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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第七章 夏大、始まる。
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81th BASE

お読みいただきありがとうございます。


いよいよ亀ヶ崎高校の優勝への挑戦が始まります。

まずは一回戦、順当に突破してほしいところですね。

 夏真っ盛りであることを象徴するように、そこら中の蝉が大合唱に参加している。そんな中、兵庫県丹波(たんば)市にあるスポーツピアいちじまでは、女性球児たちの甲子園、全国高等学校女子硬式野球選手権大会が開催されていた。


「亀ヶ崎高校の皆さんは、ベンチ入りを始めてください」


本日の第一試合が終わり、直ちに次の試合のための準備に移る。真裕たち亀ヶ崎ナインは、前のチームと入れ替わるようにしてグラウンドでアップを始めた。


「もたもたせず急いで肩を作って。すぐにシートノックに入るわよ」

「はい」


 主将の晴香に促されながら、皆普段よりも速いテンポでキャッチボールを済ませる。学生野球の大会では試合と試合の間隔が短く、選手もスタッフもてきぱき行動しなければならない。


「皆、キャッチボール始めるよ。あんまり時間無いから、きびきび動こう」

「はい!」


 亀ヶ崎の対戦相手、宮城の私立和久学園高校の野球部も三塁側ベンチからグラウンドに姿を現す。だがその数はたったの十名。これが和久学園の全部員である。


「よっぴー、私は投球練習してくるから、あとの指示お願いね」

「オッケー。任せといて」


 襟足で束ねた長い黒髪を靡かせ、一人の少女がブルペンに向かう。和久学園の主将、永田(えいだ)愛里(あいり)だ。


 和久学園の野球部は二年半前、この愛里が発足させた。ただ初めは六人しか集まらず、その年の夏の大会には不参加。半年後に一人増えて七人になったものの、それでも野球の試合をやるには人数が足りない。そのため過去の大会には他校と合同チームを結成することで参戦していた。

 今年の春に新入生が三人入部したことでようやく人数が揃い、晴れて「和久学園高校」として大会に出場することが叶った。けれども愛里たちは既に三年生となっており、この大会を期に引退しなければならない。彼女たちにとっては事実上、最初で最後の大会となる。それ故に、愛里のこの大会に懸ける想いは並々ならぬものがあった。


(やっとここまで来られたんだ。できれば一つでも勝って帰りたい。皆で一緒に、最高の夏にするんだ)


 時刻は正午に差し掛かり、開会式の時に比べて気温は上がってきている。それに同調するかのように、徐々にグラウンドの少女たちの声も活気付く。


 やがて試合開始の時を迎えた。例の如く両チームがホームに整列し、大きな声で挨拶を交わす。


「ただいまより、私立和久学園高校対亀ヶ崎高校の試合を開始します」

「よろしくお願いします!」


 後攻の亀ヶ崎の選手たちが守備位置に散っていく一方、和久学園はベンチ前で愛里を中心に円陣を組む。


「いよいよだね。相手は強いチームだけど、これまでやってきたことを出せればきっと勝つチャンスはある。せっかくここまで来たんだし、今日は思う存分楽しんでいこう!」

「おー!」


 ナインが元気一杯な声を響かせる。その後全員で手を合わせると、彼女たちの恒例となっている試合前の掛け声を唱えた。


「行くぞ、がんばっぺ、和久学園!」

 

《一回表、和久学園高校の攻撃は、一番センター、高本(たかもと)さん》

「よっしゃ行くよー! お願いします」


 和久学園のトップバッターは、チーム一の高身長である高本美夕(みゆ)。彼女が右打席に入るのを確認し、球審はプレイボールを宣告する。


「プレイ」


 マウンド上には亀ヶ崎のエースの空が立つ。やや緊張した面持ちを覗かせつつ、キャッチャーの優築と一球目のサイン交換を終える。


(さてと……。まずは初球、しっかりとストライクを取るよ)


 一度ゆっくりと息を吐き、空はセットポジションに就く。そうして、夏の大会の一球目を投じる。 


「ストライク」


 アウトコースにストレートが決まった。美夕もフルスイングで応戦したが、空振りを喫する。しかし夏大の初打席で初球から振っていく姿勢は非常に評価できる。


「良いよ良いよ、どんどん振っていこう!」


 和久学園のベンチから選手たちが声援を送る。全部で十名と言えど、快活さは他のチームと遜色無い。


 二球目、バッテリーはもう一度同じコースにストレートを続ける。美夕はこれに対しても手を出す。ボールはバットの上っ面に当たった。


「ファースト!」

「オーライ」


 打球は平凡な内野フライとなる。一塁手の珠音は小走りで落下点に入り、危なげなく捕球する。


「よっしゃ。ワンナウト」


 すんなりと一つ目のアウトが取れた。空は若干表情を和らげ、内野陣のボール回しを見届ける。


《二番ライト、久下(ひさした)さん》


 続いて二番の久下菜々海(ななみ)が左打席に立つ。


「ななみん、塁に出て私に繋いで!」


 次の三番には愛里が控えている。亀ヶ崎としては、彼女の前にランナーは置きたくないところだ。


 初球は真ん中高めへのストレート。菜々海はバットに当てたが、打球はバッターボックスよりも後方に飛んでファールとなった。優築は球審から新しいボールを貰い、空に渡す。


(一、二番と共に最初から手を出してきた。積極的に振ってくるチームみたいね。守る側としては嫌な感じもするけど、今のところ全部差し込んでる。空さんの調子も悪くないみたいだし、捉えられていないならそんなに怖がる必要は無い。寧ろカウントを稼ぎやすくなるからちょうど良いかも。このままどんどんストライクを取っていきたい)


 二球目。空は外へと逃げていくスライダーを投じる。菜々海はバットの先に引っ掛け、一、二塁間に打ち返す。


「オーライ。任せて」


 ライトへ抜けようかという場所に転がったが、当たり自体は強くない。セカンドの光毅が回り込んで打球を処理する。


「ナイス光毅。良い動きだね」

「こんなの朝飯前よ。そっちもナイピッチ」


 これでツーアウト。ランナー無しの状態で、愛里の第一打席を迎えることとなった。



See you next base……


STARTING LINEUP


亀ヶ崎高校

1.戸鞠とまり 光毅みつき   右/右 セカンド

2.城下しろした ふう    右/右 ショート

3.糸地いとち 晴香はるか   右/右 センター

4.宮河みやかわ 玲雄れお   右/左 レフト

5.紅峰あかみね 珠音ことね   右/右 ファースト

6.外羽ほかばね 杏玖あき   右/右 サード

7.踽々莉(くくり) 紗愛蘭さあら 右/左 ライト

8.桐生きりゅう 優築ゆづき   右/右 キャッチャー

9.天寺あまでら そら    左/左 ピッチャー


和久学園高校

1.高本たかもと 美夕みゆ   右/右 センター

2.久下ひさした 菜々美(ななみ)  左/左 ライト

3.永田えいだ 愛里あいり   右/右 ピッチャー

4.島岡しまおか 真祐まゆ   右/右 ファースト

5.奥間おくま 夏耶かや   右/右 キャッチャー

6.青瀬あおせ 吉乃よしの   右/右 サード

7.田山たやま 美波みなみ   右/右 セカンド

8.厚木あつぎ 那奈佳ななか  右/右 ショート

9.早矢仕はやし 歩子あゆこ  右/右 レフト


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