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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第七章 夏大、始まる。
89/181

87th BASE

お読みいただきありがとうございます。


野球における流れは時に、無情な未来を招くもの。

今回はそんなお話です。

《四回の裏、亀ヶ崎高校の攻撃は、二番ショート、城下さん》


 この回の先頭バッターは風。そこから晴香、玲雄らの中軸へと繋がっていく。追加点の欲しい亀ヶ崎にとっては絶好の打順である。


(全体的に和久学園の雰囲気が暗くなっている気がする。チャンスを逸したのがかなり堪えてるのかな。ならそこを上手く突くために、私の役割は……)


 初球、風は愛里が投げるのに合わせてバントの姿勢を取る。愛里とサードの吉乃は慌ててチャージを掛けるが、風はボールが当たる手前でバットを引いた。


「ボール」


 ストレートが低めに外れる。続く二球目の投球も、風はバントの構えをして見逃す。


「ボール」


 これも外れてツーボールとなった。愛里は苦しいカウントを自らで作り出してしまう。


(ああもう、どうせ振りだけなんだから気にしなくていいのに。これじゃあ相手の思う壺じゃん)


 自分に苛立つ愛里。風も巧みに揺さぶってくるが、ここは冷静に対処しならなければならない。


(まずはストライクを入れること。もしバントしてきても、きちんと処理すればアウトを取れるはずだよ)


 マウンドのロジンバックを手に取り、愛里は気持ちを整えようとする。だがこうした状況を立て直すのは非常に難しいもので、幾ら頭の中で理解できても、それが心と体の調整に繋がっていかないことが多い。


「ボール、フォア」


 結局、愛里は風をストレートの四球で歩かせてしまった。ノーアウトでランナーを出し、亀ヶ崎のクリーンナップを迎える。


《三番センター、糸地さん》


 隆浯からのサインを確認し、晴香が打席に入る。ここは普通に打つだけでなく、盗塁、ヒットエンドランなど様々な作戦が考えられる場面だ。

 晴香への投球の前に、愛里は一塁に牽制球を投じる。風は頭から滑り込んでベースに戻った。


(ここは何をやってこられても嫌。一球外して出方を覗おう)


 初球、夏耶は外角にボール球を要求する。晴香は特に変わった素振りを見せず、平然と見送った。

 亀ヶ崎が何を仕掛けてくるのか分からないため、この配球は理に適っている。ただしストライクを取るのに苦労している今の愛里は、この一つのボールにさえも強い圧迫感を覚えるのであった。


(何も作戦は無しなのかな。とりあえず、次は絶対にストライクが欲しいよ)


 二球目。愛里はアウトローに向けて直球を投じる。しかしリリースの瞬間すっぽ抜けて逆球となり、ボールは晴香の首の前を通過。夏耶が飛びつくようにして捕球する。


「ご、ごめん」

「大丈夫。落ち着いて行こう」


 右手を立てて謝る愛里に、夏耶は気丈に振る舞いながら返球する。これでまたもやストライクが取れぬまま、ボールが二つ先行。バッテリーが徐々に追い詰められる一方で、打者の晴香には大きな余裕ができる。


(三回までとはまるで別人みたいな投球ね。顔つきにも覇気を感じられない。仕留めるならここか……)


 晴香の眼光が一段と鋭さを帯びる。三球目、前の二球よりも幾分力の抜けたストレートが、インコースの低めに来た。


(打てる!)


 晴香はフルスイングで豪快にボールを掬い上げる。一打席をプレイバックするかのように、大飛球がレフト方向へと飛ぶ。


「し、しまった」


 レフト、センターは共に追いつけず、打球は左中間を割っていく。一塁ランナーの風は長駆ホームイン。タイムリーツーベースとなった。


「オッケー! ナイバッチ!」


 ベンチの仲間からの声に応答し、二塁ベースの上で晴香は小さく頷く。ストライクを取りにきた球とはいえ、それを逃さずにしっかりと捉えた素晴らしいバッティングだった。

 この一打で初回以来の得点が入った。何とか踏ん張りたかった和久学園にとっては痛すぎる失点と言える。ここまで必死に仲間を鼓舞していた愛里も、カバーに入った本塁の後方で言葉を失っている。


「愛里、大丈夫?」

「う、うん、平気平気。ここが踏ん張りどころだね」


 夏耶から声を掛けられ、愛里は頑張って笑顔を取り繕う。自分が降板すれば完全に試合が終わる。それを分かっているため、愛里は代わるわけにはいかないのだ。


 しかし……。


「ライトの頭越えた! 二人とも余裕で還ってこられるよ」


「デッドボールだ。儲け儲け」


「ショート弾いてる! 一塁セーフだ」


「ナイバッチ! さあまだまだ続こう!」


 ここから亀ヶ崎の打線が爆発。水の溜まったバケツをひっくり返したかの如く、次々と安打を浴びせていく。加えてエラーや四死球も重なり、更に歯止めが効かなくなる。一点、また一点と得点が加算され、気が付くと中央の電光掲示板には、十対〇というスコアが表示されていた。


「ツ、ツーアウトです。あと一つです。皆さん、元気出していきましょう」

「そうだよ。頑張ろ! ま、まだまだこれからだよ」


 ベンチで見守る一年生の森島(もりしま)優芽(ゆめ)に呼応し、セカンドの美波が懸命に守備陣を盛り上げようとする。だが、それに続く者が出てこない。打たれ始めは全員それなりに声を出していたが、点が入れられていくにつれて段々と萎んでいった。


《七番ライト、踽々莉さん》


 しかもまだこの回は終わっていない。尚もツーアウト満塁というチャンスで、打席に紗愛蘭が立つ。大きな点差が付いているが、紗愛蘭は容赦なく初球を右中間の深いところまで運ぶ。


「バ、バックホーム」


 ボールを拾った美夕から内野へと送球を繋ぐが、この間に三人のランナーが生還する。これでこの回十点目。十三対〇とまた点差が開いた。


「スリーアウト。チェンジ」


 この後の優築がアウトになり、ようやく亀ヶ崎の攻撃が終了。和久学園ナインは足取り重くベンチへと引き揚げていく。


 何と無情なことだろうか。つい二〇分前までは好ゲームを演じていたのに、戦況は一変。一気に試合を決定付けられ、コールド圏にまで入ってしまった。



See you next base……




PLAYERFILE.32:青瀬吉乃(あおせよしの)

学年:高校三年生

誕生日:5/15

投/打:右/右

守備位置:三塁手

身長:160

好きな食べ物:たらこスパゲッティ、とんこつラーメン

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