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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第七章 夏大、始まる。
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86th BASE

お読みいただきありがとうございます。


皆さんの住んでいる街では、午後5時の鐘って流れているのでしょうか?

私のところは流れているのですが、その話を友人にしたら田舎者扱いされました(笑)。

「サ、サード!」


 真祐、空、優築が一斉に打球の行方を確認する。だがその視線の先にあるはずの白球は、一瞬にして姿を消していた。


「ア、アウト!」


 サードを守る杏玖のグラブに収まっていたのだ。痛烈なライナーだったが、飛んだコースは杏玖の真正面。彼女は自分のグラブが見やすいよう、上体を逸らしながら捕球した。


「ああ……」


 抜けていれば一点という打球が目の前でキャッチされ、二塁ランナーの愛里は思わず天を仰ぐ。真祐も打球の方向を見つめ、唇を噛んだまま暫く動き出せない。


(思ったほどボールが上がらなかった。けど会心の当たりだったし、抜けてほしかったなあ……)


 ほんの数センチでも横にずれていれば……。そんなことを強く思わせる打球だった。


「危ねえ……。ナイス杏玖」


 打たれた瞬間は肝を冷やした空だったが、ほっとしたように小さく笑みを漏らす。だがあの打球がサードライナーになったのは歴とした理由がある。空はコースこそやや外してしまったものの、高低は間違えなかった。そのため低い打球となり、杏玖のグラブが届く範囲に飛んだのである。本当に紙一重の差だが、その紙一重が明暗を分けたのだ。


《五番キャッチャー、奥間さん》


 ただしまだ和久学園の攻撃は終わっていない。五番に入っている夏耶が打席に立つ。


(まゆしいは駄目だったけど、その代わりに私が打てば良いんだ。前の二人に神経使ってるだろうし、油断して打ちやすい球を投げてくれないかな)


 夏耶は仄かに失投を期待する。しかし初球、空はスライダーを内角の厳しいコースに決め、ストライクを取る。


(良いところ突くなあ。やっぱりそう甘くはないよね。でも私にだって、前に飛ばすことくらいはできる。なんたって愛里の球を受けてるんだから)


 夏大までの二年半、夏耶はずっと愛里のキャッチャーを務めてきた。彼女は幼い頃から野球には興味を持っており、お気に入りのプロチームの観戦に行くこともあった。クラブで活動した経験は無かったが、キャッチボールなどは頻繁にやっていたため、部の結成当初から基本的なことは熟せた。その点を買われてキャッチャーに抜擢され、今でも続けている。

 愛里のボールを受けることは打撃面にも活きた。ストレートのスピードに慣れたことで、他の投手の速球にもしっかりと対応できるまでに成長した。


 二球目。インコースに来たストレートを夏耶が打ち返す。三塁線を襲ったが、惜しくもファールになる。

 これでツーストライク。しかし夏耶は決して空の投球に合っていないわけではない。それはバッテリーにも伝わっていた。


(空さんの真っ直ぐに振り遅れてない。侮ってたら痛い目に合う。注意して攻めないと)


 三球目は低めのカーブがボールになる。夏耶は落ち着いて見送る。


(うん、これは我慢できそう。こうやって粘っていけば、いつか打てる球が来るはず)


 四球目はスライダーが外に抜ける。ここも夏耶は手を出さない。


(あっさり終わってくれないなあ……。長引くのは嫌だよ)


 空は優築からの返球を捕ると一旦グラブを外し、両手でボールを拭く仕草をする。表情こそ変えないが、内心では投げ辛さを感じていた。相手の四番を抑え、あとアウト一つでピンチを切り抜けられる。どうしても早く終わらせたいという色気が出てしまうところだ。だがその焦りこそ、一番の禁物である。


「ボール」


 五球目。外角低めのストレートが外れる。空としては決着を付けにいった投球だったが、意図したところには行かなかった。


(よし。これでフルカウント。もう際どいコースには投げられないだろうし、いけるかもしれない。愛里のためにもチームのためにも、必ず打ってやる)


 フルカウントまで持ち直したことで、夏耶に精神的な余裕が生まれる。若干夏耶の方が優位に立ったか。


(この三球、バッターは全部打ちにいって見逃している。空さんが勝負を急ぎたいと思うのは当然。だからその分私が冷静にならないと。空さん、逸る気持ちは分かりますが、最後はこの球でお願いします。万が一歩かせたって次を抑えれば良いんです)

(……はいはい、分かりましたよ。全く、よくできた後輩ですこと)


 ほんの少しだけ空の口元が緩む。彼女は優築のサインに頷き、夏耶への六球目を投じる。

 コースは真ん中、打者のベルト付近。一番ミートしやすいところだ。


(き、来た!)


 待ち焦がれた甘いボール。夏耶はセンター返しを心掛けてスイングする。タイミングもばっちりだ。


「ストライク、バッターアウト」

「え……?」


 けれどもボールはバットに当たらず、優築のミットに収まる。バッテリーの選択した球種はチェンジアップ。打者の手元で緩やかにボールゾーンへと沈んでいった。夏耶はまんまと誘いに嵌ってしまったのである。


「そんな……」


 ここまではボール球をきっちりと見極めてきた。ただスリーボールになったが故に、夏耶の頭の中にストライクが来る確率が高いという考えが生まれ、その分振っていかなくてはならないという気持ちが強くなっていた。優築はそれを狡猾(こうかつ)に利用し、ボールになるチェンジアップで空振りさせたのだ。


(あのキャッチャー、本当に良いリードしてる。それに応える投手も凄いよ。相当固い信頼関係で結ばれてるんだろうな)


 二塁から見ていた愛里は、思わず口を真一文字に結ぶ。和久学園はチャンスを作ったものの、活かし切ることはできなかった。攻守交替となる。


「ここで点が取れれば完全に試合を支配できる。皆行くわよ!」

「おう!」


 ピンチを切り抜けたことで勢いに乗る亀ヶ崎。対する和久学園だが、再び重たい空気が流れ始める。


「み、皆、まだまだいけるよ。まずはこの回、きっちりと守ろう」

「う、うん……」


 愛里の声掛けに皆何とか笑って応えるが、明らかにテンションは落ちていた。さっきの真祐の打球に期待を膨らませただけに、その反動で受けたショックも大きい。


(ここは私が踏ん張らなきゃ。この回をゼロで終えれば、皆にも勇気を与えられるはず)


 主将として、気落ちしたチームメイトを励まさなければならない。愛里はそう心に命じ、四回裏のマウンドに向かった。



See you next base……



PLAYERFILE.31:久下(ひさした)()()

学年:高校三年生

誕生日:7/9

投/打:左/左

守備位置:右翼手

身長:160

好きな食べ物:ささみ、アスパラのベーコン巻き

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