2話 チーム分け
鬼
300年ほど前からこの世界に現れたと言われている異形の生き物たち。現れた理由や原因はわかっていない。何らかの実験で人間が突然変異した物が、繁殖して増えたとも言われているし、別の世界から侵略のために来たとも言われている。
突然現れた鬼たちは、小さな村を襲う事から始まり、瞬く間に数を増やし、100年近くで大陸の3分の1を支配していった。位は小鬼、中鬼、大鬼、超鬼まで確認されており、超鬼までなると、国が総出にならなければ倒せないほどの強さを持つ。
そんな鬼たちに襲われて、ようやく危機を感じた残った国の中でも特に強大な国々『八天国』は各国で同盟を結ぶ。それぞれの国の技術を提供して、鬼の侵入を防ぐため街ごと覆った壁を築き上げ、鬼に対抗するために武器の開発を進めていった。
その上、各国は自身の国の対鬼用の兵士を育てるために、それぞれ学園を創立する。全ては鬼を根絶やしにするため。そのためだけに創られた実力主義の学園が、8つ存在する。
学園に入学した生徒たちを討鬼生と呼ばれ、学園を卒業し、対鬼用の軍に入隊した者たちを滅鬼者と呼ばれた。それらが集まる軍隊を滅鬼隊と呼ばれる。
対鬼のエキスパートである滅鬼隊が育ち、鬼たちと立ち向かえるようになったのが、今から100年前の事だった。
◇◇◇
「よくぞ、集まったアルナタリア学園の諸君。私の名はラグラス・ガンダルフだ。アルナタリア王国王都支部長であり、アルナタリア王国滅鬼隊総司令を任されている。今回は、軍事演習の事について話させてもらおう」
身長が200ほどで、白髪で顔の中心に斜めの傷がある40代の男性、ラグラス・ガンダルフ総司令の話が始まる。20代の頃は前線で滅鬼隊として活躍し、超鬼と呼ばれる1体倒すのに軍が必要になる鬼を討伐した事のある生きる伝説だ。
僕たち、対鬼用に創られた学園、アルナタリア学園の2年生は、毎年恒例の軍事演習の説明のために、講堂へと集められた。
「ここに集まって貰った君たちには、毎年恒例ではあるが、この王都から西に2日ほど歩いたところにある山まで軍事演習を行ってもらう。基本は我々滅鬼隊のサポートは無いものと考えて欲しい。自分たちで考え、話し合いながら進めるのが目的だからな」
この学園に入れば、避けては通らない訓練の1つ。訓練をするのは僕としては問題ない。最底辺と最悪な汚名があるが、それは、実際に実力がないからで、汚名を返上するために訓練は欠かせないからだ。ただ、問題なのが……。
「先輩から話を聞いている者もいるかもしれないが、この演習はチームで進んでもらう。チームは2年生の君たちの成績などで、各チームが平均になるように作られている。今から各チームの隊長を呼ぶため前に出てくるように」
そう、軍事演習はチーム毎に分けられて行われるのだ。学園で最底辺と呼ばれる僕からしたら、これ程辛いものはない。
「ジャンヌ・フォン・アルナタリア」
「はい」
そんな事を考えていると、周りがざわざわと騒ぎ始める。理由は何となくわかった。今呼ばれた人物が隊長になったからだ。
ジャンヌ・フォン・アルナタリア。名前の通り、この王国、アルナタリア王国の第1王女であり、学年1位、学園で4位の座を持つ、トップレベルの学生だ。
日に当たるとキラキラと輝く銀髪の髪を腰辺りまで伸ばし、宝石のような蒼い瞳は鋭利に思えるほど細められていた。ただ、その視線がカッコいいと言う人もいる。
まあ、男子生徒からしたら、人形かと思わせるほど途轍もなく美人な上、スタイルも凄い。制服を着ているのにわかるほどの胸に、キュッと引き締まった腰に丸みの帯びたお尻。この女性だけで、どの部位が良いか派閥が生まれるほどだ。
学園2位の3年生のあの人と並べられて女神と崇められているそんな人のチームに入る事が出来るかもしれないと、皆が浮き足立っている。僕は正直どうでも良かった。どのチームに入っても、どうせ僕の扱いは変わらないだろうから。
隊長の中には幼馴染であるミーアとジークも含まれていた。ミーアが前に出ればジャンヌ王女ほどでは無いけれど歓声が上がり、ジークが前に出れば女性陣からの声があった。僕は2人のチームにならない事を祈るだけだった。
隊長は20人選ばれて、そこに成績を平均して人を振り分けられるらしい。1チーム10人から9人になるように選ばれるという。
前に出た隊長が順番に、手渡された紙に書かれている名前を読み上げていく。ジャンヌ王女が読み上げる前に読まれた学生は落胆の声を上げて、読み上げた隊長に怒られているのが見える。僕的には後ろの方にミーアとジークがいるため、早めに呼ばれて欲しい。
しばらく読み上げが続いて、ようやくジャンヌ王女の番となった。今まで騒がしかった生徒たちが一気にシーンとなる。
ジャンヌ王女の綺麗な声で次々と読み上げられる名前。呼ばれた生徒は歓喜の声を上げて、呼ばれなかった生徒はその生徒に対し怨嗟の目を向ける。
「よっしゃゃぁぁっ!!!」
そして、僕の近くから大きい声で喜ぶ声が聞こえた。振り返ると、トーラスがガッツポーズをしていた。よかったぁ。これで彼とは別のチームになれる。僕は勝手にそんな事を思い油断していた。
「アルト」
僕の名前が呼ばれるまで。呼ばれた瞬間、自分が呼ばれているとは思わず下を向いていたのだが、再びジャンヌ王女に呼ばれたため、顔を上げるとジャンヌ王女と目が合う。
ジャンヌ王女は首を傾げて僕を見てくる……えっ、まさか僕が呼ばれた? 周りの生徒たちも初めは誰が呼ばれたのかわかっていなかったけど、僕の姿を見てざわつき始める。
そして、ジャンヌ王女のチームに並んでいるトーラスからは睨むだけで殺せると思わせるほどの視線が向けられていた。今回の演習は無事には終わらないと確信した瞬間だった。
……下手すれば、演習までに死ぬかもしれない。
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