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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第七章 夏大、始まる。
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83th BASE

お読みいただきありがとうございます。


今年は何故か秋を感じることが少ない気がします。

紅葉などを見る機会が無かったからでしょうか……。

 風への一球目。愛里はクイックモーションで投球する。光毅はそれに構わずスタートを切った。


「走った!」

(やっぱり来たか。頼むよ夏耶)


 愛里が投げたのは外角へのストレート。キャッチャーが一番送球動作に移りやすいコースだ。ボールを捕った夏耶はすぐさま二塁へ投げる。光毅の方は加速に乗り、ベースに向かって勢い良く滑り込む。


「セーフ」


 微妙なタイミングだったが、ここはランナーの勝ち。盗塁成功となる。


「よっしゃ!」


 光毅はベース上で軽く手を叩く。いきなり亀ヶ崎に得点のチャンスが訪れた。


(速い。夏耶の送球は良かったし、あれだけやって刺せないなら相手を褒めるしかない。切り替えていこう)


 愛里は再びロジンバックに触れる。因みに先ほどの投球の判定はボールだった。


 次の球はストライクとなり、カウントはワンボールワンストライク。バッターの風は打つ体勢のまま見逃した。送りバントの指示は出ていないようだ。


(守ってる方の気持ちとしては、とにかく早く一つ目のアウトが欲しいはず。だからきっともう一球ストライクを取りにくる。粘るのも一つの手だけど、向こうは地に足が着いていない感じがあるし、ここは打っていこう)


 三球目、愛里の投げたストレートが真ん中付近に来る。風は事前に決めていた通りそれを打って出た。


「あっ!」


 鋭い打球が愛里の足元を抜け、外野に転がっていく。二塁ランナーの光毅は三塁を回る。


「美夕、ホーム!」

「ま、任せて」


 センターの美夕がバックホームのためにチャージを掛けてくる。だがボールを捕り損ね、後ろに逸らしてしまった。


「あ、やっちゃった」


 その間に光毅はホームイン。亀ヶ崎に先取点が入る。加えてバッターランナーの風も二塁に到達する。


「風、ナイバッチ!」


 次打者の晴香とハイタッチを交わしながら、生還した光毅が打った風に向けて左拳を突き上げる。風はガッツポーズこそ見せなかったものの、柔和な表情で応えた。


《三番センター、糸地さん》


 尚も得点圏にランナーを置き、晴香が打席に入る。キャプテン同士の対決だ。


(相手のエラーも絡んで早々に点が取れた。和久学園はまだ浮足立ってる。一気に突き放しておきたい)

(先に点を与えちゃったけど、まだ一点。ここで食い止めれば全然取り返せる)


 チームを引っ張る立場として、ここは両者負けられない。一球目、愛里はインコースへの直球を投じる。晴香は打ち返したが、三塁方向へのファールとなる。


(スピードは平均よりやや上といったところか。球威もあるし、良いピッチャーではあるみたいね。けれど球筋が素直で、変な癖も無い。強引にならないように気をつければ捉えられる)


 二球目。愛里が投げたのは、外のボールゾーンへと逃げていくスライダー。しかし晴香はほとんど反応を示さない。


(今のはもうちょっと中に入れるべきだったかな。ここからどうしようか……)


 愛里がサインを覗う。夏耶の要求は低めへのカーブ。愛里はそれに頷く。


(了解。このバッターにボール先行は厳しい。次でストライクを取って、早めに追い込んでおきたい)


 二塁ランナーの動きを目視し、愛里は晴香への三球目を投じる。だが余計な力が入った分、投球は高めに浮いた。


(打てる!)


 外れているようにも見えたが、晴香はフルスイングでジャストミートする。高々と上がったフライが左中間へと伸びていく。


「セ、センター」


 愛里が必死に叫ぶも、打球はセンターとレフトの中間地点に弾む。ランナーの風がホームに駆け込み、打った晴香は三塁まで走る。


「ストップストップ! 投げないで!」


 ボールは中継に返されただけ。タイムリースリーベースとなった。


「くっそお……」


 三塁のカバーに入っていた愛里の顔つきが歪む。中々一つ目のアウトが取れない。和久学園にとっては苦しい時間が続き、チーム全体にどんよりとした空気が流れ始める。


《四番レフト、宮河さん》


 打席に四番の玲雄が入る。二点を挙げ、おまけにノーアウト三塁という絶好機。四番としてはこの良い流れを切るわけにはいかない。


 和久学園の内野は前進守備を敷く。これ以上点は与えないという構えだ。


(相手は四番。そう簡単にはいかないかもだけど、とにかく低めに集めて内野ゴロを打たせよう)


 愛里の額で多量の雫が光る。まだ数球しか投げていないのにも関わらず、既に彼女は汗をびっしょりと掻いている。


 玲雄への初球、愛里は外角低めの直球でストライクを取りにいく。ただそこは、実は玲雄の得意とするコースだ。玲雄は躊躇せず打っていく。


「ほいさ!」


 綺麗に逆方向へと流した打球は、レフトを守る一年生、早矢仕(はやし)歩子(あゆこ)の元へ。歩子は慌てて背走する。


(ど、どんどんボールがこっちに来る。捕れるかな……。一か八か、飛ぶしかない!)

「えいっ!」


 打球が頭の上を越えようかというタイミングで、歩子は思い切りジャンプする。そのまま彼女は前屈みになって倒れ込む。


「歩ちゃん!?」


 センターから美夕が心配そうに駆け寄る。しかし歩子は、グラブを嵌めた左手をゆっくりと掲げた。


「と、捕ってます!」


 ボールはグラブの先に引っかかっていた。審判もそれを確認し、アウトのコールをする。スタンドからは大きな拍手が湧く。


「晴香、ゴー!」


 三塁ランナーの晴香がタッチアップする。歩子の捕った位置が深かったため、流石に刺すことは無理だった。だがもしも抜けていればランナーを残した上、未だワンナウトも取れないという状況が続くこととなっていた。間違いなくチームを救った大ファインプレーである。


「やったー! ナイスプレー!」

「凄い! 凄いよ歩っち!」


 和久学園ナインが全員で歩子を讃える。中にはまるで試合に勝ったかのように、その場で飛び跳ねている者もいる。一つ目のアウトが取れないというプレッシャーから解放され、重苦しい雰囲気は一気に吹き飛んだ。マウンド上の愛里も、歩子のプレーに勇気を与えられる。


(ナイス歩子ちゃん。これならまだまだ戦えそう。後続を断って反撃だ!)


 この後、愛里は五番の珠音、六番の杏玖を打ち取る。守備陣の動きも良く、二つの打球を落ち着いて処理していた。

 こうして一回の攻防が終了。亀ヶ崎は三点を先制したものの、まだまだどうなるかは分からない。



See you next base……


PLAYERFILE.28:奥間おくま夏耶(かや)


学年:高校三年生

誕生日:3/1

投/打:右/右

守備位置:捕手

身長:151

好きな食べ物:担々麺


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