営業妨害
・うっかりミスで一日遅れです。
・完全な悪役って難しいなぁ。
ピロリロリ〜ン
「いらっしゃいませー」
ちょうどレジを担当していた陽菜が挨拶をする。が、すぐにその客のおかしな様子に気が付いた。雰囲気が、ただの客とは訳が違う。この店は武器や魔法道具、ポーションなども取り扱っているので、冒険者や魔法使いなども出入りするのだが、それとはまた違った雰囲気だ。
「(他所の店のスパイでしょうか……。それとも、商業ギルドの回し者? 取り敢えずイオっち呼んでおきますか)」
困った時の一桜葉頼み。本人の好意を無碍にする行為だが、そんなの陽菜に通用しない。同じ世界で生きていないのだ。
……そもそもここは異世界だが。
呼ぶには、カウンターの下にあるスイッチをポチッと押すだけだ。
「(ポチッとな)」
本来なら強盗などが現れた時の通報用のスイッチだが、ラファが少し仕掛けを弄り、各店員を呼べるようにしたのだ。
「ほいほい、どうした」
「あ、店長。新しいお客さんです」
これの意味することは、『怪しいお客さんが入店してきた』だ。
他にも、「〜の在庫がなくなりそうです」は『万引きしそうな客がいる』。「店内/店外の清掃お願いします」は『困った客を追い払え』。
四人が普段、お互いに頼み事をする時は、もっと軽い口調で話すので、そうなのかそうでないのかはすぐに分かる。
四人以外では伝わらないので、雇っているアルバイト達には教えていない。そのうち、もっと改良して教え込もうと思う。
「どうすればいい?」
「念の為、ラファ副店長の用意をお願いします」
「(そんな防犯グッズみたく……)」
一応、この店ではオーナー兼店長を一桜葉、副店長をラファ、チーフを結奈、バイトリーダーを陽菜としている。そのうち、支店を沢山だすつもりだ。
一桜葉は裏に周り、ラファを呼びに行く。
途端、怒声が聞こえた。
慌てて駆け寄る二人。先程の怪しげな客が、か弱い店員を怒鳴りつけている所だった。
陽菜だ。
「一桜葉さん、抑えて。すぐに衛兵を呼びに行って下さい」
「……分かった」
相手の実力が分からない以上、臨機応変に対応出来るラファの方が、この場にはうってつけだ。
「(悔しい……)」
なんとかしたい気持ちを抑え、一桜葉は裏口から衛兵のいる詰所へと向かう。
「何事ですか」
「副店長……! そ、それが」
咄嗟の演技に入った。こういう場合のことを考え、色々と打ち合わせしてある。
話を聞くに、この店の商品が不良品だとのこと。
「すぐに交換させて頂きます。お代も結構です。それでよろしいでしょうか?」
「あ゛? その態度、気に食わねぇなァ」
「(これは……。最初からそのつもりでしたね)」
どこの店の回し者かは知らないが、いわゆる営業妨害という奴だ。理不尽なイチャモンを付け、こちらが折れるまで帰らないつもりだろう。
「誠意っちューモンを見せろ! 誠意をォ!」
誠意とは、馬鹿らしい。何が楽しくて、たかが営業妨害に誠意を見せなければならないのか。
「(イエスマンな日本人と言えど、ここは譲りませんからね……!)」
いや、アンタそもそも日本人じゃないから。魔女だから。
「副店長、どうしましょう……」
取り敢えず、他の客を結奈が保護する。雇ったバイトの子達も一緒だ。
「【収納】」
他の大事な商品たちが傷ついても困るので、亜空間にしまっておく。
なんだなんだと焦るイチャモン男。営業妨害に来たくせに、度胸はないらしい。だいたい、一人で営業妨害に来るバカがいるだろうか。よっぽど自信があるのか……。この様子じゃ、そうとも思えないが。
「(いや、そもそも一人じゃない……? まさか! 別の場所に待機して……!? ッ、一桜葉さんが危ない!)」
助けに行きたいが、この男を何とかしなければならなかった。それが今の役割りだ。
「(……どうすれば!)」
魔法を使うとこちらの正当性が失われる。なんとも、もどかしかった。
・20時に『平穏日記』のメタ回を更新する予定です。




