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誘拐

・急展開過ぎるかも知れません。

「では、これが5000万になります」


「あ、ども」


「それと、こちらは嗜好品になりますが――」


 はぁーっ、疲れた。溜息を付くのも躊躇出来ない程、精神的にやられた。もう二度とやるもんか。


 5000万が入った袋と、嗜好品が入った箱を受け取る。まぁ、中身は帰ってから見れば良いだろう。


「5000万をDPに【交換】」


 いや、だってさ? 袋めっちゃ重かったんだよね。見た目幼児にこんな重たいもの持たせるとか鬼か貴様――って言わせんな!


 だけどまぁ、これで楽になった。インベントリに入れる手もあったけど、DPはいくらあっても足りないからね。


 手に入れたDPで街灯を購入。王都中に等間隔で設置していこうと思う。もちろん、路地裏にだって設置する。ただ、人通りの少ない場所は普段は切って、人が来た時だけ照らすように設定した。


「よし、設置と。それで、電球とランタンはどうします?」


 あとはコアさんがやってくれると思う。夜景とか楽しみだな。


「ランタンは遠征などに使いたい。電球は、城に必要な数だけ」


「よし、じゃあ電球を設置と。ランタンはどのくらい要ります?」


 これもコアさんが計算して、等間隔または明るさに応じて設置してくれる。あとは大丈夫だろう。


「取り敢えず10万ほど、だな」


 よし。サーモグラフィー機能とか付けとくか。獲物とか敵とか見つける時に便利だよね。あと、『世界地図』の下位互換の、『地図』を付与する。半径何キロを投影とか、そんな感じだ。『検索』の簡易機能も付けておく。


「こんなものか。作成、と。金額は――分割で良いや。25回払いから40回払いに変わったところで問題ないよね?」


「うむ。そうしてくれると助かる」


 こっちは定期収入を得る訳だし、万々歳だよね。


 月に4桁の給料ってどんなよ? 前世の方がもっと稼げてた、なんて言うのは野暮なことだ。電球売るだけでそんなに稼げるなんて、夢があるじゃん。原価がタダ同然だからこそ、な訳だけど。それに僕の前世は死ぬほど忙しかったからね。それよりかは、楽に稼げてると思う。そんなブラックな元の世界になんで帰りたいのって? そりゃまぁ、やっぱり子役の仕事自体が楽しいからだと思う。忙しくても、演技の事で一喜一憂したり、子役としてバラエティーとか出たりするのは、とても楽しいからだ。


「んじゃ、今日の所はそんな感じで。設置は追々やるので」


「うむ」


「大変厚かましいのですが、少し宜しいですか?」


 あ、なんかこの感じ、面倒事の予感がする。流石にもう覚えたよ? この既視感(デジャヴ)め!


 でも、今更断りにくいんだよねぇ。


「はぁ。なんですか?」


「アレを何とかしたいのですが……」


 指さす方向には書類が山積みになっていた。いや、気付いてはいたよ。デスクに山積みなんだもん。気付かない訳がないでしょ。


「……」


 黙って机に向かう。もう喋りたくない。とっとと済ませよう。


 くそっ、帰ったら不貞寝してやる!


 ***


「これはこっち、これはこっち。これは国王のサイン必要、と」


 あーっ、終わった! この国、経済状況ヤバいよ。悪事は国王&宰相の言う通りしてなかったけど、それでも膨れ上がった借金やら赤字やら備品が足りないだとか、大量だった。良く5000万もポンと払えたよね? まぁ、こっちは願ったり叶ったりだからいいけどさ。


 その為、いくつかの改良案を出しておいた。それと、何時でも手伝うよ、っていう言質? みたいなのも保証しておいた。成り上がるのはもうこの国でいいかな、って思ってさ。ほら、勇者とかみたいな善人は世界平和だとか、争いごとをなくすだとか言う人もいるけど、それって結局偽善だと思うんだよね。不可能なことを言うよりも、一つの国に絞った方が良くない? 僕はそう考えたから、ソルブィスト王国を全面的にサポートすることに決めた。世界各地にあるギルドの総本部もこの国にあるみたいだし。あのギルマスって、実質トップって事かな? 意外と偉い人だったんだ。あの馬車の件以来、会ってないけど。


 それに、色んな国に恩を売ってるみたいだから、色々と都合が良いかな、って。財政が回復したら立派な大国になると思うし。


 そうそう。改良案だが、テーマは『再生』と『需要』だ。


 例えるならばスポンジ。あれは洗えばまた使えるが、いつかは捨てる時が来る。そうなると、また新しいスポンジを買う。捨てられたスポンジは、資源として再利用される。


 そういう仕組みを参考に幾つか具体例を添えてあるので、活用してくれれば、と思う。


「たっだいまー!」


「おかえりなさいませ、マスター」


「うん、ただいま」


 やっぱこうでないとね。元の世界では家族みんな忙しくて、僕に「おかえり」って言うのは言わないからなぁ。みんなが「ただいま」っていうのはあるけど。


 もうさ、僕も高校生だからさ。それを寂しいとも感じなくなっちゃって。寧ろ、友達とかと毎日お泊まり会してた気がする。子役時代からの友達とか、同じクラスの人とかね。


「さて、とー。パソコン(5DP)、スマホ(2DP)、お菓子詰め合わせ(1DP)を作成」


 ラフな格好に着替えて、パソコンとスマホとポテチとりんごジュースを用意。音楽(好きなアーティストの新曲が出てた)を流しながら、元の世界の様子をニュース動画でチェックし、ダンジョンの仕事も同時進行。ながら作業は唯一の特技と言ってもいいくらい得意だ。


 ***


 ふと、作業の手が止まる。あれから二時間ほど経っただろうか。


「――っ! 誰!?」


 気配がする。子役の勘――否、神主見習いとしての経験則が、背後に得体の知れないモノが存在している、と。まさに今、ソレが敵意を向けたのだ、と。


 すぐに臨戦態勢を取る。ストレージから何時でも武器を取り出せるように、武器を選ぶ。ストレージの中にある武器は、杖、弓、ナイフ、短剣、拳銃、鎌。霊などに効くのは、魔法攻撃が主体になる杖や、霊には効果的な鎌だろうと予想し、その二つを何時でも取り出せるようにする。


「感じたことのない殺気――これが、上位霊の格……」


 元の世界では感じたことのない、圧倒的強者の格。ダンバトで戦ったダンマスもそうだった。見る相手を恐れさせる圧倒的な実力、才能。


「そもそも、侵入者アラームはなんで鳴ら――っ!」


 闇から無数の手が伸びる。その手はどこまでも暗く、一度飲み込まれたら絶望を覚悟させる何かがあった。


「【鑑定】――『影人間』……? そんなモンスター、聞いたこと――っ!?」


 突如荒れ狂う無数の手。もはや武器を構える暇すらない。


 その手に掴まれ、影に引き摺り込まれ――


「マスターっ!」


 サクラの声だ。本来なら破壊不可であるはずのダンジョンの壁を蹴破り、無数の手に対し、幾つものナイフを的確に当てる。シルキーナイフの底知れぬ力と、スキル:投擲の熟練度による賜物だ。


 ついでに、懐に忍ばせた簡易毒を影に放り込みながら、僕を回収し、ルルに押し付ける。『転移』させる気なのだろう。


「サクラっ! 待っ――」


 待って。そう言いたかったのに、言えなかった。ルルが慌てて『転移』したのだ。目の前に空間が広がり、遂にサクラが見えなくなってしまった。


 サクラが死ぬはずがない。きっと、澄まし顔で帰って来る。


 虚勢を張るも、動揺を隠しきれなかった。


 ***


 その日、サクラは影人間に攫われ、帰って来ることはなかった。


 ダンジョン・モンスターは、ダンマスの機能で居場所を知る事が出来る。その居場所が、影魔法で作り出された空間だと言うことだけは分かっているのだ。


「空間能力に抜きん出たモンスター、と」


 もちろん助けに行く。サクラはNo nameなので不死だが、何か帰って来れない理由があるのかもしれない。


「あ、結構ヒットする……」


 能力的には、コイツがピッタリかも。


『スペーシャル・タートル(5000DP)』


「作成っと」


 DPを気にしている場合じゃないし、敵がなんなのかさえ分かっていない。とにかく、急がなくては。


『モンスターを作成しました』


 現れたのはウミガメ。空色の甲羅が可愛い。見た感じ、まだ若いね。亀に年寄りも若いもあるのか知らないが。


「えーと、言葉通じる、かな? あー、このシルキーの場所に、連れて行って欲しいんだけど」


 コクコク、と頷く亀さん。喋れないものの、意味は理解しているようだ。


「ソーダ、カースライムは一緒に来て。亀さんは道案内。残りは通常業務に戻って」


 戦闘要員にソーダ、移動はカースライム、ナビに亀さん。完璧だね。


「コアさん、離れた場所からも食材とか購入は出来るんだよね?」


『はい。勿論出来ます』


「ありがと」


 カースライム1号は、見た目は馬車、中身はキャンピングカーの状態で変形。後ろの荷台に予備のカースライムを3体収納。それから飲料水だけは毎回購入するのも勿体ないので、ウォータースライムを2体収納。インベントリに生き物は入れられないから、荷台は割と便利。


「んじゃ、行ってきます!」


 皆の顔は浮かない。でも、敢えて知らないフリをする。ここでその事に触れると、耐えられない気がする。


 カタカタ、と馬車が動き出す。内部はあまり揺れない。カースライムなりに頑張って調整しているのだろう。


「なぁ、本当にこれで良かったのか?」


 ソーダが諭すような声で言う。


「う、ん。大丈夫。きっと。ソーダの方こそ、ごめんね。付き合わせちゃって」


 不安は不安だ。だが、サクラも立派な仲間なのだ。僕はその事実に目を背けられなかった。


「チャチャッと見付けて、皆でまたご飯食べよう?」


 そうだな、とソーダもまた明るく振る舞う。


「それにさ、異世界の街を観光してみたいし?」


 商店街で買い物した時、感じたこともない充実感が溢れ出した。楽しかったのだ、とても。


 そんなこと、誤魔化しでしかないのは分かっているが。


「亀さん、ナビを開始! カースライム、安全運転でお願いね?」


 それぞれの返事をするモンスター達。賑やかで少し明るい気持ちになれる。


「それからソーダ、これからもよろしく!」


 なんだコイツ可愛過ぎか、とソーダが思ったのも仕方ないだろう。その笑顔は元の世界でも、天使だと言われ続けていたのだから。


「それで、これからどうやって行くんだ?」


 一応、今後のことを訊いておくソーダ。意外とアホの子だったりするので、随時確認しないと本来の目的から逸れる事かあるのだ。


「えーと。亀さん曰く、影魔法で作成された空間に干渉は出来ず、その空間に辿り着くには複数の選ばれし者の力を借りなければならない、だって! だから、まずはその選ばれし者に会いに行こうと思って?」


「そりゃまた……時間が掛かりそうだな」


「そうなんだよねー。その場所まで『転移』も出来ないから、余計に時間掛かると思う」


 『転移』出来ない理由については、後々詳しく説明しようと思う。


 選ばれし者とは、聖剣のウィル、溟海のディラン、慈悲のエリー、平和のオリビア、高潔のクロエの五人の事だ。


 この五人は十年程前、魔王を倒したことでも有名な勇者パーティーだ。その功績は数え切れないと言われているのだが、ここでは省略させて頂く。


「選ばれし者――勇者どもは、生きてんのか?」


「うん。逆に老衰以外に死ななさそうじゃない?」


「……まぁ、バケモノだからな」


「この五人、今はバラバラに暮らしてるみたいなんだよね。まずは――聖剣のウィルから行こうか」


 聖剣のウィル…一振りで山を薙ぎ払い、大海を割る、聖剣に選ばれし規格外チート。元はただの商人。尚、異世界人ではない。

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