1話 最底辺の男
よろしくお願いします!
「……あ……あぁ……」
僕は何も出来なかった。
いつも畑から取れる野菜をくれるお兄さん、毎朝笑顔で手を振ってくれる隣のお姉さん、小言ばかり言ってくるけど最後は優しく頭を撫でてくれるお婆さんに、誰よりも綺麗で優しかった母さん、村で1番と言われ強かった父さん。みんなが僕たちを守るために死んでいった。
さっきまでみんなで楽しく過ごしていた家は燃え崩れて、僕たちが過ごしていた思い出ある村には奴らが暴れ回っていた。
僕たちを逃がすために残った父さんと母さんの叫び声。あの声がずっと耳に残っている。もう僕の耳から消える事は無いと思わせるほどこびりつくように。
腕を引っ張られる感覚があったけど、僕はジッと燃える村を見ていた。この光景を忘れないように。この、心に燃え移ったドロドロと燃え上がる黒い炎を消さないように。
◇◇◇
「……げほっ……げほっ」
「おいおい、鬼どもを根絶やしにするんじゃ無かったのかよ、最底辺君!?」
倒れる僕の頭を踏み付けてニヤニヤと笑みを浮かべる同年代の金髪の少年。僕は抵抗するように頭を踏む足を掴むけど、その手を払うように足を振られて、腹を蹴り上げられる。
気力で強化しているとはいえ、僕程度の気力では、学園で50位の彼の蹴りを防ぎきる事は出来ず、何度も地面を転がり、嘔吐する。その姿を見てまた少年は笑い出す。
少年だけじゃ無い。この一方的ないじめに近い訓練を見ているクラスメイトたちからも嘲笑が聞こえてくる。
誰もこの訓練を止める事は無い。それどころかもっとやれと野次が飛ぶほど。その事に僕は何も言うことができない。言ったところで止める事が出来ないからだ。
最底辺……このクラスだけでなく、学園中で言われている僕の最悪な二つ名だ。この学園は弱者を許さない。
「最底辺君さあ、そろそろ学園やめたら? 君みたいなの、いてもいなくても同じどころか、いられる方が迷惑だからさぁ! 外で鬼と戦っても死ぬだけだし、そのせいでこっちが迷惑なんだよね。死にたいなら誰もいないところで死んでよ」
少年……トーラスがそう言うと、周りのクラスメイトもその言葉に同調する。僕はあまりの悔しさに涙が出そうになるけど、歯を食いしばって我慢する。泣いたところで結局はこいつらを喜ばすだけなのだから。
それから一方的な訓練は何度か殴られ蹴られて終わった。全身ボロボロで痛みを感じないところがない程だ。それどころか痛過ぎて痛みを感じない部分まである。
関連の授業はいつも午後の最後の時間にあるため、クラスメイトたちはもう帰っている。痛みで倒れる僕はそのまま訓練場に放置されたまま。
気力を体に流して治癒力を高めて何とか動けるようになるまで2時間はかかった。僕が起き上がった頃には既に夕暮れ時の時間帯だった。
本当は保健室に行って治療したいのだけど、出禁になってしまっているので使えない。理由は使用頻度が多いからだと。しかも、実力があるならともかく、実力もない奴に使うほど、資源は無いとまで言われてしまった。それから、保健室には行っていない。
僕はまだ痛む左足を引きずりながら校内を歩く。もう夕暮れ時のため、校内に学生の姿は殆ど見られない。ただ、全くいないわけじゃ無い。
「……ふぅ、今日は勝てそうな気がしたんだけどね、ジーク」
「ははっ、まだまだ負けるわけにはいかないよ。負けたら君を守る事が出来なくなるからね、ミーア」
汗に濡れた額や首元をタオルで拭きながら笑みを浮かべる赤髪のポニーテールの女性と、全く汗をかいておらず、優しげな笑みを浮かべる金髪の男性。
その2人を見ていると、ズキリと胸が痛む。痛みには慣れている筈なのだけど、いつもこの痛みだけは我慢出来ない。
何とか胸の痛みを顔に出さないようにしていると、向こうは僕に気が付いたようで、赤髪の女性、ミーアは嫌そうな、何処と無く辛そうな顔を浮かべて、金髪の男性、ジークは笑顔を浮かべていた。
「……まだ、学園にいたのね、アルト」
「やあ、アルト! こんな遅くまで訓練なんて流石だね!」
対照的な反応をする2人。その2人に僕は笑みを浮かべる。顔が引攣らないようにするのが難しい。
この僕の居場所がないと思える学園で話しかけてくれる2人は、僕の幼馴染だ。同じ村の出身で、いつも3人でいた。
ただ、あの事があってから、この学園に入る事にした僕たちなのだけど、たった1年でかなりの差が開いてしまった。それこそ、普段は僕の方から話す事が出来ないくらいに。
「は、はは、まあね。それじゃあ行くね」
僕はまたズキリと痛む胸を押さえながら2人の側を通り抜ける。ジークの声が聞こえて来たけど、僕はそれを無視して教室へと帰って来た。
教室には当然誰もおらず、僕の鞄だけ残されている。ただ、鞄の中身は机の上にばらまかれて、びしょびしょに濡れていた。
僕はそれをしばらく見てから鞄へと入れる。鞄が濡れるけど、何度もしている事だから気にしない。胸の痛みが増す中、僕は帰路につくのだった。
何らかのコンテストに出したくて書きました!
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