ナマケモノ
結奈が晩御飯を作っている間にも、コンビニ経営の話し合いは進んで行く。
「じゃあ、狩りに行ってる間にどのような進展があったか、聞かせて下さい」
「俺からでもええか」
あの一桜葉が珍しく前向きに参加してくれているので、もちろん受諾される。
「まず『亜空間倉庫』から商品に出来そうなものは、ほぼ全滅やな。んー、せやなぁ。いわゆるオーパーツって奴で、あまりこっちに広めても良いものではないと思うねんな。保存料とか、プラの袋とかな。そんな技術、普通に怪しまれるしな」
「なるほど。ただ、リーダーを探したいのであれば一種の有効手段かもしれませんね」
「陽菜としては、そういう技術は段階を踏んだ方が良いと思います。最初は痒いところに手が届く程度にしておいて、あとから段々と便利度を上げていけば、不自然さは消えるのではないかと」
最近の陽菜の覚醒ぶりは本当にどうしたんだろうかと疑問に思う他の3人。失礼な話だが、実際に陽菜は周囲より二段階ほど浮いていたので、最近の覚醒ぶりを不思議に思うのも無理はない。
「魔法っていう概念が一般的に定着してる世界ですし、そこら辺の問題はなんとかなるのかもしれませんしね」
「そこに魔女もおることやしな」
何かあればラファの魔法チートでなんでも解決しようという魂胆丸見えな考えを本人の前で堂々と話す二人。無遠慮と言うべきか、気心の知れた仲と言うべきか。
「それはともかく、ご主人様と結奈さんの方では何かありましたか?」
「陽菜たちの方では、冒険者の方達に安く武器や回復アイテムなど、異世界特有のものをダンジョンの機能を利用して売るなどの案が出ました」
「あぁ、たしかに。皇都の武器屋の杖、金貨5枚とかしてましたからね。ダンジョン産はいくらくらいですか?」
「同じ杖じゃないのでなんとも言えませんが、ノーマルな杖でも銀貨1枚で、属性特化だと一つの属性で銀貨を追加で5枚ですね」
「この杖です」
複数の属性が付いているので、それなりの値段がするのかも知れませんね。
「三つの属性が付与されてますね。単純計算でも銀貨15枚、材料費(杖自体)や加工費込みで銀貨20枚、金貨に直すと2枚ですね」
「えぇー……」
「とんだぼったくりやん」
「あ、でもおまけしてもらって、金貨4枚と銀貨5枚でした。まぁ、それでもだいぶぼったくりですね……」
これだけで金貨2枚と銀貨5枚の売り上げ……。しかもこの杖、耐久力かなり低いので、1ヶ月か2ヶ月そこらで買い替えなきゃいけないんですよね。
「まぁ、魔導師が少ない分、もしかしたら妥当な金額なのかも知れませんね」
「それは分かりませんが、杖は良い収入源になるでしょうね。もしくはその杖の予備として解放しておいても問題は無いでしょう」
「どの道、解放した方が無難か。そこは頼んだ」
「了解です。あとは、DPの収入源をどうするか、コンビニ経営をするとして、店舗っていうんですか? 借りた土地に、建てる店舗の作成ですかね。その他として商品のバリエーションの問題ですね」
DPを増やすには、モンスターを増殖させて増えた分を換金する方法がある。コンビニが軌道にのれば、お客が出入りするだけでも、撃退ポイントというものが手に入る。撃破ポイントより入手出来る数は下がるが、同じ人物から何度でも入手出来るのが特徴だ。
「そ、そんな……。モンスターを換金するなんて……。うぅ」
どうやら換金によるDP入手は、一人のアニマリストのせいで無理そうだ。
「ゴブリンとかもダメなん?」
「ゴブリンと言えど、それも一つの生命です」
「そうか……」
ともかく、DPはまだ潤沢にある。コンビニ経営を早いとこ軌道に乗せれば、なんとかなるかもしれない。
「とにかく、陽菜は店舗を仮想作成しておくので、商品や値段も考えておいて下さい」
ダンジョンの機能はダンジョン・マスターにしか扱えないので、陽菜はそうそうに離脱した。もしくは面倒そうだと思ったからか。より楽な道を日々追求しているそうだ。
……ナマケモノに近い生態系なのだ。




