ギルド
「あー、治安が一番良くてもこれかぁ……」
はい! という訳でね。現在、ソルブィスト王国の王都にやって来ています!
「やっぱ、お酒臭いね」
ギルドはアレかな? 流石、異世界。ウェルカムだぜ、うぃ〜。
「えーと、まずは、どうしよっかな」
「あ、あの、マスター……」
「んー?」
「人、が、沢山……です」
「ねー♪」
ゴツい人ばっかりだけどね。
あ、ここでメンバー紹介。まず、僕でしょ? それからミミたん。時空属性持ちのフェアリー、ルル。そして、スライム・コアのコアさん。コアさんがここにいることで、ダンジョンは占領されない。それに、入口には蓋をして来た。万が一の事があればコアさんを通して通知されるので、ルルの『転移』の魔法で帰るつもりだ。来る時も、『転移』の魔法で来た。
『面白い事をして下さると期待しています』
「プレッシャーやめてよ〜」
まったくもう、とか言いながらお目当ての場所に到着。
「たーのもー!」
扉を勢い良く開ける。これ、言ってみたかっただけなんだ。ほんと、ごめんなさい。
「あー……。ここ、ギルドであってます?」
ブハハ、と呑んべぇ達が笑う。
「いらっしゃいませ! ソルブィスト王国、ギルド総本部へようこそ! 本日はいかがなさいましたか?」
「少し、商談があるのですよ。あー、どうしよ。なるべく、偉い人を」
「申し訳ありませんが、身分証明証などは――」
持ってない。けどね、切り札はある。勿体ぶらずに、とっとと出してしまおう。
「ダンジョンの件で。……ね?」
受付嬢(?)の表情が、穏やかな物から深刻な物へと変わった。
***
「おう、迷宮の件で商談? つったか。まぁ、座れ。そっちの従魔だよな? そいつら達は――まぁ、問題なさそうだな」
コアさんは僕の膝上。ミミたんは僕の左隣。ルルは僕の右肩だ。目の前にギルド・マスターが座る形だ。そばにはお茶請けを持ってきたさっきの受付嬢さんが控えている。
「まず、『異世界』という単語は知ってます?」
「おまっ――何処で!」
「僕、『異世界』から『転移』して来た者です」
「はぁ!?」
「追加でダンジョン・マスターです」
「はぁぁぁぁぁ!?」
「マスター!?」
ミミたんも驚いてる。ごめんね、言ってなかったね。ただ、元の世界に帰るには国ごとの協力が必要な気がするんだよね。それに、元の世界に帰るために人を殺めたりとかしたくない。だから、和平交渉出来ないかなって考えた訳さ。
「その事で相談なんですけどね? 僕、人とか殺したくないし別に世界を征服しようとか魔王になりたいだとかそういう野望なんて持ってないし突然異世界に飛ばされて帰りたいのにコアが他人の手に渡ったら死ぬとか言われるしそりゃもうキレますよだけどとにかく帰りたいので助けて! って言うのが要するに僕の本音」
ギルド・マスターも開いた口が塞がらないようだ。
「つまり、和平交渉って言うこと。この国、コアで検索したら一番治安が良いって出たし、異世界産の勇者も何人かいるよね?」
「そ、そこまでお見通しなのか……」
「僕、こんなナリしてても16歳。高校生で、それなりに青春を謳歌してたわけね? 子役っていう演技のお仕事もあるわけ。ドラマでたり映画でたり歌ったり踊ったりトーク番組でたり……。忙しかったけど、めちゃくちゃ充実してた。なのに急に異世界に飛ばされて、「はぁ!? ダンジョン・マスターだぁ!?」ってなるでしょ!? なるよね!? ってわけで、和平交渉して欲しいのですよ」
「おまっ――16!?」
「うん。そうだよ?」
「どうみてもガキ――だっ、まっ、えぇ? あー、森人族なら有り得なくもねぇけどよぉ? お前、だって人族だろ?」
「あー、そうなんだよね。身長がストップする病気に掛かっちゃって」
ホントは、元の世界で妖怪を使役してて、それの対価が永遠に生きること――不老不死だったからだ。いや、正確には不死ではないけど。なので、契約した時の身長、120cmで成長が止まった。
妖怪? ウケるー。とか思うでしょ、普通は。
それが居たんですよ、普通に。ウチ、実家が神社だったんでね。小さい頃から普通に視えてた。ステータスにあった、『霊視』って言うのが多分それね。異世界に来てから、霊的な回線が繋がらないから、多分ジャミングかなんかされてるんだと思う。世界跨いだらそりゃ繋がらないよなって感じ。一度、海外に子役の仕事でロケに行った事があるんだけど、その時でさえ繋がりにくかったからね。
僕が使役していたのは、鬼、化け狐、雪女の3人。今頃、どうしてるかなー。慌てて探してる? それとも忘れちゃったり?
まぁ、今はこっちに集中だ。
「どう信用すれば良いんだ?」
「うーん、その異世界産の勇者呼んでよ? 多分、同郷の自信あるね。あ、『日本』って国の人だからね」
「しゃあねぇな……。変に暴れんじゃねぇぞ? すぐに連れて来てやっからよぉ……。【転移】」
あ、『転移』した。なんか、渋々と言った感じだったね。
日本の人だと良いねー。僕の無駄に高い幸運値も働いてくれると信じてる!
数分後。
「あー、連れて来てやったぞ。ほら、『日本』の奴だ」
「うぇぇ!? AONAさん!?」
「おーす! はじめまして? かな」
「お前らどういう関係だ……?」
どうもこうも、子役と、視聴者さん? まぁ、テレビとかないから伝わりにくいよね。なんて言おうかな……。
「だから、言ったでしょ。僕、向こうの世界で役者さんをやってたの。だから、この勇者さんは一方的に僕の事を知ってるの。この人、転生の方だね? 見た目全然日本人じゃない」
「AONAさんだって髪色水色になってるじゃないですか!」
「う゛……! もう! 気付いてたよ!? でも、それ以外は変わってないんだもん! なんでってこっちが聞きたいし泣きたい! どうせなら身長だって……! う゛う゛ぅ……」
奥義、演技泣き。どや、子役の演技力。こちとら10年近くやっとんじゃ、舐めんなよ。これで勇者を懐柔? なんとか、こちら側に引き込む。
「うっわぁ、見た目だけは幼気なガキ泣かせやがった……」
「え!? ちょ! え!? 僕のせいですかコレ!?」
30分後。
「ふぅ……。話戻しますけど、ええでっかー」
「混乱させたのお前だろ」
「はいそこ、ブツブツ言わない! さて、話を戻すと僕がダンジョン・マスターになってしまったけど、善良で平凡な市民だと言うことが分かりましたね?」
「少なくとも平凡ではないですが、それはボクが勇者の名に賭けて保証します」
「ありがとー。それで、元の世界に帰りたいんだよね? ただ、勇者くんが帰ってないって事は……」
「多分、帰る方法はそう簡単には……。ただ、僕は自分の意思で残ってるんで」
「そ、そっか。なんか、ごめんね」
「いえ」
だが、諦めたりなんかしない。いや、絶対に。
「だって、普通に仕事あるし。学業もあるし。今、どれだけ大事な時期か知ってる!?」
もうすぐテストだってあるし、大事な映画の撮影もある。とにかく早く帰りたいのだ。
「それで、コアさんに聞いてみたんだけど、なんかダンジョンのレベルを上げると、そういう事が出来るかも、みたいな事らしいのね?」
「ほうほう? それで何するんだ?」
「もー、ここまで来たら普通に察して欲しかったなー! この国の専属ダンジョンにさせて下さい!」
「「……は?」」
おい勇者、せめてテメェは理解しろよ。
***
「だからね? 理解した? もう流石に理解するよな? あ゛?」
「「は、はい……」」
はい、ちょっとキレました。だってコイツら、ポンコツ過ぎるんだもん。
「念の為にもう一度言うとね? ダンジョンの機能を使って、街を作る。ついでにこのソルブィスト王国をダンジョンの支配下に置く。別に害は何もないよ? ただ、毎日DPが手に入る。そしたら、ダンジョンが成長して、元の世界に帰れるかもしれない。分かったね?」
「一つ良いか」
「あ゛? ……じゃなかった。うん、良いよ?」
「お前、ぜってぇ『ニホン』では不良だったろ……。あー、こちら側――つまり、ソルブィスト王国にとって、利点というか……」
「あー。うーん、人件費とかそういうの? が、無くなるんじゃないかなー。あとは、兵力を強化出来たり? その分、職を失う人達も出て来るかもしれないけど、その時は別の職を職業学校とかで教えれば良いっていうか? まぁ、そんなところ。根本的にダンジョンで生活を支えられるから、働かなくても別に構わないって言うか。それと、自国や他国のダンジョンにも対応出来るようになるのも上げられるかな。ダンジョン・マスターみんなが僕みたいに善良な人な訳じゃないし、その場合は僕がダンジョンの戦力でぶっ潰すとかも出来るわけだし? 多くの犠牲の上に人間って言うのは成り立つんだから、そこら辺は理解してるよね?」
徹底的に利用しつつ、こちら側からも利益を与える、ギブアンドテイクの関係を作り上げる。それが今回の課題。邪魔する者は容赦なく撲滅するのが僕のポリシー。甘ったれたことを言ってるといつまで経っても元の世界に帰れないし、下手すれば死ぬ。
「ソルブィスト王国の敵対国とか結構あるじゃんね? ザーガィスト帝国とか?」
ギルドマスターの表情が固くなる。
「うっわ、ギルマスめっちゃ顔に出やすいね〜。ザーガ帝国もいつ攻めて来るか分かんないんでしょ? ねぇ、勇者くん?」
今度は勇者の表情が固くなる。お前らポーカーとかめっちゃ弱いだろ。
「ソルブ王に通達してくれるかな、勇者くん。なるべく、穏便にさ」
「分かりました……」
『転移』の魔法で消える勇者。王城とかに報告しに行ったんだろうね。
「さて、ギルマスさん。アンタは納得したの? それとも反対?」
「……条件がある」
「おー、きたきた。そう言うの待ってたよ」
「俺を、ダンジョンの中に招待しろ」
あー、来た。そういう系ね。
***
[WARNING!『侵入者が現れました』WARNING!]
「Welcome to my room!(「ようこそ私の部屋へ」の意)」
「ここがお前のダンジョンか。よりによってウチの国の地下になぁ……」
入口はいつでも変えれるらしいけどね。
「はい。じゃあ、まずは案内ね。1階層が、『草原』のフロア。ここはサファリパーク的なイメージでおねしゃ〜す」
「モンスターはそこまでいねぇな」
「まぁね。初期レベルで召喚出来るのが少なかったからさ」
「なるほど」
さてさて、2階層へ参りま〜す。
「2階層は、水と氷をモチーフにした幻想的空間。鍾乳洞みたいな? アレが氷とかで輝いてるのをイメージするといいかも」
「確かに幻想的だな。ただ、寒くねぇか」
「寒さで体力も削れるっていうアレだよ。あー、戦略?」
「エグいな」
3階層へ参りま〜す。
「ここは聖域みたいな? 天使とかがいっぱいいるイメージ」
「どの階層もダンジョンとは思えねぇな」
「まぁね」
4階層へ参りま〜す。
「ここが最終フロアかな? 生活フロアになるね」
「見たことねぇモンがいっぱいだ」
まぁ、冷蔵庫とか電子レンジとかね。
「アレはねぇのか? ほら、コア・ルームとかマスター・ルームとか」
「あるにはあるんだけど、コアがね……」
「なんだ?」
「ほら、コアさん。挨拶して?」
『お初にお目にかかります。迷宮核です。今はスライムに退化しました』
「一応そこは進化って言おうよ……」
退化したのか進化したのか確かに分かんないけどさぁ。歩けるようになったし、攻撃出来るようにもなったじゃん。
「す、スライムが迷宮核!? は!? え!?」
「だから、このダンジョンはスライムがコアさんだとバレない限り、安全なの」
「な、なるほどな……。って、なに納得しかけてるんだよ、俺」
さて、ビジネスの話へ戻りますか。
テーブルにお茶とか茶菓子を用意。僕はお昼を食べたいのでキッチンで手っ取り早く冷凍のグラタンをレンジで温める。
「えーとねぇ、この国の主な産業とか、あとは国として欲しいものを教えて?」
「産業な……。冒険者稼業が一般的か……。あとは武器を作る鍛冶だろうなぁ」
「まぁ、そんなもんか。農業とか漁業は?」
「輸入に頼りっきりかもしんねぇな。敵対国以外にも、同盟を結んだり友好的な国も結構ある。この国は昔、裕福でな。色んな国に恩を売ってっから、そんなに困ったことにはなってねぇよ」
「ふーん」
あんまり国内で農業とか漁業をやり過ぎるのも良くないのかな? 同盟国同士で役割分担とかした方が良いのかも。
「欲しいものは?」
「孤児院だなぁ」
「あー、やっぱり」
さっき通り掛かった路地に、身寄りのない子供がいたもんね。我慢出来ずに、(ギルマスに頼んで)屋台にあった果物を買ってあげた。なんか、食感はリンゴに近くて、味はマンゴーっぽかったかな? 名前も横文字っぽくて忘れちゃった。
「冒険者をやってっと、親が帰って来ねぇなんてのはザラだ」
孤児院ね。これはダンジョンの力でなんとか出来そうだ。
「あとは、昔並に財政を回復させてぇ。ザーガ帝国ともケリをつけてぇなぁ」
「割と図々しいなぁおい」
ザーガィスト帝国については、ギルマスが帰ってから調べておこう。
「昔の財政ってどれくらい?」
「今と比べ物になんねぇ。十数倍はあったろ」
「まるで見て来たかのように言うね」
「ははっ、違いねぇ」
十数倍、ね。出来ないこともないだろうけど。
「まずは孤児院から始めようか。この国の孤児の数、既存の孤児院の数や位置、どれくらいの費用を国が割けるか、どれくらいの人員を割けるか。この4つを重点的に、他にも必要だと思うことを纏めて来て? それを見てから、考えよう」
「まぁ、陛下の許可も必要だしな。検討して来る」
「そうだね。まだ、気が早かったよね」
「あ、あの……!」
震えながらも引き止めるミミたん。どうしたんだろう。
「ぼ、僕に……稽古を、付けてください!」
しばしの沈黙。そして、ギルマスの爆笑。
「はぁ〜……、なるほどな! お前、強くなりてぇんだな?」
「は、はい……!」
「よっしゃ! 死なねぇ程度に扱いてやる! 覚悟しろよ? ダンマスも、それで良いな?」
「まぁ、殺さないんだったら。ミミたんが望んでる事ですし、良いですけど」
得てして、ギルマスVSミミたんの模擬戦が始まった。
・次話は一時間後の午前11時を予定しております。