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妖精霊国イルナリア

・1000文字程度短め。

 海上国家グリセリドから遠く離れた妖精霊国イルナリアから、魔導通信が届いた。


『だれ、か――助、けて――』


「……どうする? サクラも探さなきゃだし、余裕ないけど」


「サクラはシルキーだ。そしてウチの国にも妖精や精霊が沢山いる。恩を売っといても良いんじゃないか?」


「そうだね」


 妖精霊国に行くついでに、途中で、魔王討伐時のパーティー・メンバー、溟海のディランに会いに行こう。パーティー・リーダーである聖剣のウィルは後回しにするか。


「となれば、早速だけど――」


 ドワーフ達に高速船の改造を依頼。元々DPで購入しておいた高速船を、魔導船として改造してもらう為だ。


「ここは安定化させた方が良いっすかね」


「うむ、そうだな。こっちには『浮遊』を付与(エンチャント)しておこう」


「あとは――」


 と、瞬く間に改良していくドワーフ達。空飛ぶ飛行船が出来そうな勢いだ。


「え、まって。飛んじゃダメだから」


「当たり前だバカ」


 もしやと思い念の為に釘を刺すアオナとツッコミを入れるソーダ。アオナの場合、元の世界などでも釘を刺さないと思いがけない行動をする自由人ばっかりだったため、ついつい釘を刺してしまうのも致し方ないだろう。


「――っと。師匠、こっちは完了っす」


「うむ。こっちも終わりだ。マスター、完了したぞ」


「ホント? ありがとう」


「なに、またいつでも言ってくれ」


 妖精霊国イルナリアへの旅が、今始まる。


 ***


「まずは乗員メンバー。僕とソーダはもちろん、海軍服のシルキーとブラウニーも必要かな。あとは戦闘要員を5人、操縦員を3人、メンテを2人――は、ドワーフの2人でいっか」


 戦闘要員は漁船に乗せているオーガの中でも戦いに自信のある者を集め、操縦員はケット・シーで構成された。


「んじゃ、出発進行!」


「「「おう!!!」」」


 海路は『自動走行』の魔法でプログラムされており、操縦員の仕事は海路の安全確認と異常検知のみとなっている。


「楽でいいすねー」


「気を抜くなよ。海といえば、奴が出るからな。しかも今回は遠く離れたイルナリア。奴は必ず出る」


「あぁ、アイツ。確かに気が抜けないですね」


 それフラグだから、と言おうとしたアオナだが、ダンジョン・モンスターに元の世界のネタは通じないのを思い出して、口を噤んだ。


 ***


 お約束通りにフラグが回収されたのは出航してから3日後のこと。もう妖精霊国イルナリアのすぐ近くまで来ているかどうかと言う距離だ。元々は数ヶ月単位でかかるはずだったのだが、ドワーフによる魔改造と、『自動走行』や操縦員の休み無しの交代によって大幅に時間が短縮された。雑魚のモンスターは船にプログラムされた『自動砲台』の魔法によって蹴散らされていることも、時間短縮に影響している。


「出たぞ! 奴だ――クラーケンだ!」


「アレが海魔烏賊(クラーケン)……!」


 海面下からドバァッと現れた海魔烏賊(クラーケン)は、その大きさは魔改造されたこの船の何十倍も大きかった。


 既に『自動砲台』によって攻撃が開始されているのだが、攻撃の通っている様子は全くない。


「【氷柱弓矢(アイシクル・アロー)】【火炎連射(ファイアー・シュート)】【森林毒霧(フォレスト・ポイズン)】【感電刺槍(スタン・スピア)】」


 片っ端から属性魔法を試していくアオナ。効きやすいのは氷系統、木系統、雷系統だと分かった。


「海軍服のシルキーとブラウニーは、砲台の属性魔法陣を氷系統、木系統、雷系統に切り替えて。オーガ隊は大型魔法銃の準備及び発射、操縦員は『自動走行』の魔法をオフにして、手動操縦で妖精霊国イルナリアまで。クラーケンを避ける形で、それ以外は予定通りに。臨機応変に対応して。ソーダ、クラーケンの弱点を狙って」


「お前はどうするんだ」


「僕? 決まってんじゃん――」


『邪魔するものは排除するまで』如月社長の裏モットーとしても有名なこの言葉。例え6歳で死別したとしても、そのモットーはしっかりと引き継がれていた。


「【我流魔術・昇天龍拳】」


 物理属性の魔術。ある意味、矛盾している魔術だ。


 弱らせた所に属性砲撃の嵐やオーガ隊の魔法銃の集中砲火、ソーダのドラゴン・ブレスが弱点を狙う。


『クワワァッ――……』


 所要時間はざっと20分。クラーケンはイカを魔物にした感じなので、経験値としても素材としても美味しい獲物だ。その分、強さは海上ということもあって折り紙付き。普通の漁船ならまず倒せない。


「刺身、イカフライ、香味焼き――」


 イカは結構なんでも使えるから、沢山あっても問題ない。ソーダもイカは大好物だ。


「おつまみ系もいいよね」


 アオナはお酒は飲まないけど、こう言うのは好きだ。酔われると面倒だから飲ませてなかったが、今日の活躍を見て、ソーダにもたまにはお酒を飲ませて上げても良いだろう、と思った。


 密かに喜ぶソーダである。


 ***


「妖精霊国イルナリア、到着!」


「お待ちしておりました」


「うわっ!?」


 気配を感じさせないその動きは、やはり妖精といった所か。


「申し遅れました。私、風精霊のシルフィードと申します。国王陛下と女王様がお待ちしております。どうぞこちらへ」


 されるがままに連行される一行。シルフィードの風の運搬魔術で、城の入り口まで飛ばされた。


 王座で待っていたのは妖精王オベロンと女王ティターニアだ。王の威厳も、妖精サイズということもあって台無しである。


「其方らが海上国家グリセリドの元首とやらか」


「お待ちしておりましたわ」


 元首? と首を傾げるアオナ。ソーダが「こいつマジか」という目で見ている。


「(おい、お前はバカか)」


「(自分のマスターに向かってバカとか言う奴にバカって言われたくないんだけど)」


「(そういう事じゃなくてだな! 海上国家グリセリドはお前が魚目的で建国した国だろ!? ならお前はそこの元首! 理解したか!?)」


「あ……、はい。僕が元首のアオナです」


「やはりか! その異常な魔力と、漂う強者のオーラ! そして眷属も多く抱えておるな。何よりも同胞の匂いがする」


「「(コイツ、ヤベぇ……!)」」


「貴方、抑えて下さい。お客様が困っていますわ」


「おぉ、すまぬ。驚かせてしまったな。今のは妖精王のスキルでな。個人情報までは流石に読み取れぬから、安心してくれ」


 なんだスキルかぁ、と納得するアオナと、裏があるよな……と疑うソーダ。アオナの場合は納得する反面、そのスキルを探っている。おバカなのかと思いきや、色々と考え深いアオナである。


「あの、早速本題で悪いのですが、魔導通信の『助けて……』とは?」


「魔導通信を聞いて駆け付けてくれたのだな。助かる。早速だが案内しよう」


 またもやシルフィードの風の運搬魔術によって飛ばされる一行。もう少し用意されたお菓子を食べたかったと思うアオナとソーダ以外の一行であった。可愛いかよ。


「……これは?」


「かつて妖精霊国イルナリアで暴れたと言い伝えられている妖魔が封印された妖魔石だ。当時、莫大な被害をもたらしたそうだな」


「封印、ですか。それで、困ったこととは?」


「なに、封印が解けそうというだけだ」


 え、なんでそんな余裕な態度なの!? ヤバいじゃん!? そんなサラッと言っちゃう!? と、表情には出さないものの心の中で叫ぶ一行。


「先程のボス・クラーケンよりは弱いはずだからな。其方らなら余裕であろう」


「……なるほど。って、え? ボス・クラーケン?」


「なんだ、知らなかったのか? 大魚の事を」


「大魚ですか?」


「ボス・クラーケンなどの、魔魚の中でも大型のものの事よ。それを倒すなんて凄いのよ?」


「「(やっちまった……)」」


 ただのクラーケンだと思っていたのが、伝説級の魔物だと知り、困り果てるアオナとソーダ。


「それよりかはこの封印された魔物は弱いはずだ。討伐してくれぬか」


 ただでやる訳にはいかないよな、国の元首な訳だし、舐められる言動は避けないと、とアオナは考え、ひとつ提案をした。


「……条件があります」


「条件?」


「我が海上国家グリセリドと、条約を結ぶ事です。内容はなんでも良いですが、外国から見て仲が良い事を示すような内容を。我が国には妖精や精霊が沢山います。そういう面も考えて、こちらとしては友好な関係を築きたいのです」


「なるほど。まぁ、良いだろう。封印されし魔物を何とかしてくれるのであればな」


「分かりました。ソーダ、行くよ」


「おう」


 女王ティターニアが封印を解き、妖魔石を放り投げる。そのまま閃光と共に、それはそれは恐ろしい――猫が現れた。


『ニャゴォォォ!』


「は?」


 呆気に取られるソーダ。究極の猫パンチによって、かなりの距離を吹き飛ばされた。


「妖怪、猫又!? ソーダ、見た目は猫でも高位の妖怪だから! 気を抜くと死ぬよ!?」


 あのアオナが真剣になる程ヤバイ奴なのか、と謎の緊張感がソーダを襲い、余計に焦らせる。


「全員、避けて! 【赤崎(あかさき)祓魔術(ふつまじゅつ)・究極】――ッ!」


 直後に起こる爆音と、経験値のファンファーレ。その場にいた全員がパーティーメンバー扱いとなっていたのだ。


「危なかった……」


「お前は! バカか! 味方が巻き込まれていたらどうする!」


「シルキーとブラウニーに、念話で結界魔術を頼んでおいたから大丈夫だけど――そういう事じゃないんだよね?」


「あたりめぇだ!」


 祓魔術の巻き込みは、海軍服のシルキーとブラウニーの結界魔術によって防がれていた。


「ソーダ、猫又は危険なんだよ。そもそも、この世界に妖怪が紛れ込んでるのがおかしい。この世界に妖怪はいないはずなのに――」


 封印が施されたのは100年程前。もし元の世界と時間の進み方が同じなら……、と考え始めたが、難しいことを今考えるよりも、猫又の処理が先か、と考え直した。


「もしかしたら、妖怪がこの世界に侵攻し始めてるのかもね」


 猫又の死体を弄りながら、ボソッと囁く。


「な……!」


 驚くソーダ。アオナが真剣になる程のモンスター。それが侵攻し始めているという事実に、驚きを隠せなかったのだ。


「ともかく、同盟国にソルブィスト王国以外にも妖精霊国イルナリアって言う立派な大国が出来たし、後は帰りに溟海のディランに会って、帰るだけだね」


「そ、そうだな。よし、そうしよう」


 難しいことを難しく考えない。アオナの自己流モットーである。

【次回予告 とかやってみる】


・ダンジョン・マスターに転生したアオナだが、元の世界では赤崎蒼奈がいないことで、てんやわんや!? 一体、元の世界で何が……!(次回に続く)

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