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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第六章 夏大に向けて
76/181

75th BASE

お読みいただきありがとうございます。


今回は夏大の背番号発表です。

私も学生時代に経験しているのですが、実は思ったより淡々と発表されていくんですよね。

ただやっぱり名前を呼ばれるまではかなり緊張します。

私はベンチ入りできるかどうかの実力の人間だったので、毎回「早く名前を呼んでくれ」って必死に祈ってました。

良い?思い出です。


さて、真裕たちはどうなるのでしょうか?

 本格的な梅雨に差し掛かり、湿気った日々が続く。私はこの時期独特の薄暗い空模様がとても嫌いだ。チーム全体にも、どんよりとした空気が漂っている。


「ほらセカンド、一歩目遅い。普段なら捕れてるでしょ!」

「は、はい」


 だが天候が全ての原因ではない。こうした重たいムードになる必然的な理由が、他にあるのだ。


「よし。ちょっと早いが今日はこれで切り上げるぞ。背番号渡さないといけないからな」

「はい!」


 そう、今日は夏大のメンバーの発表の日。自分が何番を背負うことになるのか、はたまたメンバー入りはできるのか、それに対する不安と緊張がチーム内に充満し、自然と皆の動きは鈍くなっていた。


「集合!」


 ダウンを済ませ、全員が木場監督の元へと集まる。監督の横には森繁先生の姿もあり、手に四角い紙箱を持っている。おそらくあの中に背番号が入っているのだろう。


「ではこれより、夏の大会のメンバー、並びに背番号の発表を行う。呼ばれたものは返事をして前に出て、森繁先生から背番号を受け取ってくれ」


 何人かの息を呑む音が聞こえてくる。私の心音も一気に高鳴ってきた。そんな中、監督はいつもと変わらない声のトーンで、最初の夏大メンバーの名前を告げる。


「まずは一番、天寺空」

「はい!」


 気迫の籠った返事と共に、空さんが前に出る。背番号一。即ち、このチームのエースだ。


「よくここまで来たな。お前が投げなきゃ始まらない。エースの投球、夏大でも見せてくれよ」

「言われなくても。やってやりますよ」


 監督からの言葉に雄雄しく笑って応答し、空さんは森繁先生から背番号を受け取る。私を含め、他の人たちは祝福の拍手を送った。


「じゃあ次は二番、桐生優築」

「はい」


 空さんに続き、一桁の背番号を付ける人、つまりは各ポジションのレギュラーメンバーが次々と呼ばれていく。六番の風さんや八番の晴香さんなど、これまでの練習試合を通して主にスタメンで試合に出場していた人が順当に選ばれる。


「晴香、キャプテンとしてチームを支えてくれ。お前が崩れてしまったら、うちの優勝は無い。お前は最後の希望だ」

「はい、分かりました」


 八番の背番号を手に持ち、晴香さんが元いた位置に戻る。


 この後は背番号九の発表。ライトのレギュラーを担う人だ。これまでの一桁番号と違い、唯一誰が手にするのか断定できない。紗愛蘭ちゃんか洋子さん、選ばれるのはどちらか。自分のことではないのに、私は胸が締め付けられるような感覚に襲われる。


「次は九番か……」


 監督は、森繁先生が箱から背番号を取り出したのを確認する。それから小さく鼻で一息つき、改めて口を開く。


「背番号九、踽々莉紗愛蘭」


 たった一秒間の出来事だった。監督はあっさりと、流れるような口調で私たちに言った。


「え? わ、私ですか?」


 紗愛蘭ちゃんは驚いた顔で監督に聞き返す。前々から九番は洋子さんが付けるべきと口にしていたし、本当に自分が選ばれるとは思っていなかったみたいだ。


「そうだ。この番号を付けるのはお前だ」

「は、はい」


 聞き間違いではない。夏大のライトのレギュラーに選ばれたのは、これまでずっとその位置を守ってきた洋子さんではなく、私と同じ一年生の紗愛蘭ちゃんだ。


「失敗することを恐れるな。思い切ってプレーしてこい」

「は、はい……」


 監督の掛けた言葉は短かった。それが敢えてなのか、偶々なのかは分からない。けれども私には何となく、色々な人に配慮した結果のように聞こえた。


 私は横目で洋子さんの方を見る。視線をずっと前に向け、まるで全てを悟っていたかのように口を結んで微動だにしない。間違い無く悔しいはずなのに、それを顔には出していない。私はその姿に無意識の内に惹きつけられ、暫く目を離すことができなかった。


「……背番号十一、柳瀬真裕」

「あ、はい」


 そうこうしている間に私の名前が呼ばれる。心の準備がほとんどできていなかったため、メンバーに選ばれたことに喜びを感じる余裕も無く、私は慌ただしく森繁先生の前に立つ。


「真裕、二ヵ月間ピッチングを見せてもらったが、お前は十分に通用する力を持っている。臆せず戦ってこい。さすれば道は拓けるさ」

「はい!」

「頑張れよ柳瀬」 

「ありがとうございます」


 森繁先生から背番号を渡される。他の人のことを気にしていても仕方が無い。私はこれで確かに、夏の大会に出場する権利を得たのだ。そう思うと、仄かに嬉しさと興奮が込み上げきてきた。


「……以上十八名。今回の大会は、このメンバーで臨むこととする」


 メンバー発表が終わった。一年生からは私と紗愛蘭ちゃんに加え、菜々花ちゃんが十七、京子ちゃんが十八の背番号を貰った。また、洋子さんは背番号十三だった。


「ただ一つ忠告しておくと、これは完全決定じゃない。出場登録までにはもう少し猶予がある。だからこれから誰かが怪我をしたり、気の抜けたプレーを重ねたりするようなら、そいつは容赦なく入れ替えるつもりだ。選ばれたメンバーは、その点をきちんと心に留めておくように。良いな?」

「はい!」

「そして選ばれなかった者たちは申し訳ないが、今後は夏大メンバーのサポートに回ってもらうことになる。しかしまだ何が起こるか分からない。不測の事態に備えて、難しいとは思うが各人準備をしておいてくれ」

「はい」


 惜しくもメンバー外になった人たちの中には、私よりも上の学年の人も混ざっている。必ずしも全員が大会に出られるわけではない。それがこの世界の宿命だ。私にできることは、その人たちの想いを背負い、亀高を優勝させるために全力でプレーをすること。その決意を胸に、私は口元を引き締め、二つ折りにした背番号を右手で強く握った。


「では今日は解散。気を付けて帰るように」

「ありがとうございました!」


 最後は皆で揃って挨拶をする。その声はグラウンド全体に綺麗に響き渡り、薄暗闇の空に消えていった。



See you next base……


★背番号について

 

 亀高はレギュラー陣の背番号を守備番号と合致させている。現実でも高校までの学生野球ではこのようになっていることが多い。ただし必ずこうしなければいけないという規定は無く、そうなっていないチームも稀にある。一方、少年野球では監督が背番号30、主将が背番号10と、役割によって背番号が定められる場合もある。


各番号とポジションの組み合わせは以下の通り。


1.投手(ピッチャー)

2.捕手(キャッチャー)

3.一塁手(ファースト)

4.二塁手(セカンド)

5.三塁手(サード)

6.遊撃手(ショート)

7.左翼手(レフト)

8.中堅手(センター)

9.右翼手(ライト)


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