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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第七章 夏大、始まる。
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88th BASE

お読みいただきありがとうございます。


いつの間にか今年もあと1か月になってしまいました。

何だかやりたかったことの半分もできていないような……(笑)。

とりあえず残り1か月、頑張りましょう。

「ご、ごめん……」


 五回表の円陣を組んだところで、愛里は思わず謝罪の言葉を漏らす。せっかく仲間のおかげでこの場所に来られたのに、自らが打たれたせいで惨めな思いをさせてしまった。そのことがとにかく申し訳なく、彼女はただ謝ることしかできない。


「愛里……」


 項垂れる愛里の姿を前に、他のメンバーは何も言えなくなってしまう。これまで自分たちを率いてきてくれた愛里が、こんなにも苦しんでいる。どうにか元気付けたいが、安易な励ましは逆に傷つけるだけ。ほぼ誰もが掛ける言葉を見つけられず、彼女たちの間に沈黙が流れる。


 ところが、それを一人の人間が破った。


「ま、まだ諦めるのは早いよ!」


 声の主は、先ほどの守備の最中もずっと声を張っていた美波だ。


「私まだ、こんなところで終わりたくない。愛里が繋いでくれた絆を、簡単に諦めたくない。もっともっと皆と野球していたいよ!」


 悲惨とも言える現実を前に、胸が張り裂けそうだった。気を緩めれば号泣してしまいそうだった。けれどもこのまま黙り込んで終わらせることなんてできなかった。目元に小さな雫を浮かべ、美波は仲間たちに想いをぶつける。

 そしてそんな彼女の健気な訴えが、和久学園ナインの心を動かす。


「美波……。そうだ……、そうだよ! 私も美波と一緒。私たちが紡いできた時間が、ここであっけなく終わりだなんて絶対に嫌だ! 皆だってそうだろ!?」


 そう問いかけたのは美波の隣にいた真祐だ。言うまでもなく、皆揃って賛同する。誰一人、諦めたい者などいないのだ。


「コールドなんてさせない! 追い込まれてからが、私たちの本領だもんね」

「皆で愛里まで繋ごう! そうすればきっと何か起こるよ!」

「そうだ! やってやろう!」

「み、皆……」


 甲斐甲斐しい声に導かれるように、愛里が顔を上げる。それを仲間たちは笑顔で迎えた。消えかけていた(ともしび)に、再び炎が宿る。


「行こう愛里。まだ私たちの攻撃は残ってる。必ず愛里に回るから、準備しておいて」

「まゆしい……。うん、分かった」


 真祐の言葉に、愛里が力強く頷く。すると輪の中央にいた美夕が、景気付けにあることを提案する。


「あ、ねえ皆、いつものやっとこ。あれすっごい元気出るし」

「おお、それ良いね。ふふっ、じゃあ皆、手を出して」


 愛里が右手を前に出す。和久ナインはその上に自分たちの手を重ねる。そうして、あのいつもの掛け声をかけた。


「行くぞ! がんばっぺ……」

「和久学園!」


 想いを乗せた少女たちの声が、青みの増してきた空へと鳴り渡る。心を一つにした和久学園ナイン。ここから反撃なるか。


《五回表、和久学園高校の攻撃は、六番サード青瀬さん》


 この回の先頭バッターは吉乃。前の打席は三球三振だった。


 大会規定では、五回が終わって十点差がついていればコールド負けとなる。つまり和久学園がそれを免れるには、最低でもこの回に四点を取らなければならない。


「よろしくお願いします!」


 気合の入った声と共に、吉乃が打席に立つ。


(向こうはさっき十点取れたんだ。こっちだって四点くらいなら返せるはず。愛里まで回すには、まず私が塁に出なきゃ)


 初球。真ん中付近に来たストレートに対し、吉乃は果敢に打ちにいく。


「ストライク」


 空振り。気持ちの良いスイングだったが、スピードに対応できておらず、かなり振り遅れている。


(はっや。なんでこんな球投げられるん?)


 二球目はインコースへのストレート。吉乃はこの球にも空振りを喫する。 


 はっきり言って、打てそうにない。和久学園がコールドを阻止したいのと同様に、亀ヶ崎にもこのままコールドで終わらせたいという目論見がある。そのため空も手加減することなく打者を抑えにきていた。


(追い込まれちゃった……。けどどうにか当てるだけでもするんだ。前に飛ばせば何か起こるかもしれないもん)


 野球部を創設する際、愛里が最初に声を掛けたのがこの吉乃だった。実はこの二人は小学校からの(よしみ)。吉乃は昔から愛里が野球に励んでいたのを知っていた。その姿に何となく憧れも抱いており、野球の経験は無かったが、愛里に頼まれた時は二つ返事で協力することを決めた。以来、彼女は副キャプテンを任され、愛里が一番信頼を寄せる存在としてサポートし続けてきた。


(ぶっちゃけ、九人集めるのは無理だと思ってた。愛里の練習相手になれれば良いくらいにしか考えてなかった。でも今、こうして私たちは一つのチームとして大会に出られてる。これって凄いことだよね。けどこのままやられっぱなしで終わっちゃったら、その凄さが薄れちゃう。だから野球の神様、私たちにもう一花咲かさせてください!)


 迎えた三球目。空は高めのコースに三球連続でストレートを投じてくる。


(当たれえ!)


 吉乃は一縷(いちる)の願いを胸にスイングする。ボールがバットに掠った音が鳴った。


「あ、当たった」

「ストライク。バッターアウト」

「え?」


 吉乃は戸惑いながら後ろを振り返る。確かにバットには当たっていた。しかし、ボールは直接優築のミットに収まっていたのだ。球審もファールチップのジェスチャーを取っている。


「うっそお……」


 残念ながら吉乃は三振に倒れる。出塁することはできなかった。


「……ごめん。出られんかった」

「ドンマイドンマイ。代わりに私が打つから、よっぴーは応援で力をちょうだい」


 すれ違う吉乃を、次打者の美波が優しく微笑みながら宥める。未だ明るさを失わない彼女に釣られて、吉乃も自然と白い歯が零れる。


「分かった。頼んだよ」


 吉乃は自らの想いを美波の背中に託す。それを受け取った美波は、胸の奥から沸き立つ勇気を感じながら右打席に向かう。


《七番セカンド、田山さん》


(この二年半、本当に楽しかった。一所懸命に練習して、偶に皆でお出掛けして。でもまだ終わりじゃない。終わらせたくない。私は皆より下手っぴだけど、できないならできないなりに少しでも工夫するんだ)


 美波はグリップの一番上までバットを余す。確実にバットに当て、何としてでも前に飛ばそうという意思が垣間見える。


(向こうもそれなりに考えてきてるか。その心意気は買いたいところだけど、それだけ短く持ったら外の速球は打てないでしょう)


 優築がアウトコースへのサインを出す。一球目、美波は打ちにいったが、案の定バットが届かず空振りとなる。


(ほらね。次も同じ球でお願いします)


 二球目。またもや空振り。美波も吉乃と同じようにあっさりと追い込まれる。


(どうしよう……。けど私にはこれしかない。それなら……)


 三球目。バッテリーはこれまで通り外角のストレートを続ける。これもバットは届きそうにない。だが美波は、ボールに体をぶつけにいくようなスイングをする。


(腕だけで届かないんだったら、体を使えば良いんだ!)


 バットにボールが当たる。球威に押され、どん詰まりの小フライが上がった。


「あ、ファースト!」


 ただ飛んだコースが良い。ファーストの真後ろだ。珠音と光毅が追うも捕球できず、打球は紗愛蘭の前に落ちる。ヒットとなった。


「や、やったやった!」

「おお、よくやったみにゃみ!」

「えへへ。イエーイ」


 一塁ベース上で美波はベンチに向かってⅤサインを作る。愛里まで繋げるべく、まずは一人目のランナーが出た。



See you next base……


PLAYERFILE.33:田山美波(たやまみなみ)

学年:高校三年生

誕生日:1/22

投/打:右/右

守備位置:ニ塁手

身長:156

好きな食べ物:チョコレート、ワッフル

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