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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第八章 控えの意地
98/181

96th BASE

お読みいただきありがとうございます。


今回から三回戦に入ります。

亀ヶ崎にとっては因縁の相手です。

どう立ち向かっていくのでしょうか?

 開会式の日とは打って変わり、今日は灼熱の太陽が元気に働いている。湿度も高く、一歩外に出ただけで、首元に多量の汗が湧いてくる。そんな気候の中、亀ヶ崎高校は夏の大会三回戦に臨む。


「ただいまより、花月高校対亀ヶ崎高校の試合を開始します」

「よろしくお願いします」


 両チームが整列し、挨拶を終える。相手は大阪の花月高校。昨年の大会で亀ヶ崎が負けたチームである。


「昨日も言われたように、どこが相手だろうと私たちは私たちの野球をすれば良い。まずは先制点を取りにいくわよ!」

「おー!」


 亀ヶ崎は先攻。まずは一番を打つ光毅が打席に向かう。


(去年はただ見てるだけだった。先輩たちのリベンジは私が果たす!)


 花月高校の先発は辻本つじもと。右のオーバースローで、一年前の試合でも登板していた。その時は見事に亀ヶ崎打線を無得点に抑え、チームの逆転勝利に貢献した。


 球審のプレイボールの合図を聞き、辻本が一球目を投げる。高めの直球。見送ればボールだが、光毅は打ちにいく。


「ストライク」


 ボールはバットの上を通過。空振りとなる。


「こら光毅、気負い過ぎ! ピッチャー助けるだけだよ。いつも通りいつも通り」

「い、いけね……」


 チームメイトから注意を受け、光毅はバツが悪そうに下唇を噛む。気合が入っているのは良いことだが、それが空回りしてはいけない。光毅は大きく息を吐き、加速する心臓の鼓動を一度沈める。


(積極的に打つのがいけないわけじゃない。けどクソボールを振るのは駄目。どう頑張ったって打てやしないんだから。自分がヒットにできる球だけを打つんだ)


 気を取り直して二球目。辻本はインローを攻める。しかし判定はボール。光毅もしっかりと見極めた。


(辻本はストレートよりも変化球を多投するタイプ。次はきっと変化球で来る)


 三球目、辻本はアウトコースにスライダーを投げてきた。光毅は外へと逃げていく軌道に合わせてバットを出し、芯で捉える。


「おお!」


 ライナー性の鋭い打球に、亀ヶ崎ナインも歓声を上げる。先頭バッター出塁なるか。


「アウト」


 だが飛んだ先はセカンド真正面だった。守っていた内場うちばが胸の前で捕球する。


「くそっ」


 残念ながらヒットにはならず、光毅は悔しそうな顔でベンチへと引き上げる。この後の風と晴香もアウトになり、三者凡退で初回の攻撃は終了した。


 代わって一回裏。先発を務める空は、花月のトップバッター、森田もりたをサードフライに打ち取る。


「ナイピッチ。先頭切ったの大きいよ!」


 その光景を同じ三年生、武田葛葉がベンチから見つめる。彼女は人差指を立ててワンナウトを示しながら、マウンドの空を鼓舞する。


(空、今日も良い感じで投げられてるみたい。序盤は安心して見ていられるかな)


 リリーフ投手である葛葉は、特に指示が無い限り初回からブルペンに入ることはしない。彼女が始動するのは基本的に三回以降。五回に登板できるように準備する。もちろん試合展開によって流動的になるので、これはあくまでも目安だ。


「アウト。チェンジ」


 空も初回を三人で切り抜ける。ベンチに帰ってくる彼女を、葛葉が出迎える。


「ナイスピッチ。調子良さそうじゃん」

「普通だよ。それに大事なのはこれから。そっちも準備の方頼むよ」

「了解」


 試合は三回まで両者無得点で進む。四回表の亀ヶ崎の攻撃に入るところで、葛葉はグラブとボールを持ってベンチを出た。


「菜々花、肩作るの付き合ってもらえる?」

「分かりました」


 控え捕手の菜々花を引き連れてブルペンへ。試合の行方を確認しながら、出番に備える。


(空は良いピッチングを続けてる。ただこっちも点が取れていない。覚悟はしていたことだけど、去年と同様、厳しい試合になるだろうね)


 葛葉の頭の中に、一年前のハイライトが一コマ一コマ映し出される。どれも閉じ込めておきたい記憶だが、どうしても蘇ってきてしまう。葛葉はそれを振り払うように小刻みに首を振り、投球練習を開始する。


(過去のことは思い出すな。この試合のことだけを考えろ)

「一球目、真っ直ぐを行くよ!」

「はい」


 葛葉は菜々花のミット目掛けて腕を振る。アウトコースにストレートが決まった。


 スコアレスのまま迎えた五回表、ようやく試合に動きが見える。


「オッケー、ナイバッチ!」


 この回の先頭、六番の杏玖がレフト前ヒットで出塁すると、続く紗愛蘭が送りバントを決め、ワンナウト二塁のチャンスを作る。


《八番キャッチャー、桐生さん》


 ここでバッターボックスには優築が入る。一打席目は初球を弾き返し、ライトへのヒットを放った。教知大との試合から打撃好調で、この大会入ってもそれをキープしている。


(前の打席は積極策が実った。ここもそれに乗じたいけれど、焦りは禁物。追い込まれるまでは、自分のスイングをすることを心掛ける)


 花月の投手は辻本のまま。一球目、内角にシュートが来る。高めに浮き、優築はやや仰け反りながら見送る。判定はボールだ。


(やっぱりここも変化球中心に組み立ててくるのか。私もこの投手をリードするなら、同じような配球になるのだろうけど)


 二球目はカーブが外角一杯のコースに決まる。流石に優築は手が出せない。


(二球で内外と散らしてきた。本来ならここでスピードボールを挟みたいと思えてくる。ただキャッチャー目線で言えば、際どいコースの後に安易にストレートでストライクを投げさせることはしたくない。ここはもう一球変化球を待ってみようか)


 三球目、辻本が投げてきたのはスライダーだった。投げ損じか、内角から真ん中を通っていき、優築には打ちやすいゾーンに来る。


(よし。行け!)


 優築は打ちに出る。ただボールの上っ面を叩き、二遊間へのゴロとなる。


「オーライ」


 予め二塁ベース寄りに守っていたショートの須知すちが掴んで一塁へ送球。その間に杏玖は三塁へと向かう。


(思ったよりもスライダーの落差が大きかった。読みが甘かったか)


 優築が倒れ、ツーアウト三塁と局面が変わる。次はラストバッターの空だ。


「よろしくお願いします」


 打席に入った空は、軽く足場を均しながらバットを構える。ピッチングがあるため九番に入っているが、バッティングの方も悪くはない。今大会でも一戦目、二戦目の両方でヒットを打っている。

 ただし相手の辻本は、二回戦までに当たった投手に比べてレベルはワンランク高い。亀ヶ崎打線が打ちあぐねている現状がそれを物語っていた。


 空への初球、辻本はアウトコースのスライダーでストライクを取る。ストレートに的を絞っていた空はタイミングが合わず、空振りを喫する。


(変化球はまだまだ切れてるなあ。こういうボールを狙って打てれば良いんだけど、それができないから皆も苦労してるんだよね)


 二球目はストレート。しかしストライクゾーンからは大きく外れていた。空はあっさりと見極める。


 三球目、今度は膝元にカーブが来る。空はボールと判断して手を出さなかったが、球審はストライクをコールする。


(今の入ってるのか。まあでもあそこに投げられたらどうしようもないな。さて、次は何で来る?)


 カウントはワンボールツーストライク。花月バッテリーはできればここで勝負を決めたいところだ。

 キャッチャーの川端かわばたが出すサインに、辻本が頷く。セットポジションに就いた彼女は足を上げ、空に対しての四球目を投じる。


(真ん中低め、入ってる)


 空がスイングを開始する。だがそれに合わせるように、直進してきたボールは沈み始める。


(うわ、フォークじゃん。当てなきゃ……)


 空は必死にスイングの軌道を修正する。如何にかこうにか、バットにボールを当てた。


「走れ空!」


 高く弾んだ打球がサードの前へ転がる。仲間の大声に押されながら、空は懸命に一塁に向かって駆け出す。


「辻本、ウチが捕る」


 サードの酒井さかいが辻本を制し、前に出てボールを掴む。その流れのまま、酒井は素早く握り替えて送球する。


「アウトだ!」

「セーフだ!」


 微妙なタイミング。グラウンドにいる全員が、食い入るように一塁塁審に注目する。


「セーフ!」 


 塁審は大きく両手を広げた。タイムリー内野安打だ。


「はあ……はあ……。よしっ!」


 空は力強く左拳を握り、チームメイトのいる三塁側ベンチに突き出す。先に得点を挙げたのは、亀ヶ崎だった。



See you next base……


STARTING LINEUP


亀ヶ崎高校

1.戸鞠 光毅     右/右 セカンド

2.城下 風       右/右 ショート

3.糸地 晴香     右/右 センター

4.宮河 玲雄     右/左 レフト

5.紅峰 珠音     右/右 ファースト

6.外羽 杏玖     右/右 サード

7.踽々莉 紗愛蘭  右/左 ライト

8.桐生 優築     右/右 キャッチャー

9.天寺 空       左/左 ピッチャー


花月高校

1.森田もりた   右/右 センター

2.内場うちば   右/右 セカンド

3.辻本つじもと   右/左 ピッチャー

4.小藪こやぶ   右/右 ファースト

5.吉田よしだ   右/右 レフト

6.須知すち   右/右 ショート

7.川端かわばた   右/右 キャッチャー

8.酒井さかい   右/右 サード

9.池野いけの   右/左 ライト


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