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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第六章 夏大に向けて
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71th BASE

お読みいただきありがとうございます。


10月だというのに、また暑さがぶり返してきましたね。

衣替えをしたところなので、また新しく服を出すのがめんどくさいったらありゃしないです(笑)。

「大学生相手にシャットアウトなんて、今日の空さんめっちゃ凄かったです!」

「ありがと。途中無理かなと思ったけど、できて良かったよ」


 試合後、ベンチ裏で真裕にアイシングを付けてもらいながら、空は充実した表情で投球内容を振り返る。真裕もこれぞエースという投球を前にかなり興奮しているようだ。


「あの、空さん」

「ん?」


 そこへ洋子が歩いてきた。彼女は気の毒そうな面持ちで、空に詫びを入れる。


「お疲れ様です。今日は本当に、足引っ張ってすみませんでした」

「もう気にするなって。結局無失点で終えられたんだから」

「はい。それと、四回裏のもありがとうございました。あれで目が覚めました」

「それももう良いから。真裕もいるんだし、その話はもう終わり」


 空は若干頬を赤らめて苦笑い浮かべる。洋子やチームのためだったとはいえ、後々思い出すと気恥ずかしかった。


「とりあえず、元気は取り戻したみたいだな。最後も一本出たし良かったじゃん。大会までちゃんと調子を上げていくように」

「いてっ」


 空は右手の人差指で洋子のおでこを突っつく。洋子は痛がる素振りを見せつつも、先輩の気遣いにただただ感謝するしかなかった。


「が、頑張ります」


 かくして一試合目が終わった。不振に喘いでいた洋子も、最後の最後ではあるが持ち味を発揮し、首の皮一枚繋げた。後は天命を待つのみとなる。




 午後からは二試合目が行われる。真裕は先発投手としてマウンドに上がり、洋子のライバルである紗愛蘭は、七番ライトでスタメンに起用された。


「アウト、チェンジ」


 二回までは両チーム共に三者凡退で進む。三回表、亀ヶ崎の攻撃は紗愛蘭から始まる。


「よろしくお願いします」


 相手投手は右腕の市川(いちかわ)。その初球、紗愛蘭はアウトコースの直球を見送る。判定はストライクだ。


(ふむ……。この前藤原さんの球を見たからかな。このピッチャーのボールはそこまで速く感じない。これくらいならセカンドの頭を越す感じで、引っ張っていける)


 一球目を参考にしながら、紗愛蘭は打つイメージを整える。ベンチからは真裕の声援が聞こえてきた。


「紗愛蘭ちゃん、どんどん振っていこう。打てるよ!」


 紗愛蘭は小さく頷く。その表情からはどことなく自信も覗える。


(真裕の立ち上がりは上々。ここで先制点が入れば、もっと気分良く投げられるはず)


 二球目は低めに外れ、並行カウントとなった三球目。抜けた変化球が高めに来る。紗愛蘭はそれを力強く叩いた。


「セカン!」


 打球はライナーでセカンドの左を抜ける。何回か地面に弾んだ後、センターが回り込んで追い付く。


(センターの体勢が良くない。二つ行ける)


 紗愛蘭はノンストップで一塁を回る。センターは急いで送球動作に移るも、強いボールを投げることができない。その間に紗愛蘭は二塁ベースに滑り込む。


「やった」


 最初の打席でいきなりツーベースが飛び出した。この試合はもちろんのこと、レギュラー争いにおいても、この一打が持つ意味はとても大きい。


 紗愛蘭はこの後、八番に入っていた京子の内野ゴロで進塁。ワンナウトランナー三塁となったところで、九番の真裕に打順が回る。


(紗愛蘭ちゃんのヒットを無駄にしたくない。ここは絶対還すよ)


 打席に向かいながら、真裕は三塁の方を見る。そうしてランナーの紗愛蘭と目が合うと軽く微笑んだ。紗愛蘭もそれに釣られ、控えめに口角も持ち上げる。


(よし。紗愛蘭ちゃんの笑顔を見られたから打てそうな気がする)


 打つ気満々で真裕がバットを構える。ところが監督の隆浯からは、ある指示が出た。


(え? 初球スクイズ⁉)


 サインを確認した真裕は思わず驚いた顔をする。


(馬鹿、表情に出してんじゃねえ。悟られるだろうが。大会でもこういうシチュエーションが大いにあり得るんだから、ここでチャレンジしておけ)

(はーい……)


 真裕は甘んじて了承する。バントも上手な彼女だが、好きではない。とにかく打ちたいというタイプである。


(はあ……。言われた以上はやるしかないか。ボール球は投げないでよ)


 ピッチャーの市川が投球動作に入る。踏み込む足が着地する寸前で、紗愛蘭はホームに向かって走り出す。

 投球は少々ボール気味だったが、バントし辛いコースではない。真裕はしっかりとバットに当て、一塁方向に転がす。


「こっち無理。ファースト」


 市川が前進してくるも、ボールを捕る時には既に紗愛蘭がスライディングを試みていた。スクイズ成功。亀ヶ崎が先制点を挙げる。


「ナイスバント」

「そっちもナイスラン、イエーイ」


 真裕と紗愛蘭がベンチ前でグータッチを交わす。見事に一年生だけの力で一点を取った。


「こら真裕、ちょっと来い!」

「げっ……」


 だが喜びも束の間。隆浯が真裕を呼び寄せ、痛みを感じない程度の強さで彼女の頭を叩く。口調も明らかに怒っているというより、微かに笑みも混じっている。


「馬鹿野郎! サイン見て堂々とびっくりしてんじゃねえよ。相手に読まれるかもしれないだろ」

「はーい。すみません……」

「以後気を付けろ。ナイスバントだった。この後も頼むぞ」


 たとえ上手くいったとしても、駄目なところはきちんと駄目だとすぐに忠告しておく。言い方は人それぞれだが、これも監督の重要な役目である。


「怒られちゃった。しょぼぼーん……」

「どんまい。ピッチングで取り返していこ」

「うん。了解」


 紗愛蘭が真裕の頭を撫でて励ます。それが効いたのかは分からないが、真裕はこの裏も崩れることなく無失点で抑えた。序盤三回を終え、この二人の伸び伸びとしたプレーが目立っている。



See you next base……


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