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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第七章 夏大、始まる。
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80th BASE

お読みいただきありがとうございます。


2018年のプロ野球の全ての日程が終了しました。

ソフトバンクホークス、日本一おめでとうございます!


そしてここからは来季に向けての補強期間。

FAやトレードなど、各球団がどのような動きを見せるのか非常に興味深いです。

試合こそ無いですが、まだまだ楽しみは尽きません。

 夏大開幕の日がやってきた。若干危ない人もいたが、私たちは全員、予定通りの時刻に球場入りする。


 雲一つない青空の下……、とは残念ながらならず、頭上は薄い灰色で覆われている。それでも時折晴れ間が差し込み、雨が降る気配は無い。天気予報でも降水確率は低かった。灼熱の太陽に照らされ、だるような暑さの中でやるのが醍醐味にも思えるが、正直これくらいの方がやりやすい。


《間もなく開会式を開始します。選手の皆さんは準備してください》


 各校が開会式の入場口周辺に集合する。皆それぞれのユニフォームを身にまとい、気合十分といった様子だが、過度な緊張感は漂っていない。笑顔でチームメイトと話している人も割と多かった。


「ん? あれって……」


 そんな中私は、気になっていたあの人の姿を発見する。昨日私の投球練習を見つめていた、背の高い女性だ。


「やっぱり選手だったんだ」


 周囲に同じユニフォームの人もいたが、女性は会話に混ざることなく、一人でぼんやりと遠くの方を眺めている。これも何かの縁。せっかくなので声を掛けてみた。


「あ、あの……」

「はい? あ、貴方は昨日の……」


 向こうも私のことを覚えていてくれたみたいだ。彼女は被っていた藤紫の帽子を取り、挨拶してくれた。


奥州おうしゅう大学付属の小山こやま舞泉まみです。よろしく」


 こうして同じ位置に並んで立つと、より女性の背の高さを感じられる。ここにいる人の中で一番なのではないだろうか。


「どうも。亀ヶ崎の……」

「柳瀬真裕さん、だね」

「へ? 私の名前、知ってるんですか?」

「当たり前でしょ。同じ一年生だからね」

「同じ一年生って、小山さんも?」

「そうだよ」

「ええ……」


 私はあんぐりと口を開ける。名前を知られていたことよりも、小山さんが一年生であることへの驚きだ。


「じゃあ、中学の頃からその背丈ってことですか?」

「まあね。一七〇超えたのはここに入ってからかな。あとタメ口で構わないよ。同い年なんだし。呼び方も舞泉でいいから。ね、真裕ちゃん」

「分かった。よろしく、舞泉ちゃん」

「こちらこそ」


 舞泉ちゃんは楽しそうに白い歯を見せる。あどけなさ溢れる笑顔で、こういうところは一年生らしさが出ている。


「岩手の奥州大付属、こちらに整列してください」

「あ、私たちだ」


 係員の呼びかけに反応する舞泉ちゃん。他の奥州大付属の人たちと共に動き出す。


「ということで先に行くね。今日の試合頑張って。観られるか分からないけど、応援してるから。私たちと当たるのは準決ら辺だし、それまで負けないでね」

「う、うん。頑張る」


 舞泉ちゃんが後ろを振り返り、係員の方に小走りで移動する。彼女の背中には、十一の背番号が刻まれていた。私と同じ番号だ。


「小山舞泉ちゃんか……」


 とても表情豊かで、純朴そうな子だった。クールなタイプなのではないかと勝手に思っていたが、全然そんなことはない。

 ただその一方で、自分にかなりの自信を持っているようでもあった。私は誰にも負けない。そんな気持ちが、話している最中からひしひしと伝わってきた。昨日の発言も然り、初対面の人にも堂々と自分のペースで接することができるのは、そうした自尊心から来ているのかもしれない。

 実際に一年生でベンチ入りしているのだから、実力は確かなはず。奥州大付属の試合、注目しておかなければ……。

 

 それから一〇分ほど経ち、開会式の準備が整う。


《これより開会式を行います。選手入場!》


 球場内に聞き慣れた音楽が轟く。演奏するのは地元の高校の吹奏楽部だそうだ。曲に合わせて行進が始まり、ライトのファールゾーンから一校ずつグラウンドに入場する。最初は昨年の優勝校、埼玉の浦和うらわ明誠めいせい高校だ。今大会に出場するのは二九校。私たちは一五番目に入場することになっている。


《愛知県、亀ヶ崎高校》


 浦和明誠が出発してから約五分後、亀高の順番が回ってくる。前の高校との適当な距離を測りながら、私たちはグラウンドに足を踏み入れた。先頭に学校名の入ったプラカードを掲げる空さんが立ち、その後ろに校旗を持った晴香さんが続く。以降は背番号順に二列で並んで歩く。

 開会式独特の雰囲気が、試合の時とはまた異なった高揚感を煽ってくる。同じ野球場を使っているはずなのに、全く別の世界に連れてこられたみたいだ。動かす足の感覚も覚束ず、ちゃんと地面を踏めているのかすら不安になる。


 私たちはまず一塁側の白線の外側に沿って進み、一旦本塁を通り越す。その後三塁ベースの付近から回り込むようにしてフェアゾーンに入り、マウンドの後ろで止まった。


「ただいまより、第二二回、全国高等学校女子硬式野球選手権大会を開催いたします」


 全校が入場を済ませ、開会式が執り行われる。初めに開会の挨拶が成された後、選手宣誓に移った。代表校の主将が壇上に上がると、晴香さん含め他の高校の主将も中央に集合し、自分たちの校旗を掲げる。


「宣誓! 私たちは、スポーツマンシップに則り、最後の一瞬まで諦めることなく、全力を尽くして戦うことを誓います!」


 球場全体に響き渡る、清く高らかな叫び声。私は胸を震わす。ついに始まるのだ。


 高校女子野球の頂点を賭けた戦い。今ここに開幕する――。



See you next base……


WORDFILE.35:全国高等学校女子硬式野球選手権大会


 毎年8月に、兵庫県丹波市のスポーツピアいちじまで行われる日本の高校女子野球大会。全国高等学校女子硬式野球連盟が主催している。1997年より始まり、今年で二二回目となった。

 第一回大会は五チームのみの参加だったが、現在その数は三〇近くまで増えている。開催日数も三日間から一週間に伸びた。

 本大会の準決勝まで進出した四チームは、プロ・アマ統一の全日本総合選手権「女子野球ジャパンカップ」の出場権を得る。


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