そこには銀髪の老齢の男が立っていたのだった。

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