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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第八章 控えの意地
99/181

97th BASE

お読みいただきありがとうございます。


今日で年内の投稿は最後です。

来年もいい年になりますように。

 幸運な形で先手を取った亀ヶ崎。ただ空の後ろが繋がらず、一点で終了。攻守交替となる。

 そして五回裏に入ったことで、ブルペンにいた葛葉は一段階ギアを上げた。


(先制点が取れた。この調子で進むに越したことはないけど、花月の方も気合を入れ直して攻撃してくる。いつでも代われるようにしておかないと)


 果たして葛葉の登板はあるのか。この回の花月の攻撃は、九番の池野から始まる。


「よろしくお願いします」


 池野はチーム一小柄な選手で、それ故に打球を遠くまで飛ばす力は無い。だからといって侮ってはいけない。実は彼女、中々の曲者くせものである。


「ファール」


「ファール」


「ボール。フォア」


 空はテンポ良く追い込んだものの、その後執拗(しつよう)に粘られ、十一球目でフォアボールを許してしまった。守備側からすれば非常に嫌な出塁となる。


「ドンマイドンマイ。切り替えていこう」


 セカンド光毅の声に軽く応える空。ここから建て直していきたい。


《一番センター、森田さん》


 打順はトップに返り、森田の三打席目を迎える。彼女はベンチからのサインに頷くと、バントの構えを見せた。

 初球、優築は一球外して様子を覗う。森田の動きを見る感じ、バスターの気配は無い。


(この人はここまでノーヒット。あっちも早めに追い付きたいだろうし、妥当な作戦か。でもここは成功させたくないところね)


 二球目、空は大きなカーブを低めに投じる。森田はそれをバントしたが、勢いを殺し過ぎ、ボールは優築の目の前に転がる。


(しめた。刺せる)


 優築は素手で捕って一目散に二塁へ投げる。ベースカバーに入った風が足を伸ばし、できる限り早いタイミングで送球を受け取る。


「セーフ」

「え⁉」


 ところが間一髪で池野のスライディングが早かった。一塁も間に合わず、結果的に二人のランナーを生かしてしまう。痛恨のフィルダースチョイスだ。


「くっ……」


 歯がゆそうに二塁ベース上の池野を見つめる優築。無駄の無い軽快なプレーだったが、池野のスピードがそれを上回った。

 巧みな走塁と打席での粘り強さ。これこそ池野が背丈のハンディを乗り越え、レギュラーを勝ち取った所以ゆえんである。ここでもその二つの“武器”で、亀ヶ崎を翻弄している。


「すみません、私のミスです」


 優築がマウンドに駆け寄り、空に謝る。


「気にすんな。私もセカンド指さしていたし、あの判断で間違ってない。今後要注意だね。それよりも、ここからどうする?」

「はい。おそらく次もバントしてくると思います。体に近いところを中心に攻めて、フライかファールにさせましょう」

「了解」


 バッテリーは相手のバント失敗を誘う。しかし二番に入っていた内場はすんなりと送りバントを成功させ、花月はワンナウトランナー二,三塁とチャンスを広げる。ここで亀ヶ崎は、一度守備のタイムを取る。


「まだ五回。もし同点に追い付かれても焦る必要は無いよ。ベンチからも後ろで守る指示が出てるし、逆転されないように一つずつアウトを取っていこう」

「はい」


 要である風を中心に、内野陣は意思統一を行う。リスクを伴う前進守備は敷かず、一点は止む無しという構えを取る。


《三番ピッチャー、辻本さん》


 ここから花月のクリーンナップを迎える。まずは三番の辻本だ。


(こういう場面でのボール先行は、自分で自分の首を絞めることになる。一点は覚悟してるんだし、初球できっちりとストライクを取る)


 一球目。空はアウトローへのストレートを投げ込む。辻本は手を出さず、思惑通りストライクから入ることができた。


(初球から良い球投げるなあ。けどまだ二球あるんや。そんな焦っちゃいかん。さっき打たれとるし、落とし前は付けさせてもらう)


 辻本は肩の力を抜き、少し余裕のある表情をしながら打席に立っている。どちらかというと、彼女は投げる方よりも打つ方が好みだ。実力も伴っており、現にこうして花月の三番を任されている。一筋縄では抑えられそうもない。


 二球目は外へと逃げるスライダー。辻本は見送り、判定もボールとなる。


(今のはわざとか投げミスか。まあどっちにせよ、次はストライクが欲しいでしょ。それを狙ったる。そやけどこのキャッチャーの性格上、素直には来うへんやろな)


(速い球は一球目で見せてる。インコースに行きたいところだけど、その前にカウントを整えたい。低めのカーブでなら、次の球にも繋げられる)


 カウントはワンボールワンストライク。優築のサインを受け取り、空は辻本への三球目を投げた。

 打者の目線の高さまで浮き上がった白球が、優築のミット目掛けて沈んでいく。低めへの制球はばっちりだ。だが、辻本はこの球を待っていた。


(コースは厳しくない。打てる)


 外に流れていく軌道に逆らわずバットを出し、辻本は左方向へと弾き返す。


「何⁉」


 打球は風の頭上を越え、左中間に弾む。レフトの玲雄が回り込んで捕球するも、二人のランナーは生還。打った辻本も二塁を陥れた。


「ナイバッチ!」

「しゃあ!」


 大きなガッツポーズを作る辻本。優築の配球を読み切り、狙いすました一打を放った。


 これで二対一。先手を奪われた花月だったが、あっという間に逆転した。


See you next base……


WORDFILE.38:野手選択(フィルダースチョイス)


 フェアのゴロを扱った野手が、一塁で打者走者をアウトにする代わりに、前の走者をアウトにしようと他の塁へ送球すること。

 本来は野手の行為自体を指す用語であるが、記録の一つとして扱われることも多い。その場合は主に、一塁で打者走者をアウトにできたにも関わらず、前の走者をアウトにしようと他の塁に送球し、どちらもセーフになった時に記録される。その他、他の塁への送球を利用した進塁や、点差が離れているなどの理由で守備側が全くアウトにしようとしなかった盗塁などに適用される。

 野手選択で出したランナーは失策とは区別されるため、投手の自責点の対象になる。


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