大人のお店
・ミミたんの生前(?)――ダンモンになる前の話です。
・少し短い(いつもの半分くらい)です。申し訳ないです。
・更新時間ちょっと遅れました。ホントに申し訳ないです。
うさぎ ウサギ 兎 USAGI これはとある『それ』の物語である。
獣人と呼ばれる『それ』は、とあるこの国では奴隷に等しき存在として扱われていた。
「管理番号280番! 早く支度しろ! お前は兎の割に顔が良くて、そこを見込んで働かせてやってんだからな! 分かったらとっとと支度しろ!」
『それ』は、店で働いていた。それも、大人のお店だ。
詳細は省かせて頂く……。はなしの半分が『のく☆たーん』になりかねない。
まぁ、端的に言うと、お客様と会話をして盛り上がる系のお店――まぁ、裏では他にもサービスがあったりするのだが――『それ』がやるには技術的にも無理があるので、主に表を担当している。
「あ、あの。初めまして。ウサギです」
「コイツはウサちゃんとでも呼んでやってくれな。俺の名前は――知ってると思うけどラートだ。ご指名サンキュー!」
ラートは『それ』の上司にあたる人物だ。先程の指示も彼によるものだ。表では人気5位以内を維持し、裏でもまぁまぁ人気が高い。本人があまり裏の仕事に興味がないので、表の新人教育を良く任されている。因みに、コミュ力お化けである。
「ウサちゃんさんは、どうしてこのお店で?」
純情系のあどけなさが残る女性が言った。隣には顔たちが似ているが少しキリッとしたクールな印象を持つ姉らしき人が座っている。
この純情ちゃんはクール姉の配慮で連れて来られた被害者であるが、如何せん世間知らずな所があるので、ここがどういう店なのかも良く分かっていない。なんとなく、交流会みたいなものだと考えている。たしかに社交場とこの店の雰囲気は似ているかもしれない。
「えと。僕は――なんですかね」
「おーまーえーなー、自分の人生くらい自分で説明しろよなー! こいつ、捨てられたんすわ。元々保護されてたんすけどね? 飼い主が捨てやがったんすよ。それを俺が拾ったってわけ。まだ新人ちゃんだから、粗相とかあるかも分かんないけど、宜しく頼むわー」
「そうだったんですか……」
「ね? 言ったでしょ、ミミ。この国にも治安が悪い所はあるの。それに、悪い人間は一杯いる――だから」
「レイラお姉様、言いましたよね? 私はもう決めたの。今更、説得しようとしてこないで。不安だったけど、もうそれしか方法はないの……」
どうやら、二人は姉妹のようだ。しかもどうやら喧嘩中と来た。まぁ、そこまで酷くはなっていないようだが。因みに、純情ちゃんが妹で、クール姉が姉だそう。まぁ、そのまんまだ。
と、ここで黙っていられないのが『それ』の本来の性質。困っている人や誰かが悩んでいたりすると、話を聞かずには居られない性分なのだ。
「あの、お二人はどういう――」
「やめとけ」
すかさず止めに入るラート。無理もない、客の個人的な事にあまり首を突っ込んでも後々面倒になるだけだ。ラートはベテランなので、そこら辺も良く分かっているのだろう。
だが、上司の一言だけで留まる『それ』ではない。
「ラートさんは言いましたよ? お客様のお話を聞くのが我々の仕事だ、と」
ラートは虚をつかれた顔をした。そうだ、俺の仕事はお客様との会話で、どれだけ楽をできるかじゃない。
ラートは『それ』に対して恐れ戦いた。コイツ、数日間で俺を超えやがったな……、と。『それ』にとってはそんなつもりは毛頭ないのだが。
「聞かせて下さい、あなたがたの抱えているお悩みを」
姉妹は迷った。普通、何処の馬の骨とも分からない奴に自身の悩みなど教えることはないだろう。
だが、この店は特殊だった。この店には『掟』というものがあり、オフレコの会話などを他者に話さないように出来るのだ。これは契約魔術の一種なので、破るとおもーい罰が下される。
「『掟』もあるし大丈夫か……。良いわ、話して上げる」
先に口を開いたのはクール姉だ。やはり、兄弟姉妹の中では歳上の方が主導権を握ることが多いようだ。
「どこから話そうかしら……。そうね、私たちの生い立ちから話すわね」
どうやら長い話になりそうだ。それでもクール姉は淡々と語る。
***
クール姉ことレイラ、純情ちゃんことミミの二人は、とある貴族の子供として産まれた。
女は他所へ嫁がなければならないので、嫁ぐことを前提で教育を受ける。
彼女たちも例外ではなかった。
「お姉様……。私、嫁ぎたくなんかありませんわ」
「どうして? 嫁ぐなんて、女性の憧れなのよ?」
レイラはその教育を徹底して教えこまれたため、嫁ぐことを漠然としか考えておらず、しかし必ず嫁ぎたい、と考えるようになってしまった。
「お姉様にとってはそうでも、私にとってはそうではないのです……。私、お姉様より綺麗じゃありませんもの」
「そんなことないわよ、ミミ。確かに私とは系統が違うかもしれないけど、あなたは紛れもなく綺麗よ」
「そ、そうだといいのですが……。お相手の方に大事にされるか、不安なのです」
ミミは所謂ネガティヴという部類に入るヤツだ。それから自身の容姿の恐ろしさを自覚していない。現代にいれば、何人ものストーカーが付き纏い、草食系男子を瞬く間に肉食に変えてしまうだろう。思わず守ってあげたくなるような存在だ。
そんな存在を、相手の男が大事にしない訳がない。が、自覚していないのだから話にならない。
「あなたを励ます言葉が見つからないわね……」
実は水面下でレイラの政略結婚の相手が決まっている。
相手は公爵家の次男だ。次期当主とまでは行かないかもしれないが、公爵家との繋がりが持てるため、レイラの両親はさっさと決めてしまった。この三日後に、政略結婚が言い渡される。
「そうだわ、ミミ。男性が沢山いるお店に行けばいいのよ!」
「……?」
こうして、この店に来店したのだ。
***
「……つまり、嫁ぎたくないミミさんと、妹に幸せになって欲しいレイラさんで意見が食い違ってしまった、と?」
ラートの顔が険しい。やはり、普段の業務よりも真剣に話を聞くのは集中力を要するようだ。
「だってミミ、男性の免疫もないのよ。このままじゃ結婚相手に良いように使われる気がして」
レイラは結婚こそ女性の幸せだと思ってこそはいるが、だからといって妹であるミミが不幸になるのならそれが正しいとは思えないのだ。
「ミミちゃんが幸せになって欲しいって、お姉さんは思ってるってことっしょ? というか、お貴族様だったんすか。タメ口で大丈夫だったでしょうか」
ラートの顔はまだ険しい。貴族と知らずとも、タメ口はまずい。この場で切られてもおかしくないのだ。
「えぇ。今更変えられても困るわ」
ラートの顔が元に戻った。というよりは営業用スマイルを顔に貼り付けただけなのだが。
「この場は無礼講よ。その取って付けたような笑顔もやめなさい」
「鋭いな。俺のこの営業用に気付いたやつは中々いねぇぞ。このウサギくれぇだ」
その時、『それ』はテーブルの上にある食べ物を頬張っていた。急に名を呼ばれ喉に詰まらせる。
「だ、大丈夫ですか? ウサちゃんさん」
「あ……ふぅ。た、助かりました」
介抱する純情ちゃん。天使かよ、とラートは思う。そして、こいつらお似合いなんじゃねぇの、とも思った。
レイラと目が合う。どうやら、彼女も同じことを考えていたようだ。
ここに、『うさ耳リア充大作戦実行隊』が発足したのはまた別の話――ではないけど、もう少し後に関わってくる。
・次回の更新は4月26日(木)です。




