海神
・あと1000文字近くなのに思い付けなかったです……。なので少し短め。
「止まれっ!!!」
あー、フラグはここで回収されてしまった。そろそろな気はしてたんだよ。
「なんですか?」
一応、取り合わないと、印象とかよろしくないし、そもそも僕らは別にやましい事がある訳じゃない。
「領主様がお呼びである。同行を願おう」
……ちぇっ、先手を打たれてました。あわよくば、無視してギルドで依頼受けてこようかな、とか思ってたんだけど。
「……わかりました」
「すまんな」
「いえ」
仕方ない。とっとと済ませよ。
***
「……失礼します」
「入れ」
「ハッ、例の少年をお連れしました」
「左様か。下がれ」
「ハッ、失礼しました」
なんかこういう人ってさ、「ハッ」って言うじゃん? なんでなんだろうね?
まぁ、そんなことは置いといて。
「楽にして良いぞ。敬語もなしだ」
「は、はぁ」
「にしても――小さいな」
「あ゛?」
しまった、つい。
「おぉ、すまんすまん。気にしておったか。なに、馬鹿にしておる訳ではないのだ。そんな殺気立たせないでおくれ」
「や、殺気立たせた訳じゃ――」
「構わん構わん。無礼講だと言っておるだろう」
なにこの人。人の話聞いてくんないんだけど。
「して、早速本題に入っても宜しいかな?」
「ど、どうぞ」
何が来るのか不安だ。今更な気もするけど、ちょっとビビってる。
「其方は……。これを見たことは、あるか」
重厚な箱から取り出したのは蒼い宝石。見たことは、ない。元の世界でなら、似たような奴を見たことはあるかもしれないが、素人に細かい違いが分かるはずもない。
「これは魔法石だ。海の力が込められているようなのだが、我々には確認する方法がなくてな。魔力、あるいは海の力を視覚化するスキルでもないか、と思ってな。デタラメなダンジョン・マスターなら有り得なくもないんじゃないだろうか」
「……まぁ、ないこともないですが」
「ならっ!」
「ですが! 目的、或いは理由をお聞きしても?」
そう、そこが重要なのだ。なにせお互い初対面。領主には僕のことを報告なんかされているかもしれないが、対してこちらは何も分からない。相手が何を企んでいるのか、どういう意図でその話を持ち掛けたのか。警戒するのも必然――というか、しなかったらソーダに怒られているだろう。
「この魔法石は、この街の要なのだ……」
カナメ。そのまま口に出してしまう。
「要、ですか」
「うむ。この港町ルェリウィアでは、海神様や水龍様を信仰しておる。毎年、信仰のお陰で漁獲量は大陸全土でも指折りだった」
ソルブィスト王国は冒険者稼業で成り立っているようなものだ。それなのに大陸全土で漁獲量が指折りだと言うことは、かなりスゴい事なのだろう。
「にしても、指折りだった、ですか」
「そう、指折りだったのだ。理由は話せば長くなるが……」
過去形なのは、何かしら理由があるんだろうな。その理由を今は言えない、と。
「……天罰が下ったのだ」
言えるんだ!? しかも長くない!?
「と言うわけで、協力して欲しい」
どういう訳!? しかも協力して欲しい要素はどこにあるの!?
***
「ここが、海神様の住む神殿であります」
先程の衛兵さんに連れて来られて、文字通りの海底神殿にやって来た。
そう、海底。どうやって来たのかって? 魔法で来たんだよ。
なんで海底神殿に来たって? この神殿に、魔法石の正体のヒントがあるらしいよ。
「ここは元々陸だったのですが……」
数年前、地盤が大きく沈む災害があったそうだ。話を聞くに、地震かもしれない。もし地震だとすれば、かなり大きかったのだろう。
「死者、及び行方不明者も多く……」
だろうね。この海底は『死』のエネルギーが溢れてるもん。今ここで死霊魔術を放ったらとんでもないパワーになるよ。
「それにより信仰が出来なくなり、海神の加護は失われ……」
漁獲量が落ちた、と。或いは、海での事故が増えたらしい。船が沈んだり、クラーケンに襲われたり、海賊に襲われたり。
「『海神の加護』ねぇ」
元の世界では、ポセイドンが一番有名か。こちらの世界ではどんな神様か分からないが、ポセイドンの伝承は多く伝わっている。なんでも浮気性だとか、荒くれ者だとか。ギリシャ神話は専門外なのであまり分からないが。
日本神話だとオオワタツミとかだろうか。また、イザナミに海を治めるのを任されたスサノオもいたが、「それよりも母上と一緒がいい!」と、治めるのを放棄している。
マザコンはこの時代から存在したのか……、と習った当時は驚愕したものだ。
「スマホ、スマホと……」
ついこの間購入したスマホを取り出し、ポセイドンを検索してみる。なにかヒントがあるかもしれない。
「あの、その板はなんでしょうか……」
「これ? 魔道具ですね。『叡智の板書』と呼ばれるものです。様々なことを調べることが出来るのですよ」
口から出任せだけど。
「おぉ……! 魔道具でしたか! 素晴らしい……!」
取り敢えず聞き流しておいて、ポセイドンについて。
ええっと、最高神ゼウスに次ぐ圧倒的な強さを誇る。海洋の全てを支配し、全大陸すらポセイドーンの力によって支えられている、と。怒ると地震を起こしたり、地下水や泉の支配者、守護神でもあるみたい。聖獣は、馬や牡牛やイルカなど。聖樹は松、か。
……この地震、ポセイドンの仕業なんじゃね?
「あった、海神像」
この姿が、ポセイドンと一致しているならば。港町ルェリウィアが崩壊したその原因は――
「やっぱり、ね」
全てが揃った。あとは、領主様を連れて来て、タネ明かしするだけだ。
***
領主様を連れ、再度神殿へ。
「謎は全て解けました」
気分はなんだか名探偵。いいじゃん、ちょっとロールプレイングさせてよね。
「何が解けたのだ?」
「この港町に起きた『あの災害』の犯人(犯神?)と、その理由。そして、この魔法石の正体がね」
「正体、だと……? それは、なんだと言うのだ!」
「順を追って説明しましょう」
まずは海底神殿の奥。海神像の前に歩み寄る。
「この海神、僕の住んでいた元の世界にいる神様とそっくりなんです。向こうじゃお伽噺としか信じられてませんでしたけど」
「それが、これと何の関係があるのだ?」
「その名をポセイドン。あるいはポセイドーン。海と大地を統べる神です」
そう、『あの災害』は、地震だった。それもただの地震ではなく、ポセイドンが意図的に起こした神罰だったのだ。ついでにこの神殿を沈めたのもポセイドンだ。海神にとって容易い事なのは、容易に想像出来る。
「我々が、なにか良からぬ事を働いた、と?」
「それはどうでしょう……。少なくともポセイドンにとっては、そうするしか方法がなかったんです」
こちらの世界で言う信仰とは本来、神々の怒りを買わないようにする為のものである。
その昔、『始祖』を筆頭とし、大きな神災があったからだ。理由は不明で、様々な説が考古学者によって日夜研究されている。
そのような事が二度と起きないために、各地でその土地に合った神を信仰するようにしたのだ。そしてここ、港町ルェリウィアは海神を信仰するようになった。
「そして、ポセイドンは「怒ってないよ」という意思を示すために、『海神の加護』を与えました」
『海神の加護』の効果は絶大だった。海の事故は殆どなくなり、漁獲量も格段に上がった。
その加護がやがて当たり前になって行き、人々は――特に漁師は、加護を求めて信仰し、本来の目的を失った。
「ポセイドンは困り果て、とある結論に至ります」
『そうだ、神殿を沈めちゃおう』と。
「その結果が、ご覧の通りです。その魔法石は、この神殿や付近に居た人々を沈める際に流した、ポセイドンの涙なのです」
まるでお伽噺のようだが、事実なのだ。『神話閲覧』という魔法や『過去視』というスキルがあるのだが、それで確認した。
こんなの、タネも仕掛けもトリックもない、ただの魔法である。名探偵は死んだ。
……意外と乙女な感じだよね、ポセイドンって。神殿を沈めるのに涙を流すとか。まぁ、大事な信仰者を自らの手で殺さなければ行けないのは、どんな神様だって辛いようだが。神殿にだって愛着はあったそうだ。
「我々にも非はある、な……。亡くなった者の恨みを晴らすことは、無理だったか……」
「晴らすことは出来ませんでしたが、あの世まで届けることは出来ます。この場は『死』が溢れていますから、浄化しても宜しいでしょうか」
このままだと怨霊化して、アンデッドの類になってしまう。
「……うむ。せめて、楽にしてやってくれ」
「はい。……大いなる力にねじ伏せられし者達よ。死を受け入れなさい。安らかに眠りなさい。あの世で、そして来世で、心安らかに生きなさい。【浄化】」
ブワァッ、と『浄化』の光が広がり、周囲の霊を成仏させる。
幻想的な光景だが、それはやがて奥の方へ消えて行く。
「……終わりました。帰りましょう」
領主様が崩れ落ちる。だが、その表情は最初に会った時よりも少し晴れやかだ。
「あぁ、人とはなんと儚いのだ……。神よ、これから我々は、どう償えば良いのだ……」
「……また、建て直しましょう? 新しく、やり直せば良いんです」
「……そう、だな。時間を掛けて、ゆっくり償おうではないか」
その時、海神像が少し微笑んだ気がした。
「……き、気のせいだよね」
ってか、今気づいたんだけど、ソーダの空気感ハンパないわ。どうしよ。
「まぁ、いっか! 帰ろ帰ろ~」
「良くねぇよっ!!!」
よっ! よっ! よっ! と、海底にソーダの叫び声がこだましましたとさ。めでたしめでたし。




