シロクマ&オーガ
「きゃぁぁぁ!」
「陽菜!?」
「素晴らしいモフみ……!」
ずこーっ、とコケる3人。いきなり叫んだものだから、魔獣にでも襲われたかと警戒したのに、この有様だ。呆れてものも言えない兄妹コンビと、そんな陽菜も可愛いなぁと思ってしまう一桜葉。
すでに末期である。
「それは、『ホワイト・ベアー』。要するに、シロクマだ」
『念視』で得た情報を、そのまま陽菜に伝える。
「……陽菜、この子でも良いでしょうか!?」
「おぉ、衝動ってやつ? 大丈夫? ちゃんと飼えるのか、よーく考えてあげてね?」
決して、陽菜が衝動的に飼いたいと思ったわけではないことは、胸の内に秘めておく。
このシロクマは、サイズ的にはまだ子供だ。親はどこにいるのかと言うと、いない。捨てられたのである。
魔獣や野生動物には、良くあることなのだと陽菜は言っていた。
「はい、大丈夫です! めちゃくちゃ愛します!」
そう言うなり、シロクマを抱き上げた。
「陽菜、従魔契約を。いつどんな魔物が襲ってくるか、分からない」
「あ、そうですね。分かりました」
従魔契約は、魔術契約の一種であり、飼い主は従魔に尽くし、従魔は飼い主の期待に応えることを言う。契約を結ぶと、繋がりが強まり、軽い意思疎通なども出来るようになるという。
「【汝が如何なる時も、我は尽くすとここに誓う】」
あとはこれに、魔獣の方が答えてくれれば完璧だ。
淡い光が二人を包み、契約は結ばれた。
***
「ッ──!?」
何処からともなく、魔獣が現れた。
「オーガ……!」
それは、魔獣と呼ぶにはあまりにも人型に近い。まさに、鬼と呼ぶべき存在であった。
「オーガと契約するには、力を示さなければならない、です……!」
陽菜博士によると、そういうことらしい。
「ここは俺がやっても、いいか……?」
「オーガを、か? まぁ……、評価は高くなるだろうが……。大丈夫か? 無理すんなよ」
「気をつけてね。オーガは、とてもパワフルで、乱暴で、馬鹿力だから」
大丈夫。なんせ陽菜がついている。今だって、陽菜の存在感に耐えきれないオーガが、すぐにでも逃げ出しそうだ。
魔獣たちにとって、それだけ陽菜という存在は大きい。なるべく傷付けたくはないし、嫌われたくもない。
襲った時は気づいていなかったようで、今更どうすればいいのか、悩んでいるようだ。
「まぁ、今回はテイムしたいんだがなぁ」
身長2メートルはありそうなその巨体と、破壊力抜群のパワー。そして人型に近いということ。
ロマンだ。
「さぁ。かかってこいよ」
オーガも理解したのか、雄叫びを上げて応えた。
シロクマだけ別バージョンあるんすよ↓
「きゃぁぁぁ!」
「陽菜っ!」
「「ヒナさん(ちゃん)!?」」
「も、モフみがスゴい……!」
思わず、コメディーのようにコケる三人。
「陽菜……。その、良かった……な」
そんなところも可愛いと思ってしまう。既に末期だ。
「その動物は……シロクマか?」
「シロクマの魔獣ですね。氷の魔法が使えたりするみたいです。ホワイト・ベアーの幼体だそうで、成体になれば眷族すら生み出せるそうですよ」
「ホワイト・ベアーの迷子ね? 見つけたのはヒナちゃんなんだから、テイムしちゃっていいよ」
「問題は、この子がそれを望んでいるかどうかなのですが……」
「たしか、ホワイト・ベアーは普通、親子で行動するんだったかな。親がいないということは……そういうこと。保護活動だと思えばいいんじゃないのか?」
と、リィラ。もう一押し、か?
「だ、そうだ。陽菜」
「そう、ですね。分かりました。──【テイム】」
ひとまず、これでノルマは達成だ。あとは、気長にテイムしていく。
二人の兄妹と話していて分かったことなのだが、どうやらこの授業には、時間制限があるらしい。
それは、森が暗くなる前まで、とのこと。夜は気性の荒い魔獣ばかりで、危険だからだそうだ。
よって、6時になると魔獣学用の教室に強制送還されるとのこと。これが出来るのは、担任の先生が高位の空間魔法使いだからだったりする。
「あと、4時間……。頑張ろう」
陽菜は、もうシロクマにベッタリだ。スノウという名前を付けて、両腕で抱えて、ギュッてしてモフモフしている。
……正直に言おう。そこ変われ、と。
まぁ、見ていて癒されるものがあるから、それはそれで別に良いが。
と、その時。なにかが迫ってくる気配がした。




