シチュー
「ま、こんな所だろ」
まさか気絶するまで扱くとは思わなかったよ。この脳筋野郎め。
「死んではねぇから安心しろ。一晩も寝れば治るさ。あと、伝言な。中々、筋は良かった。頑張れよ、って伝えてくれ」
「はいはい。明日も、来る?」
「あぁ、来てやるさ。【転移】」
ギルマスは『転移』して帰っていった。孤児院、どうなるんだろうなぁ。僕が元の世界に帰れるかどうかは、彼次第だ。
[侵入者を撃退しました]
あー、そう言えば侵入者扱いだったね。
「詳細を確認」
[New経験値を入手しました]
[New撃退ポイントが手に入ります]
[New高レベルエネミーの撃退に成功しました]
[Newボーナスが加算されました]
[Newスライムが分裂しました]
[Newピクシーが繁殖しました]
[Newフェアリーが繁殖しました]
[Newスライム・ピクシー・フェアリーが水属性・氷属性・聖属性を得ました]
[Newスライムがアイス・スライムに進化しました]
[Newスライムがエンジェル・スライムに進化しました]
[Newフェアリー(聖)が下級天使に進化しました]
[New天使レア度1が解放されました]
[New人型レア度1が解放されました]
「おー、なんかいっぱい来た」
人型が増えたのは素直に嬉しい。これから孤児院やらを作る時、関わるモンスターは人型の方が好ましいだろう。一部、仔犬などの小型の幼体モンスターは孤児院に置いても平気かもしれない。
「新しく解放されたモンスターを表示」
[獣族]
[Newドッグ][Newキャット][Newマウス][Newラビット]
[粘体族]
[Newポイズンスライム(☆2)][スライムメイジ][アイス・スライム][エンジェル・スライム]
[妖精族]
[Newシルキー(☆2)][Newブラウニー(☆2)][Newケット・シー(☆2)][Newドライアド(☆2)]
[天使族]
[New下級天使(☆1)]
[人型]
[New人族][New森人族][New地精族][New獣人族](上記以外のものを表示)
「おー、めっちゃいっぱいじゃん」
DPを確認。
「なにこれ!?」
[100,485DP]
「ギルマスどんだけだし……」
大体、10万ポイント分はギルマスの撃退ポイントって事だよね? やべぇな。
「よし! 思わぬボーナスも手に入ったし、モンスター作成しますか!」
その前に、ダンジョン解放特典のチケットを確認。
[レアモンスター召喚チケット×2]
[ユニークチケット×1]
[スキルチケット×2]
「レアモンスター召喚チケット×2を消費!」
[モンスターを召喚しますか?]
「承認!」
魔法陣が浮かび上がる。来い、人型!
[New龍人族(水龍)☆4を召喚しました]
[New龍人族レア度1・2・3が解放されました]
[New鳥人族(梟人)☆3を召喚しました]
[New鳥人族レア度1・2が解放されました]
「キター!」
え、まって!? 幸運値さん働き過ぎじゃない!? 大丈夫!? 過労死とかしないよね!?
「ん? あー。あー。召喚されたのか。お前がマスターか?」
「ほっほっ。ダンジョンは久しぶりじゃのぉ」
「えー、ダンマスの、アオナです! 二人は、水龍の龍人と、梟の鳥人? 何のふくろう? 白いからやっぱり、シロフクロウ?」
「ご明察の通り。儂はシロフクロウじゃよ」
「あそこでのされてる奴は、俺らの先輩か?」
「え、あー、うん。そうだよ? 兎人のミミたん」
名前、どうしよっかな。やっぱり、欲しいものなのかな。
「やっぱり、名前って欲しい?」
「……ねぇと不便だな、ぶっちゃけ」
「やはりそうじゃのぉ」
「やっぱそっかー」
仕方ない、せめてマトモなのを考えるか。ミミたんが心配で集中出来ないけど。
「ほっほっ、兎人の小童よ。まだまだ修行が足りぬようじゃ。マスターも困っておるようじゃし、ここはちと、儂の力をお見せするとしようかね」
詠唱を始めるシロフクロウのお爺さん。何をするつもりだろうか。
「【疲労回復】」
あ、そういうね。回復系の。お爺さんは回復系が得意らしい。後でステータスとか見ておかなきゃ。
「これで数時間後には起きて来るじゃろ」
「目立った傷はねぇようだが、誰かと戦ったのか?」
「知り合いに、模擬戦をしてもらったの。ミミたんが特訓したいって」
「ほぉ。知り合い、とな?」
「へぇー。ガッツのある奴だな、見かけによらず」
なんかこの人達、自由だなー。
「あ、そうそう。言ってなかったんだけど」
このダンジョンは真っ当なダンジョンじゃないって事、説明しなくちゃ。
「ほっほっ。そんなダンジョン、初めてじゃわい。見てみたいのぉ」
「まぁ、俺達の使命ってのは、マスターを死なさねぇ事だからな。危ねぇ目に合わねぇならそれに越したことはねぇよ」
二人とも良い人で良かった。これなら安心出来る気がする。
二人に六畳一間ワンルーム(10DP)×2を購入。ミミたん同様、カスタマイズ権を与える。
「懐、深過ぎだろ……。どうするよ、俺……」
「ほっほっ、マスターはお人好しじゃのぉ。普通、モンスターに部屋は与えんよ」
「あ、それミミたんにも言われた」
でも、皆が過ごしやすくするのは当たり前の事でしょ? だって、立場は僕の方が上かもしれないけど、皆に恨まれながら生活する度胸なんて持ってないもん。はっきり言えば、小心者ってこと。
「僕は二人の名前を考えて置くから、二人は自分の部屋をカスタマイズね。あ、ミミたんも私室に運んでおいてくれると助かりまーす」
うーむ、梟人のお爺さんはシロとかそんなんでいい気がする。
水龍のお兄さんが分からん。なんか、ヤクザみたいな? オラオラ系の人だった(別にそうでもない)からなぁ。
いや、良く良く考えたらシロってなんか安直で可哀想って言うか。
でも、良いのも思い付かないしなぁ。
あ、水龍のお兄さんはソーダにしよう。ラムネでも良かったけど、それだと女の子っぽいからね。
あとはフクロウのお爺さんだけ。シロ? あー、ハク? スー? おじじ?
「もういいや。シロとソーダで」
考えるの疲れて来た。よし、別の作業に移ろう。
「まずは、孤児院に関わっても大丈夫そうなモンスターの確認かなぁ」
いけそうなのは、妖精族の一部、天使族、人型かな。天使族に関しては、下級天使を見てからじゃないと、だけど。
「妖精族、天使族、人型の詳しい情報を表示」
[妖精族]
[シルキー:身長150cmほど。女性。無邪気。家事が得意。屋内のフィールドでは最強。(能力:家精の秘力を参照)]
[ブラウニー:身長100cmほど。男性。イタズラっ子。家事が得意。屋内のフィールドでは最強。(能力:家精の秘力を参照)]
[ケット・シー:人語を喋り、二足歩行をする。性別はランダム。性格は気まぐれ。スキル:獣化、スキル:人化を所持]
[ドライアド:樹木に宿る妖精。大木に発生することが多い。殆どが女性の姿を象る。MPが高いのが特徴。魔術の扱いに長けている。宿り木から離れると力を失う]
[天使族]
[下級天使:天使の最下級と言われる存在。子供の姿が殆ど。家屋の守護などに長けている]
[人型]
[人族:黒人や白人など、様々な人種がある。他種族と違い個々の能力では劣るが、集団の力で今の地位を勝ち取った種族。身長や性格も様々で、カスタマイズも豊富]
[森人族:森の奥でひっそりと暮らす種族。妖精とも言われている。ドライな者が多い。弓と魔術に長けている。長命な種族]
[地精族:鍛冶と酒が大好き。妖精とも言われている。背丈は人より少し低いが、力強く屈強。男性は長い髭をたくわえている]
[獣人族:身体能力が高く、ベースとなる動物でも変わる種族。種類が豊富。スキル:獣化を所持]
[龍人族:属性などの違いによって大きく差が出る種族。個々の能力は、人型の中では一番。スキル:龍化を所持]
[鳥人族:空を飛ぶことが出来る。ベースとなる動物でも変わる種族。SPが高いのが特徴。種類が豊富。能力:飛行、スキル:鳥化を所持]
「なんか屋内では最強とか……。シルキーとブラウニーのイメージが崩れる……」
まぁでも、孤児院にはうってつけかも。ほら、治安が良いとは言えど、日本レベルにはまだまだ届かないだろうし、誘拐なんて頻繁にあるだろう。警備などに龍人を付けるなどしても良いかもしれない。
「見た目の情報表示でも問題なさそうだね。ただ、子供サイズが殆どって言うのが問題かな」
孤児院を運営する側が子供サイズってどーゆー事やねん。
調べて見た所、身長などはカスタマイズ出来るようだ。ただ、種族ごとに最大値が設定されており、シルキーやブラウニーだと160cm、ドワーフだと150cmが限界だった。
また、下級天使はどうやっても子供にしかならなかった。まぁ、得意能力は防衛だそうだし、孤児院全体を見張る――妖怪で言うところの座敷わらし的な? ポジションを担当してもらう。あー、ウチにも居たわ、それ。おにぎりとか大好きだった。
「160cmならなんとかいけるかな?」
メインはシルキーとブラウニーでなんとかなりそうだ。
「シルキー(100DP)、ブラウニー(100DP)、カスタマイズで身長を160cmに変更(10DP)、それぞれ2体ずつ作成」
『モンスターを作成しました』
「お、きたきた。えーと、増殖して配下を増やしつつ、今日の晩御飯を作ってもらえるかな?」
「畏まりました、マイ・マスター」
モンスターは、2体以上同種族がいると、『増殖』と言って、なんて言うか――要するに増える。産む必要がないのだそう。1日に1回ペースなので、ネズミ算式に増えていくという事だ。
「あと、下級天使(500DP)も2体作成」
『モンスターを作成しました』
「ドライアド(1,000DP)、ケット・シー(300DP)、2体ずつ作成」
『モンスターを作成しました』
「あー、もう。めんどくさい! 人型のまだ作成していない奴を2体ずつ作成!」
『モンスターを作成しました』
「モンスター収納庫(50DP)を作成」
『作成しました』
増殖して余ったモンスターはここに収納する事が出来る。中は普通に生活空間になっていて、割と快適なのだそう。
「ビースト全種類とポイズンスライムを2体ずつ作成」
『モンスターを作成しました』
ビーストは、ランダムで品種が選ばれるのだそう。ドッグはゴールデン・レトリバーとポメラニアン、キャットはアメリカンショートヘアとスコティッシュフォールドだった。マウスとラビットは、パッと見では分からなかった。詳しく調べておこう。
「やべぇよ、このモフモフ……」
増殖すると、新しく誕生するビーストもランダムで品種が選ばれるのだそう。コーギーとかラグドールとかが良いなぁ。もちろん、どんな品種だろうと大歓迎だけど。
「やべっ、寝ちゃいそう……」
ただ、眠る事は許されない。自分はこれから、ザーガィスト帝国――通称、ザーガ帝国について、調べなければならない。
「コアさん、ザーガィスト帝国について教えて」
『情報を表示します』
国土面積、人口、産業、歴史、地理、経済、などなど。
なんか、社会科の授業みたい。ほら、外国の歴史とか? とにかく、目が疲れる。
「マスター、お食事が出来上がりました」
「あ、ほんと? 今行くー」
かなりの時間を過ごしていたみたいだ。お陰で、ザーガィスト帝国のことなら何でも知ってるくらいに覚えた。
「あ、ミミたん。起きたんだ」
「ご、ご迷惑をお掛けしました……」
「ううん。ミミたんが無事なら良かった」
あの脳筋野郎め。ウチのエースを傷付けやがって。明日も来るぜー、的なこと言ってたし、軽くとっちめてやろう。
さて、今日の晩御飯は?
「おー、シチュー!」
めっちゃ美味しそう。可愛らしい鍋から湯気が立ち上り、優しい香りが色とりどりの野菜を引き立たせている。
「戴きます!」
「「「???」」」
その場にいた全員に不思議な顔をされた。そっか、「戴きます」って日本語か。
「えーと、「戴きます」って言うのは、食材や作ってくれた人に対して、感謝する言葉なんだよ。なんて言えばいいかなー……。僕が元々暮らしてた世界の文化だから、気にしなくて良いよ」
気にしなくて良い、と言ったのに皆は「イタダキマス」と述べてから食事を始める。
「やっぱり、マスターがやっていることは皆やりたいんですよ」
今日、シチューを作ってくれたシルキーの一人が説明してくれる。
「ささ、パンも沢山ありますから、遠慮なくどうぞ」
これ、孤児院で働かせたら、子供たちから絶対に人気でるよね。優しい微笑みって言うの? なんか、これぞママって感じ。
対してブラウニー。これは要改善かなぁ? 一人は丁寧語で、めっちゃ執事みたいなんだけど、もう一人がなぁ……。寧ろこっちが子供なんじゃないかって感じ。
執事も、孤児院のイメージには合わない。なんて言うか、それこそ歌のお兄さんみたいな? あんな感じが良いよね。
「孤児院じゃなくて保育園みたいなイメージに変わっていく……」
「マスター?」
「あ、ううん。何でもない。とっても美味しいよ」
「ありがとうございますっ」
シルキーは合格。ブラウニーは、歌のお兄さんのような感じになれば、合格。守護天使は、さっき様子見てみたんだけど、もろ子供。ブラウニーVer.キッズの方といい勝負。ただ、戦闘力は折り紙付き。下級天使二人組で戦えば、水龍の龍人・ソーダといい勝負だった。まぁ、空中と数って言うハンデがある訳だけど。
あと、人型は大体OK。ヒューマンはやっぱり必要だと思う。ほら、なんか亜人だとか人型モンスターとか、良く思われてないみたいだからさ。ヒューマンには戸籍かなんかをギルマスに用意してもらって、受付関係やら事務をやってもらう。子供たちを直接相手するのがシルキーやブラウニー、表向きにはヒューマンを置いておく。偽装はバッチリだ(多分)。
それから、ドライアド。一番高かっただけあって、その能力は凄まじいものだった。樹木という鎖はあるものの、孤児院に配置すれば、自然溢れる孤児院に出来るだろう。木の大きさによって、移動距離も変わるそうだ。木が大きくなれば、孤児院の中の手伝いをすることも可能だろう。
「ごちそうさまでした――って、これも日本文化か!」
ついつい言っちゃうものだね。早速マネされた。まぁでも、こういう感謝とかって大事だよね。そしたら、孤児院の教育にも積極的に取り入れていこう。
「さて、孤児院のデザインとかなんかないかな〜」
お、幼稚園(1,000DP)って言うのがある。ってか、地味に高いし。なんで幼稚園なんてあるんだろ。
「ま、いっか。サイズは……?」
自由にカスタム可、か。ちょっと高いけど、これにしよう。お風呂やら給食室やら、いっぱい付属サービス的な紹介がある。これも追加可能、ってことか。遊具も色違いだったり、材質が違ったり、色んなのがある。まって、幼稚園だけ凝りすぎじゃない? 謎すぎる。
「何を教えるかだよね。冒険者になるための知識? あ、それとも選択式にする? んー、一般常識とか?」
何歳から何歳までを一般常識、それ以降は選択式、みたいに分けた方が良いのかな。
また、一つの孤児院――幼稚園とも言う――につき、シルキーやブラウニーなど、何人必要かも想定しておかなければならない。
「取り敢えずお風呂入って、寝よ」
おやすみなさい。
・次話は一時間後の正午12時を予定しております。