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魔法使いの場合

「治癒術師エリカ。おまえを追放する」


 そう聞いた時、アタシは言葉の意味がまったく理解できなかった。

 そしておもった。


 ……こいつ、頭湧いてんじゃないの?


 エリカは治癒術師。前線に立つことは確かにない。

 それは後衛のアタシも同じ。アタシは一歩下がったところから魔法で攻撃を加える役割。「安全な所から」とエリアルには嫌味を言われるけど、戦局を見渡して味方が動きやすいよう敵を牽制し、隙あらば攻撃魔法でダメージを与え、防御魔法で反撃を防御。消耗がひどい味方を回復したりもする。けっこう大変な役割なのだ。


「その割にみんな、認めてくれないのよねえ」

「うんうん、わかりますよニーナさん」


 宿屋に泊まると大抵はアタシとエリカ、弓術士のミライが同部屋だ。当然、女子会になだれこむことになる。

 しゃべっているのはだいたいアタシ。ミライは無口だからもっぱら飲み専門。

 で、必然的に絡まれるのはエリカ、ってことになる。


「だいたいあの勇者ってばさあ、何さまのつもりなのよ!? ちっとばかし魔法が使えるからってさあ。知った風な口ばっか! あんたが思ってるほど魔導の道はやさしくないのよ!」


 勇者はだいたい剣で戦うものだけど、神さまの手厚いご加護のおかげでちょっとは魔法も使える。いや、客観的にみれば、ちょっとってレベルじゃない、かなり使える。

 そのせいか、アタシのやり方にもいろいろ口を出してくるんだけど……。


 こちとら、魔法のエキスパートなのよ。この道ひと筋何十年――何年かは敢えて言わないけど――のプロフェッショナルなのよ。詠唱ひとつ、魔法陣ひと文字にだってちゃんと意味があるのよ。はっきり言って、あんたみたいな「にわか」と一緒にしないでほしい。


 って散々言ってるのに。

 特にエリアルは「連携」っていうことを考えない。何のためにパーティで戦ってると思ってるのよ!?


「エリカもそう思うでしょ?」

「ええ、まあ。でもエリアルさんにはエリアルさんのお考えがあってのことと思いますし……」


 困り顔で応えるエリカは、可愛い。茶色の髪と茶色の瞳。とても地味なんだけど、可愛いのよね。だぶだぶのローブが特に。

 だから何となくいじりたくなっちゃうんだけど……でもこの娘、見た目通りの治癒術師じゃない気がする。何となく。アタシの勘の奥深いところがいつも警告を発するのよね。


「ところでニーナさん。明日はオフだから薬草採ってきますね」

「あ、悪いわね」


 戦場で戦うばかりがバトルじゃない。下準備だって大事だ。

 アタシの役割はポーションの調達。簡単なものなら自分で薬草から作っちゃうんだけど、中級以上だとそうもいかない。立ち寄った街で調達することになる。

 当然調達資金が必要なわけだけど……。


「なんでそんなに必要なんだ?」

「なんでって……あんただって戦闘中に使ってるでしょ? 場合によっちゃ死活問題なのよ?」


 そりゃあんたは勇者だから戦闘力も回復力もずば抜けてるけどさあ、ほかのメンバーはそうじゃないのよ。場合によっちゃ死ぬのよ、マジで。命がけなの。

 その命を繋いでるのがポーションであり、アタシやミライの回復魔法であり、エリカの治癒魔法なの。ほんとにわかってるのかしら。


 その頑固な勇者さまをなだめすかして、時にはちょろまかして資金調達してくれるのが、エリカ。いやあ、いつも助かってます、ほんと。

 アタシも手が空けば薬草を煎じてポーションにしたり、薬を作って売りさばいて資金を作ったりしてるけど、エリカはそれも文句も言わず手伝ってくれる。


「だってニーナさんにばかり押し付けたら悪いじゃないですか。パーティのためなんですからみんなで協力しないと」

「エリカぁ。あんたってばほんといい娘だねえ」


 思わずエリカを抱き締めて、頭をなでなでする。ああこの抱き心地。安心するわあ。治癒術師だけに、何かヒーリングのオーラでも出ているのかしら?


 その他にも日々のごはんを作ってくれたり、みんなの衣服を繕ってくれたり、時には、


「ニーナさん! 新作のネイルのジェルです!」

「おおお、これは! どこで手に入れたっ!?」

「王都から来てた行商人さんが持ってました。最後のひと瓶ですって!」

「よくやったっ! エリカ、グッジョブ!!」


 きゃいきゃいはしゃぐ女子組。何も言わないけど物欲しそうな目をしているミライの爪にも塗ってやって、ご満悦の女子三人組に男どもはあきれ顔だが、かまうもんか。だいたいそういうのをお世辞でも褒めてやらないから、あんたたちはモテないのよ。


 そんなこんなで、エリカには戦闘でも後方でも、直接的にも間接的にも、ずいぶん助けられてきた。エリカに愚痴を聞いてもらえてなかったら、アタシはとうに爆発してここを飛び出していたかも知れない。


 それでもこのパーティに居続けたのは、やっぱり勇者のパーティだから。

 世界を救える力を持つ者、勇者。悔しいけどそれは事実だ。

 それをサポートするパーティは、生半可な実力では務まらない。勇者のパーティに所属していること自体がステータスみたいなものだ。

 だからアタシは今ここにいることに誇りを持っている。それに相応しい腕と知識と魔力を持っていると自負している。多分みんなそうじゃないかと思うんだ。


 けど、当の勇者はアタシたちのそんな心情など斟酌してくれない。提案は聞かないわ文句ばかり言うわ、時には人格否定するようなことまでやってのける。


 以前立ち寄った村でパーティに加わった女の子がいた。ソニアって村娘で、三つ編みの茶髪でエリカと同じくらい地味な娘だったけど、けっこう有能だった。薬草に詳しくて煎じ薬を作るのを手伝ってくれたり、テイマーのスキルもあっていろいろ助けられてた。ま、ほんとはザックについていくのが一番の目的だったみたいだけどね。いひひひ。


 でもその娘も、エリアルは追い出してしまった。戦力にならないと言って。

 そして今度はエリカだ。


「もう我慢の限界だわ。身のほどを思い知らせてあげる」


 魔法戦で叩きのめしてあげるわよ。専門職の魔法使い、一流の技と知識をたっぷり味あわせてあげるから。なに、死ぬことはないわよ。手加減できるくらいの実力差はあるし、後でエリカが治してくれるでしょ。まだ仲間だと思ってくれているなら、ね。




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