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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第六章 夏大に向けて
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66th BASE

お読みいただきありがとうございます。


エラーに関しては私も嫌な思い出があります。

というかあり過ぎて、逆に一つ挙げろと言われると困ってしまいます(笑)。


ただやっぱりエラーをすると、その時は気持ちはかなり落ち込みます。

果たして洋子はこれを乗り越えられるのでしょうか?

「しまった……」

「いい! 私が行く!」


 バックアップに回っていた晴香が洋子を制し、転がったボールを拾ってすかさず二塁に投げる。一塁に戻りかけていた諏訪も慌てて方向転換したが、流石にこれは間に合わない。送球を受け取った風がベースを踏み、二塁をフォースアウトにする。


「セ、センターナイスカバー……」


 亀ヶ崎ベンチから誰かの気まずい声が飛ぶ。けれどもそれに続くものはおらず、皆呆気に取られて固まっている。


「そんな……」


 青ざめた表情を浮かべ、洋子はボールを落とした場所に立ち尽くす。何の変哲も無いフライだった。幾度となく繰り返し、練習ですらミスしたことはない。まさに魔が差したような落球。しかもよりによって、自らの命運を握る試合で出てしまった。これを悪夢と呼ぶ以外に、何と表現できようか。


「洋子、そんなに落ち込んだ顔を見せちゃ駄目。二塁はアウトになったんだから、状況は変わってないわ。それにまだこの回は終わってない。切り替えて守備位置に戻って」

「は、はい。すみません……」


 晴香に諭され、洋子はライトの定位置に戻っていく。その足取りはとても重そうで、洋子本人も自分がしっかり歩けているのか分からなかった。


 負の連鎖は一度繋がると、どうしても断ち切れるのが難しくなる。野球の綾というのは怪奇なもので、こうした負の連鎖が続くようにできているのだ。それはここでも例外ではなかった。


「よろしくお願いします」


 アウトカウントが一つ増え、五番の北田に打順が回る。先ほどはあっけなくサードゴロに倒れている。


(洋子のがエラーになってたら嫌な流れだったけど、晴香さんがカバーしてくれた。私たちはペースを乱さずにいきましょう)

(ストレートを外角にか。オッケー)


 空が北田に対しての一球目を投じる。アウトコースのやや外れているところだったが、北田は打ってきた。

「ファースト」


 鈍い音を響かせ、緩い飛球が珠音の頭上を彷徨(さまよ)う。珠音がグラブを伸ばすも届かず、ライトの前方に小さくバウンドする。


「ランナー回った!」


 洋子がボールを拾い上げる。一塁ランナーの蜂谷は既に二塁を蹴っていた。


(ここで刺せればミスを取り返せる。絶対アウトにしてやる!)

「洋子、間に合わない。中継に返して」


 サードの杏玖は目一杯のジェスチャーで洋子を止めようとする。ところが洋子はそれを振り切り、無我夢中で三塁へと送球した。


「うわっ!」


 ボールは狙った場所から大きく逸れる。杏玖は捕球することができず、三塁ベースの後ろを転々とする。


「お、ラッキー……おっとっと」


 スライディングから起き上がり、ホームに向かおうとする蜂谷。だが、すぐに足を止めて三塁に戻る。空がしっかりとバックアップに回っていたのだ。


「ナイスです空さん」

「うん。タイムお願いします」


 空は一旦タイムをかけてからマウンドに戻る。彼女のカバーのおかげで得点は与えなかったが、この間にバッターランナーも二塁へ進んだ。


「洋子、今のは投げるべきじゃないでしょ。杏玖が止めてたの、聞こえなかった?」

「す、すみません……」


 セカンドの光毅からやや強めの口調で注意され、洋子は申し訳なさそうに顔を伏せる。

 杏玖の声が聞こえていなかったわけではなかった。たとえ耳に入っていなかったとしても、ボールを捕った時点でのランナーの位置を考えれば、アウトにできないことなど簡単に判断が付いた。それでも投げたのは、自分に対する悪い印象を払拭させたいという想いから。ただそれは洋子の身勝手なワンマンプレーに他ならない。しかもその結果が暴投。汚名を雪ぐどころか、更に着せる形となってしまった。


(もう駄目かな……)


 洋子は自分の胸の奥で、彼女を堪えさせていた緊張の糸が切れたのを感じる。あれほど力みかえっていたのが嘘のように、彼女の身体は激しい虚無感と脱力感に見舞われる。その哀れな背中は、マウンドの空の目にもしっかりと映っていた。


「あいつ……」


 空は何か言いたそうに口を真一文字に結び、険しい目つきで洋子を見つめる。その後鼻で溜息をつくと、頭の横で左肩を一回回してホームベースの方を向く。


(まあ良い。今は次の打者を抑えることに集中する)


 ツーアウトランナー二、三塁。亀ヶ崎にとって二回表以来のピンチがやってくる。迎えるバッターは六番の遠藤だ。優築は外野前進の指示を出し、セカンドランナーのホーム突入に備えさせる。


(一打席目はストレートだけで打ち取れた。といってもこの場面で同じことはできない。まずはそれを踏まえて、変化球でストライクを取りたい)


 初球はスライダー。内から甘めのコースに入ってくるボールだったが、遠藤は打つ素振りを見せない。判定はストライク。空は内心ほっとする。


(危な。振ってこられたら打たれてたかも。初見だし手を出し辛かったのかな。それで、次はどうする?)

(直球で行きましょう。ボールになっても良いので、厳しいコースにお願いします)


 二球目。空はアウトローの微妙なところに投げ込む。ただし遠藤には見送られ、球審にもボールとコールされる。


(むっ。そこはストライクと言ってほしいところだったけど……。仕方無いか)


 心の中でそう呟く空だったが、決して不満そうな態度は表に出さない。これ以降の判定に悪影響が出るかもしれないからではなく、相手に隙を見せることになるからである。ピンチの時ほど沈着冷静に、余裕を持って臨まなければならない。それがエースという存在であり、空は常にそれに相応しい振舞を心掛けているのだ。


(ワンボールワンストライク。ここはストライクに入れたい。何でいく?)

(カーブでどうですか? 多少甘くなってもタイミングは崩せるはずです)

(分かった)


 サインの交換が終わる。セットポジションに入った空はグラブの中でボールを握り替え、遠藤に対しての三球目を投げる。

 左手から放たれたボールは一旦浮き上がった後、打者のベルトの高さまで落ちていく。難しいコースではなかったが、遠藤はタイミングを外され、その流れのまま打たされる形になる。


「ライト!」


 これも流れの悪戯か。またもやライトの横に、力の無いフライが上がった。 



See you next base……


WORDFILE.29:得点圏


 ランナーが二塁以降にいる時を指す。英語ではスコアリングポジションと訳される。二塁又は三塁にランナーがいると、一本のヒットで得点が入る可能性が高いため、こうした呼び方が成されている。ただし「得点圏」は公式な用語ではない。得点圏に走者を置いた状態下でのバッターの打率を得点圏打率といい、チャンスにおける強さの指標とされる。


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