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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第七章 夏大、始まる。
84/181

82th BASE

お読みいただきありがとうございます。


お気づきの方もいるかもしれませんが、一回戦の相手、和久学園は私の大好きなあるものを題材としています。

亀ヶ崎の選手だけでなく、彼女たちの活躍にもご注目ください!

《三番ピッチャー、永田さん》

「よろしくお願いします」


 球審に深々と頭を下げ、愛里は空と対峙する。左頬にある泣き黒子(ぼくろ)がチャームポイントで、周りに比べて顔立ちはやや幼げだが、一度構えに入るとそんな印象も様変わりする。引き締まった目つきで投手を見つめ、懐を深くして投球を待つ。


 初球、バッテリーは一、二番と同じ入り方でストライクを取りにいく。愛里はそれを狙っていたかのようにライト方向へ弾き返す。


「ファール!」


 捉えた当たりだったが、右に切れてファールとなる。優築は足元に転がったバットを拾い上げ、一塁ベース手前から戻ってくる愛里に手渡す。


「あ、ありがとう」

「いえいえ」


 愛里は気さくに礼を言う。優築は慎ましく応答するも、マスク越しで愛里の挙動を注意深く追っていた。


(この人も初球から振ってきた。それに前の二人とは違って、タイミングもある程度計れてる。少し用心しておいた方が良さそうね)


 二球目。優築はインコース低めに直球を投げさせる。


「おっとっと……」


 愛里は足元を崩され、前屈みになりながらボールを避ける。勢い余って左のバッターボックスに足を踏み入れる。


(今の狙って投げさせたの? だとしたらこのキャッチャー、結構意地の悪いタイプだ。バット拾ってくれたから優しい人だと思ったけど、それに惑わされちゃ駄目かも)


 三球目は外のボールゾーンから入ってくるカーブ。タイミングを外された愛里は反応こそしかけたが、スイングせずに見送る。


「ストライクツー」


 これで愛里は追い込まれた。ここまではバッテリーが上手く攻めている。


(このピッチャー、ストレートもキレがあるけど、カーブの緩急も効いてる。やっぱり強いチームのエースだけあって、打ち崩すのは難しそう。でも逆にここで私が打っておけば、皆もやりやすくなるはず)


 四球目はストレートが高めに抜け、ツーボールツーストライクの並行カウントになる。次がポイントとなる一球だ。


(ほんとはチェンジアップを使いたいところだけれど、この後のことも考えて取っておきたい。それなら……)


 優築がサインを出す。彼女は空が頷いたのを見ると、ミットを低めに構えた。

 五球目。バッテリーが選択したのは、真ん中から沈んでいくカーブだ。


(低いか? いや、これくらいなら打てる)


 ストライクかどうか微妙なところだったが、愛里はバットを出し、芯でミートする。


「おお!」


 鋭いライナーがセンターを襲う。スタンドからも一瞬歓声が上がる。


「オーライ」


 しかし頭を越えるにはもう一伸び足りず。晴香が定位置の後ろでボールを掴む。


「アウト。チェンジ」

「ああ……」


 和久学園のベンチから溜息が零れる。結局、一回表は三者凡退で終わった。


「空、ナイスピッチング。さあ初回から点取って、突き放していくわよ!」

「おー!」


 初回の攻撃を前に、亀ヶ崎も輪を作る。こちらも和久学園に負けじと、気合の籠った声を飛ばす。


《守ります、和久学園高校のピッチャーは、永田さん》


 他のメンバーが守りに就くのに少し遅れて、愛里がマウンドに登る。亀ヶ崎ナインはベンチ前で素振りをしながら、彼女の投球練習を見守る。 


「あれって三番打ってた人だよね。どんな投手なんだろ?」


 そう呟いたのはこの試合でも四番を務める玲雄だ。その隣では、晴香がバットを振っている。


「一目見た限り、真っ直ぐはそこそこスピードがありそうね。ただやっぱり打席に立ってみないと何とも言えないわ」


 先述したように、和久学園は今大会が初出場。一応愛里は連合チームで試合には出ているが、その時には投手をやっていない。亀ヶ崎の攻撃陣はほぼデータを持たないまま戦うことになる。


《一回の裏、亀ヶ崎高校の攻撃は、一番セカンド、戸鞠さん》


 投球練習が終了し、一番の光毅が打席に立つ。すると一塁側のスタンドで、ベンチに入れなかった亀ヶ崎の部員たちが、メガホンを使って大声で応援歌を歌い始める。


「せーの!」

「かっとばせ、光毅!」


 選曲は光毅の大好きなプロ野球選手、“アラキ”の応援歌。光毅自身が直々に希望したものである。


「良いねえ。初っ端からトップギアだよ」


 光毅は意気軒昂とバットを構える。自分の打席で憧れの選手の応援歌が流れる。それだけで、モチベーションはかなり上がるものだ。


(へえ、あっちは一人一人応援歌を歌ってもらえるのか。人数が多いところはこういうことができるから良いなあ。私にも“モギ”の応援歌を歌ってほしいよ。あ、旧の方ね)


 マウンド上の愛里は一旦ロジンバックを触り、(はや)る気持ちを落ち着ける。


(けどそんなこと言ってたらキリが無い。こうやって皆と野球できるだけでありがたいことなんだから、それに感謝しなくちゃ)


 愛里は右手に息をかけ、指先の余分な粉を吹き飛ばす。そうしてキャッチャーの奥間(おくま)夏耶(かや)からのサインを受け取る。


(まずはストレートか。まあ順当な入りだよね。よし、がんぱっぺ!)


 愛里は大きく振りかぶる。現役最強の奪三振王を彷彿させるダイナミックなフォームから、記念すべき第一球を投げた。


(お、甘い球。いきなり打ったる!)


 コースは外角やや高め。光毅は初球攻撃を仕掛ける。


「あてっ……」


 だが球威に押された。打球はセカンド前方への弱いゴロとなる。


「し、しまった」


 光毅が全速力で走り出す。和久学園のセカンドは田山(たやま)美波(みなみ)だ。


「オ、オーライ」

「美波、落ち着いて」


 美波は前に出てボールを捕ろうとする。ところがその寸前で、快速を飛ばす光毅の姿が目に入る。


「あ……」


 それに気を取られたのか、美波はボールを弾いてしまう。急いで拾い直して送球するも一塁はセーフ。エラーが記録される。


「ご、ごめん愛里。ランナーが思ったよりも速くてびっくりしちゃった……」

「気にしないで。それより美波が凹んじゃったら寂しくなっちゃうから、声だけは切らさないでね」

「わ、分かった」


 美波を笑顔で励まし、愛里はマウンドへと戻る。ただ初回からノーアウトのランナーを背負うことになってしまった。


(美波の動きがいつもより硬かった。相当緊張してるんだろうな。多分それは皆も同じだし、早くワンナウトを取って落ち着いてもらわなきゃ)


《二番ショート、城下さん》


 続いて二番の風がバッターボックスに入る。一塁ランナーの光毅は、じりじりとリードを取っていく。


(ラッキー。いきなり塁に出れちゃった。走っても良いのかな?)


 隆浯の指示はグリーンライト。行けると思ったら行っても良いということだ。


(分かってるねえ監督。そんじゃ、ひとっ走り付き合ってもらいますか!)


 光毅は早速盗塁するチャンスを探る。しかしピッチャーの愛里の方も警戒を怠らない。手始めに一球、様子見の牽制を入れる。光毅は余裕を持って帰塁した。

(美波も言ってたけど、あの人の足は確かに速かった。一球目から走ってくるかも。できることなら刺したい)

(流石にノーマークってわけにはいかないか。けどそういう中で走ってこそ、チームも乗っていけるってもんでしょ。なんたって最初が肝心。大胆に行くよ!)


 愛里と光毅、二人の思惑がマウンドと一塁の間で交錯する。

 風への一球目。愛里はクイックモーションで投球する。光毅はそれに構わずスタートを切った。




See you next base……


PLAYERFILE.27:永田愛里えいだあいり


学年:高校三年生

誕生日:1/19

投/打:右/右

守備位置:投手

身長:153

好きな食べ物:しめ鯖、砂肝


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