3話 沸き上がる怒り
「おいおい、何でお前みたいな最底辺が王女様の班に選ばれちゃってるわけ? ふざけてんの? えぇ?」
ガンガンッと振り下ろされる木剣。僕は返事をする余裕もなく目の前の男、トーラスの3人いる取り巻きの内の1人、ハンザが怒りながら木剣を振り下ろしてくる。
周りにはトーラスとハンザの他の取り巻きもおり、受けるだけ逃げるだけの僕を見て、笑い声を上げていた。
僕がなぜこんな目に合っているのか。それは今日の軍事演習のチーム分けが関わっていた。
講堂での軍事演習のチーム分けが終わった放課後、チームでの話し合いはまた後日となったため、帰って訓練しようかと考えていたところ、トーラスたちに捕まってしまった僕。
内容は予想はしていたけど、ジャンヌ王女と同じチームになった事だ。彼らの建前はジャンヌ王女と同じチームになったんだから、足を引っ張る事は許さない。俺たちが鍛えてやる、というものだったが、本音は自分たちはチームに入れなかったのに、最底辺の僕が入ったのが腹立たしいから、八つ当たりがしたいのだろう。
案の定、トーラスではなくて、チームに入れなかったハンザが僕の相手をしている。トーラスに比べて実力は落ちるけど、僕からしたら2人とも変わらないくらい強い。
「ぷはぁ!! なんだよ、あの逃げ腰! ビビり過ぎだろ最底辺! ハンザ、もっと手加減してやれよ! 最底辺君ビビって訓練にならねえじゃねえか!」
「馬鹿言え! これ以上手を抜いたらそれこそ訓練にならねえじゃねえか!」
笑いながらも木剣を振り下ろしてくるハンザ。剣筋とか無く、ただ単に木剣を振り下ろしてくるだけなのだが、それでも僕は受けるので精一杯だ。
……くそ、どうしてこんなにふざけている奴らは簡単に強くなれて、死ぬ思いを何度もしながら訓練している僕は弱いんだ……。
「おら、動きが止まってるぜ!?」
「ぐぅっ!!」
少し気を逸らした隙を狙われて振られる木剣。左脇腹を狙われたのを何とか木剣で受け止める事が出来たけど、力に押し負けて吹き飛ばされる。
何度か地面を転がって土まみれになった僕。それを見てまた笑い声を上げるトーラスたち。ハンザも既に僕の方なんか見ておらず、トーラスたちの方を見ながら笑っていた。
その姿を見た僕は、気が付けばハンザに向かって走り出していた。ハンザの顔目掛けて木剣を突き出す。トーラスたちと笑い合っていたハンザは気付くのに遅れる。
これはいった! と、思ったけど僅かに顔を逸らされて僕の木剣は避けられてしまった。しかし、少し掠ったのかハンザの頰に傷がついた。薄皮一枚のほんの擦り傷。無いに等しいような傷だったけど、ハンザのプライドを傷つけたようで
「ふざけんじゃねぇぞ、最底辺がっ!!!」
僕の左頬を思いっきり殴られた。今まで感じた事がない一撃で、口の中が切れて歯が折れたのがわかる。視界が暗転してフラッとしたのだけど、ハンザは僕の喉を力任せに握り、そのまま地面へと叩きつけた。
背中から力強く打ち付けられたため、体内の空気が全て肺から抜けるのがわかる。僕は痛みと息苦しさに呻くことも出来ずに、地面の上でのたうち回る事しかできない。
「もうお前、死ねよ」
体を丸めて痛みを我慢していた僕に、そんな言葉をかけてくるハンザ。ハンザは木剣を空高く掲げて、僕の頭目掛けて振り下ろしてきた。
トーラスたちは冗談だと思っているようで笑っていたが、チラッと見えたハンザの目は本気だった。
久し振りに感じた本気の死に、いくばくかの恐怖と、それを上回る怒りを僕は感じていた。
……どうして僕はこんな奴に殺されなきゃいけない。
……どうして僕はこんな目に合わないといけない。
……まだ、父さんや母さんの怨みを晴らしていないというのに。
……どうして僕はこんなに弱いんだ。
トーラスやハンザたちの理不尽な暴力に、もう復讐が出来ないかもしれない悔しさ。そして何よりこんな奴らにすら太刀打ち出来ない自分の弱さに、どうしようもない怒りが湧いてきた。
しかし、そんな事を思っても、振り下ろされる木剣は止まる事はない。僕に出来るのはハンザを睨む事だけだった。
「何をしているっ!!」
しかし、木剣が振り下ろされる事は無かった。突如訓練場に響く声。綺麗ながらも鋭い声に、全員が固まった。
トーラスやハンザたちが声のした方を見ている間に、僕は少しでも楽なようにうつ伏せになる。そして横目で声のした方を見ると、そこにはジャンヌ王女が立っていたのだ。
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