表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第一章 野球女子!
7/181

6th BASE

お読みいただきありがとうございます。


最近夜更かしすることが増え、それに伴って起きる時間も遅くなっています。

そろそろ戻していかないと……。

「集合!」

「ハイ!」


 グラウンド整備を完了させ、私たちは監督の元に集まる。監督はまず初めに、私たちへの労いの言葉を発する。


「はい、ご苦労さん」


 やや高めながらも野太く、壮気に溢れた声。一見したところ顔立ちも若々しい。私たちとそれほど歳は離れていなさそうだ。


「春の選抜大会が終わって、昨日から新学期も始まった。言うまでもなく最大の目標であり、三年にとっての最後の大会が刻一刻と迫っている。選抜ではベスト八に進めたが、俺たちの目指すところは全国制覇だ。これからは一年生も入ってくるし、上級生として相応しい態度で臨んでほしい。俺は試合で勝てると思った人間を使うからな。レギュラー争いも激しくなるだろうし、こちらもそうなることを望んでる。自分が上手くなるため、チームが強くなるためにどうするべきか、一層意識を高くして取り組んでくれ」

「はい!」


 監督は何気なく話しているように見えるが、その内容は非常に重たい。チーム内の空気も一気に引き締まる。


「俺からは以上だ。誰か他に、何か言うことはあるか?」

「監督、一年生の子が三人参加しているんですが」


 光毅さんが手を挙げて発言する。


「ああ、そうみたいだな。一年生はこれが終わったら俺のところに来てくれ」

「はい」

「他に何かないか?」


 部員同士がお互いに目配せする。特に何も無いようだ。


「よし、じゃあ今日は解散」

「ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」


グラウンドへの挨拶と、全体での締めの挨拶を全員でする。それが終わると私たち三人は、監督のところへと赴いた。


「こんにちは」

「こんにちは。監督の木場(きば)だ」


 腕組みをしながら自己紹介する監督。水色のスポーツウェアを着ているが、胸の辺りが若干突っ張っている。それだけ大胸筋が発達しているということだ。上背もあり、おそらく私のお兄ちゃんと同じくらいだろう。


「よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくな。名前を教えてもらえるか?」

「柳瀬真裕です」

「陽田京子です」

「か、笠ヶ原祥です」

「柳瀬と陽田、それに笠ヶ原か。なんだか、どっかで聞いたことあるトリオだな」


 監督は何かを思い出したように笑みを浮かべる。


「どういうことですか?」

「いやいや、こっちの話さ。とりあえず今日はどうだった? 入部する気になったか?」

「は……」


 威勢良く返事をしようとした私だったが、急いで口をつぐむ。私はもう入部を決めているものの、他の二人はそういうわけではない。


「どうした?」

「あ、その……えっと……」


 私はまごつきながら、京子ちゃんの顔を横目で見る。ここで私が出しゃばれば彼女たちも巻き込んでしまう。


「その様子じゃ、まだ悩んでるって感じだな。まあ全然構わないさ。部員の数も全体的に少ないし、一年生には一人でも多く入って欲しい気持ちはあるが、こちらから強制はできないからな。それにウチは野球部だ。それ相応の厳しい練習が待っていることは覚悟しておいてくれ。それも込みで力を貸してくれるって言うなら、いつでも歓迎しよう」

「……はい、分かりました」

「今日はお疲れさん。まだ時間もあるし、よく考えて答えを出してくれ」


 監督は温かみのある声でそう言うと、おもむろに校舎の方へと歩き出す。


「ありがとうございました」


 私たちはお辞儀をして監督を見送る。顔を上げると、京子ちゃんが話しかけてきた。


「どうして入りますって言わなかったの? もしかして、私たちに気を遣った?」

「ああ……、うん。だってまだ二人とも、入部するかどうか決めてないだろうし」

「私は入部するよ」


 京子ちゃんの後ろから祥ちゃんが言う。


「祥、もう決めたの?」

「うん。今日はキャッチボールやっただけだったけど、結構楽しかったし。それに私左でボール投げるから、野球ではさうすぽー?って言って有利らしいじゃん」


 祥ちゃんは面白い遊びを思いついた少年のように顔を綻ばせる。この事実には私もびっくりである。


「祥ちゃん、左投げだったの?」

「そうだよ。バレーもサーブ撃つ時は左でやってた。光毅さんにはピッチャーできるんじゃないって言われたんだ。真裕と同じポジションになっちゃうかもね」

「すごいね! ピッチャーなら何人いても困らないし、左ピッチャーなら尚更だよ」

「えへへ、やったね。何だかすっごくわくわくしてきたよ」


 祥ちゃんは目を輝かせる。私は祥ちゃんと両手を繋ぎ、その場で何度も飛び跳ねる。


「一緒に頑張ろうね、祥ちゃん」

「うん」

「はあ……」


 そんな私たちを見て、京子ちゃんは大きな溜息をつく。咄嗟に私は我に返り、祥ちゃんの手を放す。 


「あ……。ごめん京子ちゃん、勝手に盛り上がっちゃって」

「別に良いよ。今の溜息は、自分に対してついただけ」

「へ?」


 私と祥ちゃんは揃って首を捻る。


「……ウチも、野球部入るわ」

「ほ、ほんとに? 無理してない?」

「うん。どうせ真裕とこの高校に入った時点で、こうなることは目に見えてた。それにまた小学校の頃みたいに、真裕と野球ができるって考えたら、ウチもわくわくしてきちゃったんだ」


 京子ちゃんは頬を緩ませながら言う。その笑顔は、迷いを絶ったようで絶ち切れていない、うっすらと陰りのあるものに思えた。


「むむっ、その様子だと君たち全員、入部を決めてくれたみたいだね」


 そこにひょっこりと光毅さんが現れた。祥ちゃんは、入部することを高らかと宣言する。


「はい。私たち三人、野球部に入ります!」

「よーし。これでひとまず新入部員を三人確保だ。これからよろしくね」

「はい、よろしくお願いします」


 私たちは三人合わせて礼をする。すると一人の先輩が、光毅さんに声を掛けてくる。


「光毅、誰と話してるの……って、い、一年生の子か」

「そうだよ。皆入部してくれるって」

「そ、そうなんだ。よ、よろしく……」


 光毅さんの背後に隠れ、控えめに会釈をする先輩。首筋に掛かるくらいのショートカットが、微かに揺れる。


「もう風ったら、おどおどしてないでしゃきっとしなよ。先輩でしょ」

「わっ!」


 光毅さんが先輩の背中を叩く。気持ちの良い音と共に、先輩は前へと押し出された。


「し、城下(しろした)(ふう)です。ポジションは、ショートやってます……」


 緊張しているから、歯切れの悪い喋りになっている。声も細くて若干聞こえ辛い。


「“風さん”で良いですか?」


 京子ちゃんが聞き返すと、風さんは小刻みに首を縦に動かす。


「京子はショートだから、風のライバルになるね。レギュラー取られないように気を付けないと」

「え? そ、そうなの?」

「はい。一応中学のソフトでも守ってました。陽田京子です」

「ね。だからうかうかしてられないよ」


 光毅さんが悪戯っぽく風さんの肩を揉む。


「京子ちゃんか。うう……」


 風さんは口を真一文字に結び、京子ちゃんを見つめる。まるで縄張りに入ってこられないように威嚇する狼みたいだ。しかしどこかで遠慮している雰囲気が垣間見えるので、狼というよりはちょっぴり我の強い猫と言った方がしっくりくる。


「えっと……」


 京子ちゃんも怯えた様子はなく、どう返せばいいか戸惑っている感じだ。


「あーごめんごめん。変に煽っちゃったね。はい風、私たちは着替えに行きましょうね」


 光毅さんは苦笑いしながら風さんと一緒に方向転換し、私たちに背を向ける。


「そうだ。後で連絡先教えてよ」


 光毅さんは歩き出す前にこちらを振り返り、私たちに言う。


「はい。こちらこそお願いします」

「校内でばれると面倒臭いし、外でやろう。私たちは先に校門の近くで待ってるから、終わったら声かけて」

「分かりました」


 光毅さんは後ろ手を振りながら、風さんを連れて歩いていく。私たちは借りた用具を整頓し、一足遅れて部室へと向かった。



See you next base……


PLAYERFILE.6:桐生(きりゅう)優築(ゆづき)

学年:高校二年生

誕生日:12/13

投/打:右/右

守備位置:捕手

身長/体重:159/52

好きな食べ物:タン、かまぼこ


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=825156320&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ