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人生カスタマーセンター 〜さぁ、人生変えてみませんか?〜  作者: 晃夜
一章 奴隷少女を解放せよ
15/21

番外編 佐咲瑠希の受難

 ことの発端(ほったん)は、七瀬(ななせ)が発した余計な一言だった。


「ここってさ、イメージキャラクターとかないの?」


 いつもなら見向きもされないはずの七瀬の馬鹿な一言が今日は何故か(理由:酔っていた)胡桃(くるみ)のツボにはまり、「いいですねぇーやりましょう!考えましょうイメージキャラクター!売り上げアップです!あはは」とこれまたいつもなら考えられない脳みそ空っぽかよと思わずツッコミを入れたくなるような胡桃の一言で開催された本会議。来栖(くるす)は渋々、日永田(ひえいだ)は心なしか少し面倒臭そうな様子で、しかし拒否権などなく参加決定。もちろん俺も胡桃に誘われ(嬉しくなんかない)参加決定した。

 部屋中央の机に七瀬が高校で使っているらしいスケッチブックを広げ、胡桃がどこかから極太のペンを持って来て、人数分の飲み物が用意された。

「人生カスタマーセンターイメージアップ大作戦&会議」(七瀬命名)は、深夜十二時ぴったり、日付が変わると同時に開催されたのだった。

 うん、まぁ胡桃の様子がおかしい(ハイテンションな)時点でやばいと思ってたから、事前に家に連絡は入れてあるんだけど。




「んー、どーしよっかー、とりあえず一回一人で描いてみる?」

「そーですねぇ、そうしましょー!」


 首謀者二人組はそう言って早速ペンを持つ。来栖も日永田ももう歯止めが聞かないことは察しているのだろう、大人しくペンを取っていた。この女子二人は暴走すると止まらないのだ。諦めて大人しく言うことを聞くしかない。胡桃も普段は冷静で聡明な常識人(多分)なんだけど、酒を飲むと何故かこうして暴走する。そうなったら終わりだ。普段はこうならないように来栖と酒を隠しておくのだけど、今回胡桃に贈られてきた(胡桃は職業柄お礼みたいなものを贈られることが多い)チョコレートに偶然アルコールが入っていたらしくこのザマである。大失態。

 七瀬が一人に一枚スケッチブックの紙をちぎり、(強制的に)渡される。


「えーと、ここってカスタマーセンターでもあるけど寅松(とらまつ)探偵事務所でもあるんだよね?虎モチーフとか入れたほうがいいのかな?」

「別に好きで寅松やってるわけじゃないんですけどねー」

「とか言って、前世虎だったりして!」

「あっははははっ」


 そう言ってはバシバシと机を叩いて笑う。机の上に置かれたグラスやらカップやらがガタガタと音を立てても、今の二人には全く気にならないらしい。「ねぇそれ何描いたの?」「虎です!」「猫じゃん!」「虎ですよ!」「猫だって!」少しの間睨み合っては、数秒後にまた笑い出す。本当に何が楽しいんだか。それも作り笑いでなく本当に楽しそうに笑ってるもんだから、余計に対処のしようがない。七瀬の過去や胡桃の欠陥を知ってしまっている俺たちには、二人の楽しそうな時間を邪魔する権利は与えられていないのだ。

 うるさいし早く終わって欲しいけど、こんな時間が永遠に続けばいいとも思ってしまう。理性だか損得勘定やらを抜きにした矛盾が、脳裏をふとよぎった。

 まぁ、そうは言っても日永田は最近入って来たから二人の事情なんて全く知らないんだけど。というか俺だって日永田のことはあんまり知らない。奴について熟知しているのは、せいぜい来栖くらいと言ったところだろうか。胡桃も胡桃でここに入れる前に必要最低限の下調べはしたんだろうけど、来栖の知り合いということで判断基準が緩くなったのか、はたまた興味が湧かなかったのか、奴について話しているところはあまり見たことがない。理由は多分後者だ。胡桃の来栖大好き病は文字通り病気レベルのものだけど、しかしそれだって本人だけに適用されるものなのだろうから、日永田が来栖の学生時代の後輩だろうがなんだろうがあんまり関係はない。と、推測する。


「るっきー、なにぼーっとしてんの! ほら、描いた描いた!」


 七瀬にバシッと背中を叩かれた。いやお前テンション高すぎな。とは言わずに大人しく白い画用紙とにらめっこする。うーん、ずっとこうしていたらいい感じの絵が浮かび上がって来たりしないかなー。もちろんそんなことが起こるわけもないので極太ペンのキャップを開けた。ほのかにインクの匂いがする。

 で、ペンを持って画用紙とにらめっこすること約五分。

 まー、何も浮かばない浮かばない。変化といえば画用紙の表面のデコボコが変な模様に見えてきたくらいで、俺の脳は完全に思考を停止していた。ガチのにらめっこだった。あ、なんかデコボコが顔みたいに見えてきたぞ。笑ってる?笑ってる?絶対笑ってるわこれ。いぇーい俺の勝ちー。

 ......虚しいだけだった。

 隣の画用紙を覗き込んでみれば七瀬の壊滅的......個性的なタッチで描かれた虎(?)がこちらを見て笑っている。ように見えた。なんだよなに笑ってんだよ、と心の中でケンカを売ると今度はそいつに赤いメガネ(のようなもの)が描き足される。え、あー、胡桃の。胡桃の眼鏡を描いたんだ。わかるよ、ギリギリわかるけどさ、多分それ他の人が見たら絶対わかんないよね。もうちょっとこう、一般的な人に向けた感じの絵を描いてもらえると嬉しいかな。

 白紙の画用紙とインクの乾き始めたペンを持った俺には当然言えるはずもない言葉である。


「あー、私七瀬ちゃん描きますー」

「じゃあ私も胡桃さん描くね!」


 ハイ、とうとう始まりましたー。ただのお絵かき大会ー。たまーに開催されるやつな。これももちろん止める術はない。

 助けを求めて来栖に目線(テレパシー)を送ってみる。


(どうにかしてよこれ......)

(無理だろ。諦めろ)


 悪徳詐欺師はそう(心の中で)言って静かにコーヒーをすすっていた。ふざけんな。

 こいつじゃ埒があかないので日永田にも目線(テレパシー)を送ってみる。


(助けて日永田)

(無理)


 成人済み無職もそう(心の中で)言って静かに雑誌を読んでいた。表紙には「有名女優 不倫騒動」の文字。話題が暗いわ。

 はぁ......どいつもこいつも。


「ちょっと男子ー!真面目に考えてくださいー!」


 胡桃がおどけた口調で言う。いや、一番ふざけてんのあんたらだから。何学生気分に浸ってんの。ともまぁ当然言えずに男性陣はまたペンを持つ。諦めて胡桃が寝るまで耐えようと、初めて三人の考えがシンクロした瞬間だった。と思う。




 結局それから女子二人は数十分ほど騒ぎ立てると満足したらしくあっさり寝てしまった。まったく、いいご身分である。その後、カフェインを摂取した来栖と昼まで寝ていた日永田はそう簡単に眠れるはずもなく、いやそこまでは理解できるんだけど、何故寝かけていた俺まで叩き起こされたのかは今考えても不思議で仕方ない。なんだよ、お前らで勝手にやってりゃいいじゃんかよと抗議しても全く聞き入れてもらえず、ポケットサイズの怪獣たちにボールをぶつけて拉致するゲームを夜が明けるまで三人で続けた。色違いの怪獣を二体捕まえた。

 こんな日が月に一回くらいのペースで訪れるもんだから、人生カスタマーセンターの情報担当とやらもなかなか苦労が多いのである。


 ま、悪くはないんだけどね。

そろそろ二章が始まります。多分。

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