ラルブィスト皇国
・3000アクセス到達につき増量中。調子のって普段の倍の量(つまり10,000文字近く)をやっちまいました。長ったらしかったらゴメンなさい。
レメンターナ大森林を歩きながら、周囲を警戒する二人。
「魔物とか襲って来そうですけど、大丈夫でしょうか」
「……まぁ、盗賊とかよりはマシやろ」
一桜葉的には人間の方が無理らしい。亜人など人型モンスターはどうなるのだろうか。
「えっと、地図によればこの先を真っ直ぐですね」
「なるほどな」
雑談を交えつつ、警戒は途絶えない二人。本当につい先程まで高校生だったのか、と問いたくなるのも自然だろう。
と、その時。木が突然動き出した。
「「!?」」
咄嗟に『念視EX』を発動する一桜葉。
――――――――――――――――――――
名前:No name
LV:30
種族:樹人族
性別:オス
【能力】
持続回復…一定時間毎に一定量回復する。
――――――――――――――――――――
「くっ! 簡易的な情報しか分からん!」
「レベルはどのくらいですか!?」
「トレントの30!」
「はぁ!?」
僕らまだレベル1なのに!? これぞ無理ゲー! と驚愕するラファ。
「やるしかないみたいですね! 【火炎】!」
「魔法使えへんねんて!」
「一桜葉さんはステータス的には攻撃受けても大丈夫です! ヘイト稼ぎお願いします! 【火炎】!」
「なんだよチキショウっ!」
それでも痛いものは怖いだろう、と理不尽な要求に泣きたくなる一桜葉。
「一桜葉さん! HPとか見れますか!」
「『念視EX』――」
念視は見たいものを強く念じると視覚化して感じることが出来るのだ。
―――――――――――――――――――――
HP:15000/30000
状態異常:火傷(重症)…毎ターンに5000のダメージを与える。木属性系統、氷属性系統のモンスターには効果が2倍になる。
―――――――――――――――――――――
「あと半分や!」
「それなら何とか……! 【火炎】っ!」
―――――――――――――――――――――
HP:5000/30000
―――――――――――――――――――――
「多分あと、一発や……!」
「無理、です……! 『火炎』がもう使えないです……」
「んなっ!?」
魔力を一度に使い過ぎて、体が制限を掛けてしまったのだ。
「状態異常に火傷があるなら、なにかしらの攻撃をすれば、ダメージが……」
状態異常のターンというのは、攻撃をする回数に比例するのである。いわば追加ダメージのようなものだ。
「俺が戦うって意味か!?」
「それしか、方法は……」
そんな……、と戸惑う一桜葉。HP的にも限界なトレントとしては、そんな隙を逃すはずもなく――
『グガァァッ――!』
「あっぶな!?」
かなり太い蔓を伸ばして鞭の様にする攻撃をスレスレのところで躱し、己のステータスが強化されたことを改めて理解する。
これが高校生のときの一桜葉だったならば、たとえ習っていた空手や体操などを極めたとしても、この攻撃を躱す――ましてや体制を崩さずに逃れるなど、不可能に近いだろう。
それを可能にするのがステータス強化の力である。これがレベルアップすればどうなるのだろう、と恐れ慄く一桜葉。
「攻撃つったって、なぁ――っ!?」
もってあと数回。その数回の間になんとか攻撃を――
「加勢するよっ!」
威勢のいい少女の声が聞こえ、声の元から矢が放たれた。
「【貫通】」
詠唱を唱え、矢に魔法を付与した少女。
『グガァァァァァッ――』
光の粒子になって消えていくトレント。その場にドロップアイテムだけが残った。
「助けてくれたのは、感謝する。ただ、アンタは何者だ……?」
人間不信が発動し片言になりつつも、質問する一桜葉。
「私? 見ての通り、エルフよ。クレアっていうの。このレメンターナ大森林に住まう森の狩人ってとこかしら。狩猟中にたまたま貴方達を見かけたの。貴方達は?」
「ラファエルです。あっちが一桜葉さん。僕らは皇都を目指しています。商業ギルドに登録するんですよ」
「そうなの。道は分かる? レメンターナは迷いやすいから、外までなら案内役がいないと、素人じゃまず無理よ?」
「僕らが何故、素人だと……?」
「だって、素人じゃなかったらトレントくらい余裕だもの」
うぅ、と狼狽える二人。
「冗談よ。確かにトレントは倒せなきゃだけど、格上の相手に良く頑張った方だと思うわ。レベルはいくつ?」
これはなんと答えようか。むしろ正直に言った方が良いのだろうか。
ステータスを二人が確認すると、1から5へと上がっていた。
「今、5になってました」
「合わせてレベル10だから、平均的なトレントの3倍ね……。それじゃあ、かなり頑張った方だったのね。しかも上がって5なのよね? 貴方達って、もしかしたら相当な才能があるんじゃない?」
「ありがとうございます。あの、案内役はどこで頼めますか?」
「うーん……。いつもなら鼠人族の子達が案内をしているのだけど、今日はお休みなのよね。シーズンもまだ先だし。商売あがったりみたい。だから、私でよければ案内してあげるよ?」
「ホントですか? 助けてもらった上に案内までしてもらってしまって、なんだか申し訳ないです」
「全然いいのよ! 私も皇都までは行かないけれど、森の外に用があるし、それくらいお安い御用だわ。お金はほんのちょっと頂くけれどね。それでも鼠人族の子達よりはサービスしてあげるわ」
あっ、早速お金が必要になったな、とラファが思う。
『ご主人様、早速お金お願いします』
『幾らですか?』
「幾らですか?」
「半額の500かな。銀貨5枚でいいよ」
『銀貨5枚だそうです』
『はい、送りました』
手にキラキラが纏わりつき、銀貨に姿を変える。一応、手持ちのバッグの中に手を突っ込んでいるので、他所から見ればバッグの中から金を取り出したように見えるだろう。
「では、お願いします」
一桜葉さん喋りませんけど大丈夫でしょうか、とラファは心配するが、会話はちゃんと聞いているので問題ない。一桜葉はそういう奴なのだ。
「トレントはね、弱点があって。あと、さっきみたいに火魔法を使ったら森が焼けちゃうから、程々にね? それに、森に与えられた加護で、火魔法の効果は半減以下だから、攻撃としては効きづらいのよ?」
「すみません」
「トレントに効くのは光魔法や氷魔法ね。あと、物理的な攻撃は一定以上のダメージがないと通らないわ。効果的な魔法の属性が珍しいから、トレント狩りは熟練度が高くないと推奨できないのよ」
「なるほど」
「それから、ドロップ品は確認したかな?」
「えっと――」
インベントリに収納されたドロップ品を探す。ラファにはトレントの樹脂と木材、宝珠が入っており、一桜葉にはトレントの樹皮と枝、これまた宝珠が入っていた。
「宝珠ね! 魔石と殆ど同じ役割を果たすものよ。金貨3〜5枚位で換金出来るから、当たりなのよ。まぁ、そのまま自分で使うのもアリだけど、魔導具の心得がないと殆ど意味が無いわ」
「そうなんですか。他の素材はなんに使うんです?」
「樹皮や樹脂は素材として討伐ギルドに納品出来るわ。トレントの木材は人気が高いから、直接木材を取り扱うお店に卸した方が高値になるわよ。最後に枝なんだけど、特殊な使い方が出来るわ」
遠くにいたトレントを弓で居抜き、インベントリから枝を取り出したクレアは、「今から実践してみせるわね」と言う。
「スゴいですね、一撃で倒すなんて」
「矢に魔法を付与したの。今のは光と風ね。速さと威力を底上げする効果があるわ」
「なるほど」
「トレントの枝はハズレドロップとしてドロップ率が高いの。ひどい時なんか三つとも枝とか、更にハズレなトレントの小枝まであるのよ?」
おどけてみせるクレア。その様子にラファはつい笑ってしまう。
「ついたわ。それじゃあ実践してみせるわね。と言っても、私も初めてなんだけど」
「そうなんですか?」
「トレントの枝をエサとするペットを飼ってるのよ。そのせいで初めてなの」
そのペット明らかに魔物とかですよね? と、不安になるラファ。
「ちゃんとテイマーさんが手懐けているから、大丈夫よ。それよりも、ちゃんと見ててね?」
枝を取り出し、火魔法で火を点火した。
「普段なら全部魔法で火を起こすわ。ただし、こうすることで本来のトレントの枝の効果を発揮できる」
「火の威力が強くなるとかですか? 消えないとか」
「そうじゃないわ。それもあるけれど、この焚き火で、焚き火の精霊と契約できるの」
「焚き火の精霊ですか」
「一定確率だけどね。焚き火の精霊がいれば、火に困らなくていいから便利よ」
「なるほど」
一桜葉さんの空気感パないですけど、物語的には大丈夫なんでしょうか、と気にするラファ。
「えっと、イオハくんだっけ? 枝を出してもらえるかしら」
「……おう」
ぶっきらぼうに枝を渡す一桜葉。それを火にくべて、なにやら魔力を込めるクレア。
「完了よ。誰が契約する?」
「……ここは、自衛手段のない一桜葉さんの方が良いですよね。焚き火とはいえ精霊を使役できる訳ですし」
「……分かった。何をすればいい」
「この火に向かって祝詞を唱えるの。祝詞は焚き火をジッと見つめると浮かんでくるわ」
「……」
言われた通りにジッと見つめる一桜葉。すぐに祝詞が浮かんできた。
『――』
それは歌のようでいて、どんな言語でもない、不思議な言葉だった。しかし、流れるように発音出来るという不思議体験に、一桜葉は戸惑っていた。
『焚き火の精霊と契約しますか? Yes/No』
「Yes、と」
『念視EX』で確認すると、眷属召喚の項目に一体増えていたので、問題ないだろう。精霊術も追加されていた。
「焚き火の精霊はなにかと便利だから、大事にしてあげてね。たまにおやつとして油とか薪とか上げると良いよ」
火を片付けながら、そう付け足すクレア。「じゃ、行こっか」と二人を促す。
親切な人だなぁ、と感心するラファ。後でお礼でもしたいところだ。
それから暫くして、漸く道が開け、森の外に出れた。
「ここから皇都への道は分かる? 30分くらいで着くと思うんだけど」
「はい。ご親切にありがとうございました。あの、これ……。甘い和菓子です。お餅にイチゴと豆を甘く煮たものが入ってます。オヤツに食べようと思ってたんですけど、良かったらどうぞ。沢山ありますし」
「いいの!? 私も甘いもの大好きなの!」
渡したのはいちご大福だ。ラファは和菓子にもどハマりしている。『亜空間倉庫』で見つけた時に懐に忍ばせておいたのだ。
「またね〜! いちごダイフク、ありがと〜!」
シュパッ、シュパパッ、と木々を伝って目的地へと急ぐクレア。いちご大福を落とさないことを願うばかりだ。
「一桜葉さん、行きま――クレアさん居なくなった途端そんないきいきとしないで下さい。失礼ですよ?」
「すまん。どうしてもダメやった」
「これから皇都ですよ? 平気なんですか?」
「おう、頑張る……」
「頑張る意思表示のポーズじゃないですよ、それ」
憂鬱な表情をする一桜葉にすかさずツッコミを入れるラファ。こやつは本当に同じ人間なのか、と不安になって来てしまう。
「取り敢えず着きましたよ。皇都」
「……はやくね?」
「『短距離転移』の魔法を使ってしまいました」
「ええねんけど、今度からは俺にも言ってくれ」
「了解です。あちらが入口のようですね。税金? みたいなのが必要みたいです。もしくは身分証明証の提示とかですね。最初は税金を支払って、その間に何処かのギルドに登録し、次からはその身分証明証を提示するという形になりますかね」
「ご丁寧な説明どうもありがとうございます」
「急な丁寧語ですね」
税金は銀貨1枚とのこと。早速送ってもらい、納金。身体検査や身元を書類に書き留めるとか、色々とやって、漸く入国。
「皇都は門から歩いて5分ほどのようです。ズラズラとお店が並んでますね。お土産でも買っていきましょうか?」
「せやな。どうせなら珍しいものにしよう」
「この魔獣、可愛いですね。ダンジョンのカタログに載っていなければ、お得なんじゃないでしょうか」
ラファが目を付けたのは、『フリカ』という真っ白な魔獣の幼体だ。見た目はウサギとネズミを足して2で割ったような姿で、氷雪系統の魔法が使える属性持ちの魔獣。成獣サイズにもなるとクマよりも大きくなるのだそう。成長の段階でスキル:変身を取得するので、室内飼いでも飼えるのが特徴。
「懐くようやけど、狩りのお供としても使えるみたいやな。ええんやない?」
「聞いてみますね」
ラファが念話で許可を取るために交渉している間に、門衛(門番)の人に教えてもらった各ギルドの位置地図などを眺める。
ラルブィスト皇国は皇帝を王とした皇帝国家で、ザーガィスト帝国の帝王とは若干ニュアンスが違う。異民族や異種族を受け入れる大らかな国民性がある。その分、中立を求める傾向が強い。自由人というのも一種の特徴だろう。
気候は涼しく、一年を通して暑くなることが殆どなく、レメンターナと呼ばれる冬に似た季節がある。その時期は雪が降り積もり、湖が凍るのだ。
レメンターナ大森林のレメンターナは、この季節から来ており、どんな関連があるのかは現在学者達が研究中である。昔から呼ばれているものの、どういう意味なのか文献が残っていなかったのだ。
皇都は円形で中央に湖があり、南北に同程度の大きさの冒険者ギルド、中央には大きな商業ギルド、西に小さな商業ギルドがあり、東にはその他を集めた総合ギルドがある。この中では総合ギルドが一番大きいが、小さなギルドが集まった結果なので、実際のところは冒険者ギルドと商業ギルドがトップ2だ。
「現在地は中央の湖に囲まれた城と門との直線上にある商店街か。割と近くに商業ギルドもあるみたいやな」
西の方にもあるらしいが、大きな方が初心者にはオススメとのこと。
「――分かりました。……飼っても良いみたいです。購入したら、商業ギルドに行きましょう」
「おう」
そのまま入店、「いらっしゃいませ〜」とこちらを値踏みするような声が聞こえる。すぐさま女性店員が現れ、席へと案内する。
「どのようなペットをお探しですか?」
「フリカをお願いします」
「畏まりました! いや〜、最近イイ子が入荷したんです! すぐに連れてきますね!」
基本的に細かい手続きなどは存在せず、自由に見て回れるのがラルブィスト皇国に携わるペットショップの特色だ。
『キュウ〜』
「「(か、可愛ええ……!)」」
フリカの破壊力は抜群だった。
「飼育方法とか、教えてもらっても良いですか?」
「――! はい! もちろんです! お客様が良い人でホントに良かったっ」
ラルブィスト皇国では捨てられたペットを国が保護する法律や、ペットとして飼う動物には例外を除き殆どには去勢手術を施さなければならないという法律などがあるため、後先考えず、店員の助言も聞かずに飼ってから、上手くいかずに捨てるというケースが多いのだ。これはどの国でも共通していて、そのためペットショップは繁盛しないことが多い。
店員としてはさぞ嬉しかったことだろう。
「フリカは非常に人懐っこい性格で、手乗りもすれば一緒にお散歩や狩りに出かけることも出来ます。また、優秀な魔導トレーナーを通してあるので、魔導の心得もあります。食事はその個体ごとに好みが違いますが、基本的に雑食で味付けの濃いものなどでも食べます。調理加工したものでも問題ありません。この一緒に同じ食事ができるというのも人気の理由ですね」
「なるほどなるほど」
これはご主人様も喜びますね、とラファがほくそ笑む。
「手続きとしては、狩りなどに連れていくのであれば従魔ギルドに行き、登録しなければなりませんが、他には特に必要ありません。店内にはペット用品も沢山置いてありますので、フリカと一緒に見て回るのをお勧めしています。フリカは頭が良いですからね。喋りはせずとも、自己主張は問題にならない程度にするんです。可愛いもんですよ」
ラルブィスト皇国で売られているペットというだけで、国民性がこんなところにまで表れるのか、と感嘆するラファ。
「お買い上げ、ありがとうございました〜」
店員の満足気な鼻歌だけが辺りを包む。
「帰ったら名前、付けようか」
「ですね」
雑談を交えつつ、商業ギルドに向かう二人。
「到着です」
「また『短距離転移』使ったん?」
「まぁ、そうですね。なんか癖になっちゃってるみたいです」
「それでも構わへんけど」
人気のない裏路地から出て、商業ギルドの表に立つ二人。
「市役所みたいですね」
「元々ギルドってのは職業連合的なものやからな。あながち間違いやないと思う」
「なるほど。入りづらいのはそのせいでしたか」
元々戸籍を限りなくグレーに近い方法で桜田理事長に用意してもらったラファとしては、市役所というのはどうにも近寄り難い存在だった。
「いらっしゃいませ! 商業ギルド中央店へようこそ!」
中央店の部分をやけに強調しながら、案内役を任されているのであろう受付嬢がこちらへにじり寄って来る。
「あ、そういうの間に合ってますんで結構です。自分たちでやりますんで」
「結構です」
身持ちの固いラファとすかさず防御体制に入る一桜葉。受付嬢的には『なんとかギルドに取り込みたい』と考えていたのだが、そう易々とはいかなかった。
「いえいえ! そういう訳にはいきません! 間に合ってる訳ないじゃないですか! お客様は初めてのご利用ですよね? ギルド利用には条件と登録料がいりますよ! ささ、こちらへ!」
めげない受付嬢。この仕事にも慣れたものだ。ただ、必死になるのも当然だろう。二人の青年には、ノルマの犠牲になってもらうしか、この受付嬢に残された方法はないのだ。
「……はぁ、分かりました。何をすれば良いんですか?」
「まずはご自分の長所や短所、特技などを御記入お願いします! 戦闘は冒険者ギルドで充分と思われがちですが、商業ギルドでも護衛任務などがあるので、戦闘面のことを書いても問題ありませんよ」
ラファは魔法技術を長所に、代わりに短所には体力と書き込む。一桜葉は高い脳筋的ステータスを長所、それから読み書き計算などの学問はメンバーの中でも得意な方だろう。桜田校の創業者一族として経営学も学んでいたりするので、高い商業的素養があると判断された。短所には魔導の心得がないのと、人付き合いが苦手なことを書き込む。一応、自覚はあるらしいのだ。
「では、ご希望の職業をご選択下さい。尚、変更料を払う事で転職が可能です。あまり気負うことはありません。それと、副職を決めることも可能です。追加料金ですけど」
ラファは魔導師と露店商人を、一桜葉は行商人を選択した。
「あとは登録ですね。おひとり様、銀貨5枚です。追加料金なども全て合計して、銀貨12枚ですね」
副職の料金が銀貨2枚とのこと。しかもギルドごとに設定することも出来るので、金の足り次第では職業の複数掛け持ちも可能なのだとか。ただ職業はギルドごとに特色が出やすいので、似たような系統には中々出来ないが。
「銀貨12枚、ちょうど。お預かりします。それではギルドカードを発行致しますので、少々お待ち下さいませ」
「待っている間に土地の手続きをしましょうか」
「せやな」
商業ギルドの不動産部門に移動し、土地の貸出を探す二人。
「大きさはこのくらいで、場所はどの辺りでも良いですが、なるべく便利な場所でお願いします」
「畏まりました。そちらの条件で探してみますね」
「ありがとうございます」
土地を借りるにあたって、元々サイズなどは測っていた。大きさを伝え、問題なく借りることが出来た。
「銀貨40枚です」
「つ、月で、ですか?」
「はい、もちろん」
……一応、借りることが出来た。
***
「カードの発行が完了しました」
────────────────────
商業ギルド会員No.2047
名前:イオハ=サクラダ
職業:行商人
階位:F
金額:0/0
土地:皇都二等地区商店街34-9(店舗可)
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商業ギルド会員No.2048
名前:ラファエル・ラミレス
職業:魔導師
副職:露天商人
階位:F
金額:0/0
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「ギルドカードは再発行には面倒な申請手続きと発行手数料が掛かりますので、紛失にはお気を付け下さい。
また、ご本人様以外の使用は不可となっております。紛失や盗難に遭われた際は迷わずギルドへお申し付け下さいませ。
入金は専用の窓口で行っております。銀行部門にてお支払い下さい。
またのお越しをお待ちしております」
「……特に問題なく、借りれましたね」
「せやな。ダークエルフとかウィッチとか、色々と種族的に危ないかと思ったんやけど」
商業ギルドを出て、ホッとする二人。ホッとしたのも束の間、ガラの悪い奴らが絡んで来た。
「テメェら珍しい種族だなァ? 奴隷契約すっかァ?」
「「しねーよ」」
「即答かァよ。ま、仕方ねー。おいテメェら! 他当たるぞー」
「「「応ッ!!!」」」
ドドドッ、といなくなるガラの悪い奴ら。
「……嵐のような方でしたね」
「名前さえ聞いてないけど、商業ギルドの前であんなことしよったら、どうせすぐ捕まるやろ」
「ですね」
すると今度こそ本当にガラの悪い奴らに絡まれた。典型的な当たり屋だ。ちなみに一度、一桜葉に当たろうとしたのだが、人嫌いの一桜葉に当たれるはずもなく──一周して今度はラファに当たって来たのだった。因みに一度目は商業ギルドに入る前だ。出てくるまで待つという執念深さを感じる。
「あ、ごめんなさい」
「ア゛!? ごめんなさいで済むと思ってんのかゴルァッ!」
「「(て、テンプレだぁー!)」」
エルフといいギルドといいコレといい、本当に今日はどうしたのだろうと二人はワクワクする。異世界ものに憧れるのは、健全な男の子なので致し方ない所はあるかもしれない。
「分かってんのか! ア゛!?」
「(このチンピラ、どうします?)」
「(トンズラすっか? それとも真っ向勝負とか? あとは食べ物で懐柔作戦だな)」
「そういやテメェら珍しい種族だなァ? 奴隷として売れば高く付くんじゃねぇのかァ? オラッ、まずはとっとと金出せやゴルァ!」
一桜葉に向かって殴るチンピラ。咄嗟に叩いた一桜葉。
「イっ……!?」
「あ、やべ」
思わず「痛い」と言いそうになるチンピラと、声が漏れてしまう一桜葉。転生して、ステータスの違いがあるので、今までのさじ加減では相手に怪我をさせてしまうことも当然あるのだ。そこら辺は気を付けなければならない。
「痛ッてぇじゃねぇかよこンの野郎がァッ──!」
「そこまでです」
ムキになって一桜葉を殴ろうとするチンピラと、それは冷静に制すラファ。
チンピラが振り返ると、喉元に杖が突き付けられていた。
「無様に降参するというなら、杖を離しましょう。それでもダメな場合は『氷結』の魔法を唱え、衛兵に突き出します」
「フンッ、ハッタリに決まって──」
「【氷結】」
カチン、と文字通り凍るチンピラ。ラファは衛兵を呼ぶにはどうすれば良いか考える。
「よっ、流石は魔女の末裔」
「そんな、よしてくださいよ。それよりも、どうやって衛兵を呼びま──」
「俺は無理やで」
「即答やめて下さいよ。知ってましたけど」
その時、衛兵が走って来るのが見えた。
「あ、来たみたいですね。一桜葉さん、先に『転移』させるんで帰ってもらって良いですか? 一桜葉さんとフリカをこれ以上人混みの中で待たせるのは可哀想なので」
「俺、小動物と扱いが同じでどうゆう事や。まぁええけど。じゃ、お先に帰るわ」
「【転移】」
「何かありましたか?」
「あ、衛兵さん。そうなんです。この氷の中身が悪さをして来て──」
事情聴取が終わったらちょっと買い物に寄るのも良いか、なんて考えながら、淡々とチンピラを処理するのだった。
・申し訳ございません。作者にはこういうチンピラしか書けないのです。二組ともかなりアホな感じですが、皇都での世間的にはかなりよからぬ噂のあるコワイ人達です。人間嫌いの一桜葉の天敵みたいな奴らですね。
・ネタバレすると、エルフのクレア、ペットショップの個性派店員、奴隷勧誘のリーダーは今後も登場します。あと、当たり前ですが商業ギルドの受付嬢もです。クレア以外の方も後々名前出して行くと思うので、宜しくお願いします。チンピラは捕まりましたが結局すぐに出所して、恨みを持ってコンビニ経営の妨害を始めます。結局、今回の登場人物は名前でてない人さえ殆どリピーターになりますので、宜しくお願いしますという感じです。
【次回予告 とかやってみる】
・ショッピングを楽しむラファ。そろそろ帰ろうかと一度帰宅すると、すぐさま借りた土地を4人で確認しに行くことに。そのままコンビニを移転させ、本格的な経営に乗り出すことにした。
・はたして、コンビニ経営は上手く行くのか──!? 次回へ続く。




