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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第七章 夏大、始まる。
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93th BASE

お読みいただきありがとうございます。


ライバルがベールを脱ぎます。

 大会二日目。私たち亀高には試合が無い。そのため、午前中は他のチームの試合を観戦することになっている。


「今日は埼玉花栄(はなえ)の試合が組まれている。うちが優勝するためには、間違いなく倒さなければならないであろう相手だ。せっかくの機会だし、彼らがどのような意識で野球に取り組んでいるのかも含め、その戦いぶりをしっかりと観察しておくんだ」

「はい」


 埼玉花栄高校は、今大会の優勝候補の筆頭である。夏の大会はここ五年で三回の優勝を誇っており、この前の春の選抜も制覇している。まさに名門中の名門校。頂点を狙うどのチームにとっても、最大のライバルとなる。


 球場入りした私たちは、スタンドのバックネット裏に移動。三塁側寄りの席に陣取る。


「うお、結構人いる」


 優勝候補の試合ということもあり、球場にはかなり多くの高校が視察に訪れている。その中には楽師館高校も混ざっていた。ベンチ入りしている万里香ちゃんの姿もある。

 相手は岩手の奥州大付属高校。舞泉ちゃんのいるチームだ。


「あ、真裕ちゃんだ。おーい」


 アップから引き揚げてくる際、舞泉ちゃんが私を見つけ、手を振ってきた。試合前なのに緊張感が無いなあ。なんてことを思いながら私が苦笑いで手を振り返すと、舞泉ちゃんは嬉しそうに笑ってベンチへと入っていく。

 奥州大付属のスタメンに彼女の名前は無い。果たして出番はあるのだろうか。


「ねえ晴香、この試合どうなると思う?」

「そうねえ……。やっぱり埼玉花栄が一枚上手なんじゃないかしら。奥州は打線の方は良いけど、投手力が心もとないって印象ね」


 後ろに座っていた玲雄さんと晴香さんが何やら話をし始める。どうやらこの試合の展開について考えているみたいだ。


「奥州が序盤で点差を付けたら分からないけれど、接戦になったら間違いなく花栄の方が優勢になるわね」

「まあそうだよねえ。花栄は春から別段メンバーが変わってるわけでもなさそうだし、攻守両面で安定してるよね」


 二人とも埼玉花栄に分があると予想。実際、試合はその通りに進む。


 初回は両校無得点に終わったものの、二回裏、花栄が二本のタイムリーで三点を先制する。負けじと奥州大付属も反撃に出るが、点を取っては取られを繰り返し、差が縮まらないまま、五回裏の花栄の攻撃へと入っていく。


「ボール。フォア」


 この回の先頭がヒットで出塁すると、次打者が送りバントで二塁に進める。その後二者連続のフォアボールが出て、花栄はワンナウト満塁の大チャンスを作った。


「よっしゃー! ここからコールドまで持っていこうぜ!」


 意気上がるチームメイトの声に乗せられ、花栄の四番、白石しらいしさんが打席に向かう。ここまでは三打点の活躍を見せている。

 ここで点を入れられれば、奥州大付属はかなり厳しい状況に立たされる。しかし今投げているピッチャーでは、白石さんは抑えるのは難しいだろう。


「タイム」


 すると奥州大付属がタイムを取り、投手交代を告げる。


《奥州大学付属高校、ピッチャーみなもとさんに代わりまして、小山さん》

「え⁉」


 私は耳を疑う。何とここで指名されたのは舞泉ちゃんだった。ブルペンの方から小走りでマウンドに上がり、前のピッチャーからボールを受け取る。

 遠目から見ても、背丈は他のチームメイトよりも群を抜いて高いことが分かる。ただいくら何でも、一年生がこの場面で登板するのは荷が重すぎる。試合を諦めてしまったのではないかと思えるくらいだ。


 しかし、そんな考えは一瞬にして吹き飛ばされる。


 足元をなしし、舞泉ちゃんが投球練習を開始する。ゆったりとしたフォームから、長い右腕をしなやかに振る。


「おお!」


 舞泉ちゃんが投げたボールが、真っ直ぐにキャッチャーミットへと吸い込まれる。その瞬間、場内から驚嘆の声が上がった。


 速い。とにかく速い。本当に女子が投げているのかと疑ってしまう程、段違いにスピードが出ている。


「おいおい、奥州大付属にこんな投手いたのかよ。超秘密兵器じゃん」

「あの子、一年生です」


 後ろから聞こえてきた誰かの声に反応し、私は振り返って答える。


「え? マジ?」

「は、はい。私開会式の前にあの子と話したんです。今年奥州大付属に入学したって言ってました」

「嘘だろ。やば過ぎでしょ」


 先輩たちも驚きを隠せない。そうこうしている内に試合が再開。打席で白石さんがバットを構える。


「とりあえず騒ぐのは後。今はこの対決に集中するわよ」

「は、はい」


 晴香さんに促され、私たちはグラウンドに目を向け直す。その初球、球種はもちろんストレートだ。白石さんのバットが空を切る。高めの甘いコースだったが、完全に振り遅れている。


 舞泉ちゃんは二球目もストレートを投じる。これも空振りとなった。

 白石さんは簡単に追い込まれる。しかし三球目、これまでと同じような投球を、今度はバックネットへのファールにする。


「流石花栄の四番ね。三球できちんとタイミングを合わせてきてる」

「次も同じ球なら打ち返すんじゃない?」

「ええ。同じ球なら……ね」


 晴香さんたちも固唾かたずを呑んで見守る中、舞泉ちゃんが四球目を投じる。コースは真ん中低め。球速はやや落ちているように見える。白石さんは手を出していく。


「バッターアウト!」


 けれどもバットには当たらなかった。ホームベースの手前でボールが急降下したのだ。


「今の落ちた?」

「ええ、フォークね」


 フォークボール。ストレートに似た真っ直ぐな軌道で進みつつ、打者の近くで鋭く落ちていく変化球だ。空振りを取りやすいため、決め球として使用する投手は多い。舞泉ちゃんもその一人だった。しかも切れ味が良く、スピードもある。初見では打者は間違いなく見極められないだろう。


「ストライク、バッターアウト。チェンジ」


 舞泉ちゃんはこの後のバッターからも三振を奪う。球場全体から拍手喝采を浴び、舞泉ちゃんはベンチに戻っていく。


 彗星の如く現れた“怪物”、というのはこのことか。これまで埼玉花栄に向いていた注目は、瞬く間に舞泉ちゃんの方に切り替わる。


 鮮烈すぎるデビューを果たした小山舞泉ちゃん。だが彼女が魅せる衝撃は、これだけでは終わらなかった。



See you next base……


WORDFILE.36:フォークボール


 打者の手元で縦に落ちる軌道が特徴の変化球。単に「フォーク」と呼ばれることもある。一般的には人差し指と中指でボールを深く挟んで投げる。この握り方が食器のフォークに似ていることから名付けられた。

 落下する直前までストレートとほぼ同じ軌道で進むので、打者にとっては非常に判別し辛い。加えて変化も大きいため、空振りを奪える球種の一つとして、決め球に使う投手も多い。ただし暴投や捕逸も起こりやすく、尚且つ握力が不十分ですっぽ抜けると、高い確率で痛打されるという危険性もある。


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