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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第八章 控えの意地
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95th BASE

お読みいただきありがとうございます。


メリークリスマス!

……といっても何もありませんが。

しかも作中は夏真っ盛りです(笑)。

「お疲れさん。そして二回戦突破おめでとう。今日は終始こっちのペースで試合運びができたな。初戦に比べて皆の動きも良かったと思う」


 二回戦の試合後、ベンチから出てきた私たちは、グラウンド脇の芝生に腰を下ろし、監督の話を聞く。


「三回戦は休養日を挟まず、明日行われる。相手は大阪の花月かげつ高校だ」

「え? 花月だって」

「マジか……」


 三回戦の相手校の名前が出た瞬間、先輩たちの顔が一斉に強張る。監督もどことなく意味ありげな口ぶりだった。


「これも何かの巡り合わせかもしれんな。もちろん相手がどこだろうが、試合にはいつもと変わらない平常心で臨んでほしい。ただ偶然と言えど、こうした機会が得られたことは前向きに捉えて良い。モチベーションにする分には一向に構わない。連戦になるので宿舎に戻ったら各自しっかりと休んで、明日は全員、万全の体調で戦おう」

「はい!」

「俺からは以上だ。迎えのバスがもうすぐ来るそうなので、それまで待機していてくれ」


 緊張感から解放され、私たちの間に緩んだ空気が流れる。何人かの人は立ち上がり、トイレに行ったり飲み物を買いにいったりする。花月高校について気になった私は、近くにいた葛葉さんに尋ねる。


「あの、葛葉さん」

「どうした?」

「花月高校のことなんですけど、何か因縁みたいなものがあるんですか?」

「ああ、そのことね……」


 葛葉さんは左の人差指で頬を掻きながら、苦笑いを浮かべる。


「去年の夏、私たちが負けた相手なんだよ。ちょうど今回と同じ三回戦でね」

「なるほど。ということはそのリベンジになるんですね」

「うん。それで実を言うと、あの時は私のせいで負けたんだよな……」


 葛葉さんは小さく溜息をつくと、当時の試合内容について教えてくれた。


 亀高は初回に三点を先制するも、徐々に追い上げられ、六回に同点とされる。試合はそのまま延長戦に突入し、亀高は八回表に二点を奪う。その裏から登板したのが葛葉さんだ。だがいきなり三連打を浴びて振り出しに戻されると、最後はワイルドピッチで三塁ランナーの生還を許し、逆転負け。亀高は大会から姿を消すことになった。


「せっかく二点取って勝てる雰囲気が出てたのに、私が台無しにした。情けなかったし、自分に腹が立って仕方なかったよ」


 普段は陽気な葛葉さんだが、この時ばかりは少し口の運びが重たい。嫌な記憶を思い出させ、申し訳ないことをしてしまった。まずいと感じた私は、すかさずフォローを入れる。


「け、けど投手なら、打たれることだってありますよ。葛葉さんだけが責任を背負う必要なんてないと思います」

「分かってる。似たようなことを先輩にも言われたし、今さらくよくよするつもりもないよ。でももしもチャンスがあるのなら、あの悔しさを自分の手で晴らしたいとは思ってる。ただそれよりも、勝つことが第一だけどな」


 濁した言い方だったが、花月高校との再戦には期する想いがあるのだろう。しかし葛葉さんはリリーフ投手。最初から投げる先発投手であれば、ある程度自分で試合を構成していけるが、どこで投げるか決まっていないリリーフ投手はそれができない。予めできた流れに乗っていくしかないのだ。そのため葛葉さんに挽回の機会が巡ってくるかどうかは、試合をやってみないと分からない。


「ま、とりあえずは空に頑張ってもらって、私はいつでも投げられるよう準備しておく。やることは普段と変わらないよ。真裕も同じだからな」

「わ、分かりました」


 葛葉さんは私の頭を優しく叩く。ちょうどそのタイミングで、バスが到着したという報告が入る。


「お、バス来たみたいだ。行くか」

「はい」


 葛葉さんは腰を上げ、荷物を担いでバスの待つ方へと歩き出す。私もその後ろに付いていく。


 できることなら、明日は葛葉さんが良い場面でマウンドに上がれる状況ができてほしい。それで抑えて勝てれば最高だ。そんな願いを抱きながら、私は帰りのバスに乗り込むのだった。



See you next base……

WORDFILE.37:暴投(ワイルドピッチ)、捕逸(パスボール)


 投手の投球がワンバウンドするなど、捕手の処理できないようなコースに行き、それが原因でランナーの進塁を許すと、その投手には暴投(ワイルドピッチ)が記録される。一方、捕手が処理できると思われるコースの投球を捕球できず、それが原因でランナーの進塁を許した場合は、捕逸(パスボール)が記録される。

 暴投と捕逸の区別にストライクとボールは関係なく、捕手が捕球可能かどうかで判断される。例えばワンバウンドした球を打者が空振りし、ストライクとなっていても、それが原因でランナーが進塁した場合は暴投となる。

 暴投で出したランナーは投手の責任とされるため、自責点の対象となる。反対に、捕逸で出したランナーは捕手の責任とされるため、投手の自責点の対象にはならない。また、暴投も捕逸もミスではあるが、それらを犯した選手に失策は付かない。

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