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「えーと、これより『定例会議』を行います。一同、起立、気を付け、礼!」


「それ必要なのか?」


「雰囲気作りのために必要なんですー!」


 全く、これだからギルマスは脳筋なんだ。いつまで経ってもゴリラからクラスチェンジ出来ないんだよ!


「えーと、まずは初等科から高等科まで順番に報告して、魔術科、教育科がその後に報告、重要な部屋をネームドの担当者が報告、反省点や質問など。ギルマスは随時問題点を洗い出すのと、王子の反応はどんな感じだったか。また、王国側の反応なども報告お願い」


「おう」


「んじゃ、まずは初等科かな? 報告は――リーダーのサクラね」


 シチューから盛り上げ役まで、様々な場面で活躍してくれたあのシルキーは、遂にはニックネームをサクラと決定した。


「はい、問題ありません。見知らぬおもちゃなどに大興奮でした。壁に落書きをしてしまうので、コクバンのような大きな消せる板が欲しいです」


「あ、分かった。それは後で設置しておく」


「あとは初等科に幼児も含まれているのですが、少し厳しいです。子育て用の部屋と人員の配置を検討して貰えませんか」


 なるほどなるほど。サクラは唯一、僕に対して物怖じせずに意見を述べてくれる人だ。こういう人材は貴重だね。


 幼児科とか作れば問題ないのかな?


「了解。幼児の年齢とか詳しく調べないと。新しい環境での就寝は問題ない感じ? お風呂とかは?」


「えぇ、温かい食事やフカフカのお布団に感動する、という事は低学年なのであまりありませんでしたが、スゴいスゴい、と言っていました。とても幸せそうです。以上です」


 なんか安心した。孤児たちを勝手に住まわせたりなんかして、余計なお世話になっていないか不安だったのだ。


 まぁ、そうするしか元の世界に帰る手段がないのなら、迷わず選んでるだろうけど。


 次は中等科だ。リーダーは最初に呼び出したシルキーのうちのもう一人、ヨモギだ。


「次、中等科。ヨモギ宜しく」


「はい。中等科では少し大人な子供たちなので、落ち着いた子も多かったです。ですが、体力がつき、危ないことをしたがる年頃なのだと良く分かりました。早急に体育館の開放をお願いします」


「うん。今日は自己紹介みたいなものだったからね。明日からは普通に開けるよ。他には?」


「文字を覚えていない子が殆どでした。明日から文字と計算を覚えさせるようにします。なので教材が欲しいです」


「おーけー、用意しとく。あとはない?」


「あ、以上です」


 体育館の開放、と後は、文字を覚えやすい教材、か。カルタとか?


 お次は高等科。リーダーはブラウニーの執事風の方。ニックネームはラウル。


「次、高等科」


「高等科では選択する科目を全員が選び終わりました。高等科は既に成人に近い園児もいますので、科目を優先して進める予定です」


「了解。他には?」


「教材の準備をお願いします。以上です」


「おっけ。次、魔術科か。ラミレア、お願い」


「はい。クラス-1、2、3、共に異常はありません。属性の統計を纏め終わりましたので、それぞれの教材の用意をお願いします。以上です」


 そう。このラミレア、あのしどろもどろは演技なのだ。ビックリだよ、マジで。


「次、教育科。オレア」


 オレアはケット・シーのオスだ。頭が良く、いわゆる頭脳派と言う奴なんだそう。


「はいニャ。ミゃー、特に問題にゃいのニャ。マニャーと礼儀作法は教えるのニャ。いじょー」


「マナーな?」


 コイツに教師が勤まっているのかどうか。


「次、ミミたん、シロ、ソーダ。順番にお願い」


「じゃあ、まずは俺からな。まぁ、つっても体育館の管理は余裕だな。備品のチェックも終わったし、騎士の奴ら? も、訓練してったんだが、圧勝だったな」


「おう、マジか。殺してはない?」


「当たり前だ」


 そりゃそうか。そんな事したら、今頃大騒ぎだし。


「影が薄い奴は拉致ったがな」


「うぉーい!?」


「……冗談だ」


 薄らと笑うソーダ。コイツ、少し余裕が出来てきたのか? ブラックジョークをかましてきたぞ。


「次は儂かの? 学習部屋も図書部屋も、問題ないぞ? どちらも静かで良いのぉ」


 森の賢者様はお気に召されたようです。


「えと、遊戯部屋も、飼育部屋も、おーるぐりーん、です」


 誰だ教えたの。あ、コアさんか。覚えたての言葉を使いたがるのは異世界でも共通なんだね。


「次、ギルマス。王子と王国側の反応はどう?」


「王子は自分の護衛がコテンパンに、しかも手加減されて帰って来たもんだから、苦笑いだったな。王国側は、まだ様子見のようだ。宰相は、金を掛けずにあの規模の建物を建てられるのか、って喜んでたみてぇだな。多分、乗り気だ」


 やったね。幼稚園のサイズ、デカくしておいて良かった。宰相さんを味方に付けただけで3倍の価値がある。


「こっちの経営が軌道に乗ってきたら、孤児の受け入れ数を増やして欲しい」


「それはもちろん」


 やるからには最後までやるよ。自分が元の世界に帰っても、この国の孤児が困らないようにしておかないとね。そのためにも宰相さんは味方に付けておくべきだな。ギルマスもこちら側に必要だ。割と有能だしね、脳筋だけど。


 そろそろ、あの質問をしておくべきか。


「それで、ギルマスに質問があるんだけど」


「なんだ?」


「孤児達の親は何処にいるの?」


「……」


「親が亡くなって孤児になる子もいるかもしれないけど、みんながみんなそういう訳じゃないでしょ? そういう子達って、親にはどう説明したの?」


「その……『王命だ』と」


 王命。国の最高権力者の命令。引き剥がされた子供とその親。


「ソーダ、ルルに明日は忙しくなるって伝えて。シロ、こっちは任せる。ラミレア、明日は魔術科欠席するから」


「「「……」」」


 静まり返る会議室。でも、そんな事を気にしてる場合じゃない。


 今からでも遅くない。謝って来なくちゃ。


 ***


「は〜、終わったー!」


「良かったな」


 という訳でね。親御さんの方は成人科を作って、活動内容としてダンジョンの仕事を手伝ってもらうようにした。例えば、農作業だとか、飼育部屋で餌やりだとか、園内の庭掃除だとか。子供たちとなるべく近い距離に置きたかったんだよね。


「マスターが終始暗い顔してる、ってモンスター共は不安がってたぞ」


「ご迷惑をお掛けしましたー」


 でもさ、僕のせいで親子が離れ離れになった、って思ったら、そりゃ暗い顔にもなるよね? 王命としか言わないギルマス側にも非があると思うんだけど。


「なぁ、少し買い物してったらどうだ? お前、こっちに来てから仕事しかしてねぇんじゃねぇの?」


 ダンジョン・マスターになってから、早く帰りたい一心でここまで突っ走って来た。だが、たまには息抜きをしろ、とギルマスは言う。


「別に。向こうでも仕事しかしてなかったし、全然苦じゃないけど」


「なら尚更行ってこい。面白ぇモンがいっぱいあるらしいぞ」


「ふーん」


 気付けば、屋台や商店が沢山並んでいる。ギルマスがスタスタと先導して歩くから何かと思えば、こういう事だったのか。


「ここはソルブィスト王国随一の商店街だ。楽しんでこい」


 護衛兼賑やかし要員として、ルルとスライムをそばに侍らせる。ネームドは眷属召喚で何時でも呼べるので、またその時で良いだろう。


 ルルは右肩に、スライムは抱っこする。ちょっと重たいけど、冷たくて気持ちいい。今は季節的に夏のようで、前の世界の東京ほどジメッとした暑さはないが、直射日光がキツい。


 商店街を歩き始めると、あちこちから声を掛けられる。何処も客引きで忙しいようだ。


「ってか、お金持ってないけど」


『DPを貨幣と交換することが出来ますよ』


 あ、ダンジョン・コアの声って離れてても聞こえるんだ。


『当然でしょう。ダンジョン・マスターと契約を結んでいるのですから』


「へぇ。それで、交換って?」


「ソルブィスト王国には、3枚の硬貨と2枚の紙幣があります。銅貨、銀貨、金貨、ソルブ札、イスト札の5つです。それぞれ、1DP、10DP、100DP、5000DP、5000DPです。ソルブ札はソルブィスト国内のみで使え、イスト札はソルブィスト王国やザーガィスト帝国など、国名の後半に『イスト』と付く国で使えます」


「5000DPでどっちも同じだけど、紙幣の価値自体は同じなの?」


『いいえ。イスト札は共通紙幣なので、価値がその時々で変動しますが、DPは変動しません』


「なるほど」


 なんかそういう所とかリアルだね。DPが変動しないってことは、株みたいな? その仕様を利用して儲けられるかもしれないし、損するかもしれないんだね。


「交換する時はどうすれば良いの?」


『交換する貨幣と枚数を唱えた後に、『交換』と唱えます』


「試しにやってみるか……。銅貨1枚、ソルブ札1枚で、【交換】」


 手のひらにキラキラしたものが纏わりつき、そのキラキラが貨幣に変わる。ちゃんと銅貨とソルブ札が1枚ずつ乗っかっている。


「さて、何を買おうかな」


 異世界の食べ物とかは食べてみたいよね。なんかモンスターのお肉とか売ってそう。


「……まぁ、すぐそこのお肉屋さんに『オーク肉』ってデカデカと書かれてるんだけどさ」


 銀貨10枚ほどするらしいので、割と高級なのが分かった。因みに、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚になるそうだ。ソルブ札は金貨50枚ほどだそう。


 オーク肉って、あのオークだよね? 豚頭の、人型タイプ?


「まぁいいや。次、武器屋さん」


 一応、ダンマスなんだし自分の武器くらい持っておきたくて。でも、カタログには僕のサイズに合う武器がないんだよね。それに、レア度を順に解放していかないと種類も中々増えない。なので、武器屋で高レア度のものを仕入れて、レア度を一気に解放しちゃおうと思う。


 ダンジョンのカタログは、外部から高いレア度のものあるいはモンスターを入手することで、レア度を解放することが出来るのだそう。例えば、侵入者から得た武器や防具とかね。


「いらっしゃいませ〜」


 武器屋に入ると、笑顔のセールスマンみたいな人が擦り寄ってくる。


「お客様、本日はどのような武器をお求めでしょうか」


 僕を見た目で判断しない人はそうそういない。なので少し驚いたのだが、この世界はファンタジーなのだから、見た目と実力が一致しないのなんてザラだ、とギルマスが言っていたのを思い出す。


「この身長でも扱える魔法用の杖と、弓矢、ナイフ辺りが欲しいです」


「畏まりました。幾つかご用意させて頂きますね」


「はい」


 セールスマンが慌ただしくカウンターと店の奥を行き来する。初めに小さな箱を沢山持って来た。


「こちらがナイフになります。お客様のお手に馴染むものはございますでしょうか」


 そう言いながらどんどん出して行くセールスマン。どれどれ、デザインも様々、斬れ味や素材も特にこれと言って統一されていない。


「一応護身用なので、携帯しやすいサイズが良いですね」


「では、このくらいの大きさでしょうか。こちらなら機能性も高く、解体から素材採取まで何でも出来ますよ」


 黒を基調とした、ダーティーな感じ。


「他にはあります?」


「他にはですね……。あ、こちらはいかがでしょう。少しお高いのですが、特殊能力が付与されています」


「特殊能力?」


 取り出したのは無色透明なナイフ。ガラスのように透明だ。


「属性吸収という特殊能力です。お客様、属性は何かお持ちで?」


「一応、氷雪属性を少し……」


「左様ですか! さぞ高名な魔術師なのでしょうね」


「いえいえ」


 本当はもっと持ってます、なんて言えないよね。この雰囲気だと。


「お客様の魔力を流し、詠唱を唱えます。私の場合は風属性なので、【風刃(ウインド・カッター)】などですかね。これで、風の斬撃を飛ばす事が出来たりだとか、物理耐性のあるモンスターに効きやすくなりますよ」


「へぇ」


 取り敢えずこれに決めた。支払いは最後だ。


「お次は杖、でしたね。氷雪属性に特化した方がよろしいですかね」


 このセールスマン、僕が複数属性持ちだと気付いている。だからこそ、特化した方が良いですか、って聞いてくるんだと思う。


 仕方ない。あと2〜3個くらいは明かしておくか。


「森林属性と、大海属性、閃光属性を持ってます」


「なるほど。では、この箱の中の魔石に触れて下さい。光ったものが相性が良いものです。それを杖に取り付けますので」


 箱の中には、小ぶりな石から拳よりふた周り程大きい石、丸い石から筒状の石など、様々な石が入っていた。もちろん、色もバラバラだ。


「あ、光った」


 淡い水色に近い浅緑っぽい石と、粒々の赤色が混じった鮮やかな浅黄色の石と、白と青のグラデーションが綺麗な石、計三つが光った。


「AB-AM205とTB-AK370とWH-BL540ですか。なら杖はこのTE-TU740タイプが――」


 なんか専門用語喋り出した。このセールスマン怖い。


「はい。決まりました。デザインはこの杖と属性、魔石に合わせますが、よろしいですか?」


「はい」


「では、専属鍛冶師が今から作製しますので、もうしばらくお待ち下さい。その間に、弓を見繕いましょうか」


「お願いします」


 暫くして、少し小さめの弓を持って来た。


「こちらは弓本体に、魔矢生成という特殊能力と風属性が付与されています。魔力で出来た矢を放つので、矢にお金が掛からないのが利点でもあり、貴重な魔力が減るという欠点でもあります」


「あ、そういうことなら大丈夫です」


 ギルマス曰く、僕の魔力量はバカげているとのこと。だから、そういう心配しなくても大丈夫だそうだ。


「そうですよね。高名な魔術師なのですから」


 このセールスマンの中の僕のイメージは高名な魔術師で決まりだそうだ。


「おや、杖が出来たようです」


「早いですね」


 まだ10分も経ってないんじゃないかな。まぁ、あの魔石って言う奴を杖に取り付けるだけみたいだし、そんなに掛からないのかな?


「いや、この仕上がりで10分はおかしいでしょ」


 形状は鉄パイプくらいの細い棒で、先端にあの形も大きさもバラバラだった魔石が、丸く同じサイズで嵌め込まれている。持った感じは軽いのに、鉄よりも硬い。魔法金属とかだろうか。普通に鈍器とかに使えそう。


「ヤンキーかよ」


 見た目以上に凶悪な仕上がりになってしまった。


「お会計は金貨4枚になります」


「金貨4枚、【交換】っと。はい」


「金貨4枚、丁度。お預かりします。……またのお越しをお待ちしております」


 そう言いながら梱包された武器を手渡して来るセールスマン。コイツ、めっちゃ仕事出来る人だ。


「さて、次は何処のお店に向かおうかな?」


 アオナです。今、めっちゃ楽しいです。

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