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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第七章 夏大、始まる。
87/181

85th BASE

お読みいただきありがとうございます。


ついに(ようやく?)朝の寒さが辛い時期になりました。

中々布団から出られず、苦戦する毎日でございます……(泣)

 ワンナウトランナー二塁の場面で、四番の真祐との対戦。初球はアウトコースへと外れていくスライダー。真祐はバットを動かしかけて止める。最初の打席とは違い、一球目から打つ姿勢を見せてきた。


(チャンスだから積極的に来てるのかも。なら簡単にストライクを取りにいくのは危ない。何でもかんでも追ってはこないだろうし、ひとまずタイミングを外そう。空さん、次はカーブでお願いします)

(分かった)


 二球目。空は優築の要求に従い、低めやや外角寄りにカーブを投げ込む。際どいコースへのストライクとなり、真祐は手を出せない。


(おお、良い球投げるなあ。マウンドでどんなこと話してたかは分かんないけど、投手の人は大分集中が高まったんだろうな。やっぱり強いチームってこういうところが抜かりないんだよね)


 相手バッテリーの攻めに感心する真祐。だが四番として、ここは易々と凡退するわけにはいかない。


(でも私は愛里に認められて四番を任されてるんだ。打てないことはない)


 真祐は気持ちを高ぶらせ、打席の中で集中力を研ぎ澄ませていく。その模様を、優築はつぶさに観察していた。


(私がバッターなら、できればここらでスイングしたい。だから若干強引に振ってくる可能性はある。それを利用させてもらう)


 三球目、優築はアウトコースのボール半個分外れところにミットを構える。空の投球はそこから少し外側にずれたが、真祐は腕を伸ばして右方向に弾き返す。


「ファースト!」


 ファーストの珠音がジャンプするも届かず、ボールは彼女の頭を越えていく。これがヒットになれば一点だ。


「ファール」


 しかし惜しくもフェアにはならなかった。三塁を回りかけていたランナーの愛里は、残念そうに苦笑いで二塁ベースに戻る。


「良いよまゆしい! 合ってる合ってる」


 ファールにはなったものの、真祐は空の球に対応できつつある。その手応えは真祐本人にもあった。


(追い込まれはしたけど、振ってる感じは悪くない。ここからは粘って甘い球を待つ。何が何でも愛里をホームに還すんだ)


 真祐は愛里たちと同級生ではあるが、野球部創設時のメンバーではない。彼女が部に入ったのは一年生の秋のこと。当時同じクラス所属していた愛里に勧誘されたのがきっかけだった。


「ボール」


 四球目はワンバウンドのチェンジアップ。真祐はしっかりと見極める。


 元々、真祐は野球経験者である。小学校の頃は地元のクラブチームでプレーしていた。しかし中学に上がると同時に野球を止め、以降はめっきり興味を失くしていた。けれども熱心に活動する愛里たちの姿を見て、何とか手を貸してあげたいと心が動いた。加えて真祐自身に熱中できるものが何も無く、虚ろな日々を送っていたため、それを変えたいという想いも入部を決めた背景にあった。


「ファール」


 五球目。真祐は外角に来たカーブをカットする。打球は一塁側の観客席に消えていく。


 入部して間もなく、真祐は愛里を除いた他の部員とは頭一つ抜けた技術を披露。初心者の多い野球部にとっては待望の助っ人だった。ただ彼女は我が強く、図らずも他人にきつく言いすぎてしまう一面があり、それが原因でしばしば仲間との揉め事を引き起こしていた。

 そうした時に仲裁に入ったのが愛里である。愛里は真祐の不器用な性格を理解した上で、他のメンバーとの関係が上手くいくよう調整していた。そのおかげで真祐は段々とチームに打ち解けていくことができ、今では和久学園の主砲としていなくてはならない存在となっている。真祐はそんな風に誰かのためになれている自分を誇りに感じつつ、次第に野球への情熱も取り戻していった。


「ファール」


 六球目もファール。依然としてツーボールツーストライクというカウントが続く。


(何にも無くてつまらなかった時間を、愛里が変えてくれた。だから私は、あの子に恩返ししないといけない)


 愛里に出会ったことで真祐の高校生活は(いろどり)のあるものとなった。そのお礼を、真祐はこの大会で果たしたかった。和久学園として出られた最初で最後の夏の大会で、愛里に良い思いをさせてあげたい。彼女はその一心で試合に臨んでいる。


(そろそろ打ちやすいコースに来るでしょ。絶対に捉える)


 真祐は集中力を保てるよう、一回深呼吸をする。その背後で、優築は次の配球に苦心していた。


(三球目をファールにさせた時はいけると思ったけど、予想以上にしつこく粘られてる。空さんもそろそろ失投してもおかしくない。どうする?)


 優築は一打席目を含め、過去の組み立てをなぞる。そうして一つの結論を導き出す。


(まだ一球も見せてなくて、空さんが得意とするボール。マウンドで話した時と心境が変わっていないなら、多分これで行くのが一番でしょう)


 優築がサインを送る。それを受け取った空の口元が、僅かに険しくなった。


(インローの真っ直ぐ。これで決めたいってことか……)


 左投手が右打者と対戦する際、内角低めのストレートは一番の武器になるとされる。その反面、投手の側からすれば気合を込めて投げなければならず、体力の消耗も大きい。更に投げ損なって死球になったり、甘くなって長打を食らったりするリスクもある。特に今のような緊迫した場面で選択するのであれば、バッテリーは互いに相応の覚悟を持たなければならない。


(ここまで外角しか見せてないし、投げるとしたらここだよな。……よし、分かった!)


 空は首を縦に振る。決意を固めたのだ。彼女は二塁方向を瞥見してからセットポジションに入り、グラブの中で直球の握りを作る。


(少しサインのやりとりに時間が掛かってた。もしかしたら厳しい球が来るのかも)


 バッテリー間の雰囲気から、真祐は向こうがどんな攻めをしてくるのかを感じ取る。こうした感受性の強さは彼女の一つの長所だ。真祐はバットを支える手首を柔らかくし、速い球に備える。


 この一球の結果が、試合の行方を大きく左右する。空の後ろで守っている亀ヶ崎の守備陣にも力が入る。


(右バッターのインコースに投げる時のコツは、相手の膝を標的とすること。そしてぶつけることを恐れず、思い切り腕を振ること)


 自分の胸にそう言い聞かせながら、空が足を上げる。彼女の目線は真祐の膝元へ。ちょうどその後ろに優築のミットも見え隠れしている。それを目掛け、空は真祐に対しての七球目を投じた。

 投球は狙ったところよりもやや中に入る。ただしっかりと指にかかり、球の威力は十分だ。しかし真祐も予想できていたため、反応良くスイングを開始する。


(捉えた!)


 真祐は差し込まれることなく打ち返す。グラウンドに短い金属音が響き、火の出るような当たりが放たれた。



See you next base……


PLAYERFILE.30:高本(たかもと美夕(みゆ)

学年:高校三年生

誕生日:9/8

投/打:右/右

守備位置:中堅手

身長:164

好きな食べ物:ラーメン、唐揚げ


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