表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第六章 夏大に向けて
74/181

73th BASE

お読みいただきありがとうございます。


レギュラー争いも佳境を迎えます。

最後の試練を、紗愛蘭は乗り越えることができるのか⁉

 ワンボールツーストライクからの、紗愛蘭への四球目。教知大バッテリーの選択は内角だった。二球目ほど厳しいコースではないが、紗愛蘭のヤマは外れたことになる。しかし紗愛蘭はあることに気づく。


(しまった。でもこれって……)


 回転がこれまでの球と違うのだ。案の定、ボールはバッターボックスの手前で曲がり始める。離れていく軌道に対し、紗愛蘭は目一杯腕を伸ばす。


(届け!)


 バットは辛うじてボールに当たった。紗愛蘭は限界まで手首を返さずに我慢し、掬い上げて逆方向に打ち返す。


「サード! ショート!」


 小フライが三遊間の後ろに舞う。ショートが背走して飛びつくも、打球は数メートル先に落ちた。


「回れ回れ!」


 ツーアウトでスタートを切っていた二塁ランナーは一気にホームイン。亀ヶ崎に五点目が入り、三点差となる。


「はあ……はあ……。う、打てた……」


 詰まった息を吐き出し、紗愛蘭は喜びと驚きが入り交じった表情で一塁ベースに到達する。だがベンチから仲間の歓声が聞こえると、すぐに白い歯をうっすらと見せた。


(結果オーライだけど、外角に張っておいて正解だった。ボールを長く見る意識があったからあそこまで引きつけられたんだ。もしも内角を待ってたらきっと三振してた)


 紗愛蘭も感じているように、偶々巧いバッティングができただけなのかもしれない。それでも紗愛蘭は変則左腕からヒットを打ち、対応力の高さを示した。これも彼女の技量があってこその業である。


 そしてこの結果に対し、何とも悔しそうにベンチで静かに拳を握り、奥歯を噛みしめる者がいる。そう、洋子だ。


(あの球をヒットにするなんて……。流石としか言いようがないわ。これはほんとに、レギュラー取られちゃうかもね)


 洋子は脱帽するしかなかった。自らはあれだけ(もが)いて一本のヒットを絞り出したのに、紗愛蘭はあっけなく三本打った。お互いの調子だけでは語りきれない、大きな才能の差が、二人の間には確かに存在していた。


(でも、まだ決まったわけじゃない。これで諦めたら、さっきまでの私に後戻りしてしまう。それだけはやっちゃいけない。本当の勝負はここからなんだから……)


「踽々莉、ナイスバッティング! さあまだまだ点取って、突き放すよ!」


 喉奥を詰まらせる悔しさを無理矢理外へと追いやり、洋子は声を張り上げる。彼女に下を向いている暇はない。才能の差を痛感させられたのなら、それを覆せるようにこれから努力するしかないのだ。洋子はそう自分に言い聞かせ、必死に顔を上げるのだった。




「五対二で亀ヶ崎高校の勝利」

「ありがとうございました!」


 七回裏は葛葉が締め、ゲームセット。かくして夏の大会に向けた最終選考は終わった。練習試合ではあるものの、真裕は亀ヶ崎に入って初勝利を上げた。三安打を放った紗愛蘭共々、メンバー入りを順調に手繰(たぐ)り寄せた。


 背番号の発表は約一週間後。果たして、どのような顔ぶれになるのだろうか――。



See you next base……



WORDFILE.33:猛打賞


 日本プロ野球において、一試合中に一人の選手が三安打以上を放つこと。実際の試合で達成するとスポンサー企業等から賞が贈呈される。1949年、小説家であり日本野球連盟にも勤めていた清岡卓行が発案した。賞が贈られるのは日本野球界特有のものであり、メジャーリーグでは制定されていない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=825156320&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ