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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第七章 夏大、始まる。
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91th BASE

お読みいただきありがとうございます。


どんなものにも終わりがある。

今回はそんなお話です。

 鮮やかな緑色の葉が豊富に生い茂る木の下。ここなら肌で感じる暑さもかなり和らぐ。


「皆、ここに一回集まろうか」


 グラウンドから引き揚げ、愛里はナインを集める。これが、和久学園の三年生にとって最後のミーティングだ。


「まずは本当にお疲れ様でした。それと、ここまで付いてきてくれてありがとう」

「う、うう……。うえーん……」


 愛里を除き、メンバーは全員泣いていた。中でもチームのムードメーカーの美波は、大粒の涙を大量に流している。


「もう皆、そんなに泣かないの。喋り辛いじゃん」

「だって、だって……」


 思わず愛里に抱き着く美波。彼女の小さな頭を、愛里は優しく撫でる。


「全く……。美波はほんとに泣き虫さんなんだから」

「だって……、だってもう、私たち野球できなくなっちゃうんだよ。こんなに頑張ってきたのに、ここで終わっちゃうんだよ」

「美波……」


 メンバーのすすり泣く声が大きくなる。その光景を見て、愛里は嬉しそうに笑みを浮かべた。


 この野球部は、愛里自身が野球をやりたいという理由だけで創ったつもりだった。そのため彼女は時々、他の部員たちに無理強いしているのではないかと不安になっていた。

 けれどもそんなことはなかった。皆、野球部の存在を大切に思ってくれていたのである。


「皆ありがとう。私は幸せ者だ」

「愛里、それはこっちの台詞だよ。野球部が無かったら、私たちはこんなにも楽しい日々を過ごせなかった。野球部を創ってくれて、私たちに野球を教えてくれて、ありがとう」


 真祐が全員を代表し、愛里に感謝を伝える。普段はぶっきらぼうな真祐も、この時ばかりは目を赤く腫らしている。


「ねえ、本当にこれで終わりなの?」


 美波が顔を上げ、愛里に問う。もうこれ以上は泣けないのではないかと思えるくらいに泣いているのに、未だに涙は溢れている。


「……そうだよ。残念だけど、もう終わりなの」

「嫌だ嫌だ! まだ終わりたくない! まだ終わりたくないもん!」

「我儘言っても駄目。これは決まりなの。この大会で私たちは引退しなきゃいけないの。だから……」


 愛里は美波を諭そうとする。だがその一方で、彼女の目にも再び雫が浮かんでくる。


「だから……、だから……」


 迸る感情を、愛里は遂に堪えきれなくなってしまった。美波の肩に頭を乗せ、落涙する。


「うう……、うえーん……」


 彼女たちは終わらなければならない。どんなに続けたいと願っても、どんなに離れたくないと願っても、それは叶わない。この敗戦を機に、皆それぞれの新たな道に向かって踏み出さなければならないのだ。


「嫌だあ、嫌だよお……」


 愛里の叫び声が轟く。その声は何度か枯れそうになりながらも、中々鳴り止まない。


 青春とは残酷なものである。永遠に続くかと思えるような楽しい時間を与えておきながら、ある時唐突にそれを奪い去る。人はそれに対してどうすることもできず、ただ涙を流すしかない。彼女たちも同じだった。


 全員が落ち着きを取り戻し、愛里は改めて挨拶をする。


「私たち三年生はこれで引退です。一年生もここまでお疲れ様。私たちに付き合ってくれてありがとう。それでこの後についてなんだけど、ここで野球部を辞めてもらっても構わないよ。元々私たちが大会に出るために創った部だからね。無理させたところもあるだろうし……」

「何言ってるんです!?」


 愛里の言葉を優芽が遮る。あまりの威勢の良さに、愛里たち三年生はびっくりして一様に体をびくつかせた。


「そんなのとっくに答えは出てますよ。私たち、これからも野球部を続けます!」


 優芽は力強く宣言する。歩子と那奈佳の二人も、やる気満々という顔つきをしている。


「ほ、本当に良いの? 私たちが抜けたら三人になっちゃうんだよ」

「そんなの関係ありません。私たちだって野球がしたいんです。部員ならまた集めます。そしてもう一度ここに戻ってきて、今度は絶対勝ってやります!」

「優芽……」


 後輩がそんなことを言い出すなんて思ってもいなかった。それだけに、愛里の胸に込み上げる喜びも一入(ひとしお)だった。


「そっか。ならもっともっと上手くなってもらわないとね。那奈佳、野球経験者として、この二人とこれから入ってくる子たちを頼んだよ」

「はい、ビシビシ鍛えてやりますよ。まずは練習量をこれまでの倍に増やすことから始めます」

「ええ……。今でさえ付いていくのがやっとなのに……」

「当たり前でしょ。二人とも体力が無いんだから、そこを克服しないと。そのためには練習あるのみだよ」

「い、嫌だあ……」


 頭を抱える優芽と歩子。その様子に愛里たちは白い歯を溢す。和久学園にようやく笑顔が戻った。


「よし。じゃあ最後は後輩たちの検討を祈って、あれで締めますか」

「お、まじですか。いただきます」


 愛里が右手を前に差し出し、その上に仲間たちが手を重ねていく。そうして、大空に向かってあの掛け声を放った。


「行くぞ、がんばっぺ」

「和久学園!」


 愛里の挑戦は終わった。しかし彼女の想いは後輩へと受け継がれ、ここから新たな歩みが始まる。和久学園の野球部の歴史はこれからも紡がれていくだろう。愛里たちは、その一ページ目を刻んだのだ――。



See you next base……

PLAYERFILE.36:森島(もりしま)優芽(ゆめ)

学年:高校一年生

誕生日:3/16

投/打:右/右

守備位置:外野手

身長:153

好きな食べ物:お寿司


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