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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第六章 夏大に向けて
66/181

65th BASE

お読みいただきありがとうございます。


秋分の日を迎え、ここから徐々に昼間が短くなっていきます。

最近まで暑い暑いと嘆いていたはずなのに……。

季節の移り変わりは本当に速いものです。


「オッケーオッケー。良い攻撃だったぞ。切り替えてしっかり守ってこい!」


 隆浯の声を背中に受け、空が三イニング目の投球に向かう。


(点を取ってもらった後に抑えるのは鉄則。大会でもこれを繰り返していくんだ)


 マウンド上で軽く肩を回す素振りを見せながら、空は自らにそう言い聞かせる。その言葉通り、三回表、彼女は圧巻のピッチングを披露する。


「ストライク、バッターアウト」


 先頭を三振に仕留めると、続くバッターは二球でショートゴロに打ち取る。そして教知大の打線も一巡し、一番の奈須野に二打席目が回ってくる。


「バッターアウト。チェンジ」


 最後は今日初めて使ったチェンジアップで空振りさせ、またも三振を奪う。あっという間に教知大の攻撃を終わらせた。空は駆け足でマウンドを降りると、帰ってくる守備陣をベンチ前で鼓舞する。


「ほらほら、追加点頼むよ!」


 そんなエースに乗せられ、亀ヶ崎は三回の裏も得点を重ねる。二本のヒットと進塁打でツーアウトランナー二、三塁の状況を作り、先ほど先制打を放った優築が打席に立つ。ワンボールワンストライクからの三球目、彼女は高めの直球をセンターに弾き返した。


「杏玖ノースライ! 余裕余裕」


 二人のランナーを還し、二点を加える。優築はこれでこの試合三打点目。スコアは六対〇となる。


「良いねえ。今日絶好調じゃん」

「いやいや、偶々チャンスで回ってきてるだけだよ」


 一塁ランナーコーチと談笑する優築。口元も心なしか和らいでいる。


 続いて九番の洋子に打順が回る。ただその顔つきは優築とは対照的に、悲壮感が漂っていた。


(点差も開いたし、ここは自由に打つだけ。皆が打ってる間に私も一本出さないと……)


 一球目。洋子は内角に来たストレートに手を出す。しかし随分と振り遅れてしまい、バットは空を切る。


(……肩に力入り過ぎ。別に大きいのを打つ必要は無いんだ。ボールに対して素直にバットを出して、ライト前に落とせば良い。いつもやっていることじゃないか)


 洋子は余計な力を抜こうと、打席の中でしきりに手首や肩を脱力させる素振りを繰り返す。けれどもそれに反比例して心拍数は増し、呼吸は落ち着きを失うばかりだ。


(雑念を消せ。ピッチャーに集中しろ。芯に当てれば打てるんだから)


 まだワンストライクを取られただけ。それなのに、洋子は心も体も完全に追い込まれていた。無論、こんな状態でヒットなど打てるはずがない。


「ストライク」

「ストライク、バッターアウト」

「あ、ああ……」


 二球目、三球目とボール気味の球を空振りし、洋子は三球三振に倒れる。相手のキャッチャーが足早にベンチへと引き揚げていく中、洋子は打席に残り、バットを握りしめて暫く固まる。


(何で……、何で当たらないの……?)


「君、チェンジだよ。早く守備に就きなさい。スピーディーに動こう」

「あ、す、すみません」


 球審に促され、慌てて洋子は動き出す。ベンチ前では、彼女のグラブを用意した真裕が待っていた。


「洋子さん、バットとか貰います」

「う、うん……」


 洋子はバッティング用具一式を真裕に預け、代わりにグラブと帽子を受け取る。


「惜しかったですね。打てなかった分は守備とか声で取り返していきましょう」

「……」


 真裕の言葉には反応を示さず、その場から逃げるように洋子はライトの守備位置に走っていく。今の情けない自分に、誰にも触れてほしくなかった。


 チームに楽勝ムードが漂い始めるも、洋子は一人もがき苦しむ。こういう時は悪いことが重なるもので、彼女には更なる悲劇が待ち受けていた。


「ボール、フォア」


 四回表。空は快調に一つ目のアウトを取ったものの、次の三番の諏訪にフォアボールを与えてしまう。四球全てストライクゾーンからは大きく外れていた。空にも理由が分からないという不可解なもので、四球目を投げ終えた後、彼女は思わず首を傾げた。


(今まで通りに投げてるはずなのに、何で入らなかったんだ?)


 バッターは四番の蜂谷。前の打席ではバッテリーの度肝を抜くツーベースを放っている。その残像は当然、亀ヶ崎バッテリーの頭に刻み込まれている。優築はそれを思い出しながら、攻め方を考える。


(あの打球は本当に凄かった。でもあれはこっちが力勝負に拘った故に出たもの。変化球を混ぜていけば、結果は違ってくるはず)


 初球の球種はカーブ。蜂谷はバットを動かす素振りを見せず、真ん中低めへのストライクとなる。


(きっちり要求したコースに来た。さっきのフォアボールの影響は無いみたいね。向こうは手を出してこなかったけど、ストレートに張っていたのか? それなら空さん、試しにもう一球カーブを続けてみましょう。ただし今度はボール球でお願いします)

(はいよ)


 二球目。空はワンバウンドとなるカーブを投じる。これも蜂谷は見送った。優築が若干ボールを横に逸らしたが、一塁ランナーは自重する。


(流石に外れ過ぎたか。けれどもほとんど打つ気配が無かったし、カーブだと分かった瞬間に諦めているようにも見えた。しつこく行きたいところだけれど、ここはまだ変化球を多投する場面じゃない。ということで次はこれでいきます)


 三球目、バッテリーはストレートでインコースを攻める。ボール一個分外れていたが、蜂谷は構わず打ち返した。


「サード」


 速いゴロが三塁線を襲う。しかしベースの外側を通過しており、ファールとなる。


(やっぱり真っ直ぐ待ちだったか。当たりは良かったけど、あのコースをフェアに入れるのは至難の業でしょ)


 打球の行方を確認し、優築は小さく頷く。これでツーストライクと追い込んだ。


(セオリー通りの配球ですけど、これで仕留めにいきましょう。良いコースに行けば十分打ち取れるはずです)

(了解。高めには抜けないようにしないと)


 空がセットポジションに入る。一塁ランナーを目で牽制しつつ、前の三球よりも少し長く間を取ってから、蜂谷への四球目を投げた。

 球速の抑えられた投球がアウトローへ行く。チェンジアップだ。蜂谷はタイミングを崩され、泳いだスイングをさせられる。それでも何とか片手でボールを掬い上げた。


「ライト」


 打球は右中間への平凡なフライになる。洋子は余裕を持って落下点に入った。


「オーライ」


 あとは捕るのみ。だがこの時、空を含め守っていた何人かに、不思議と嫌な予感が過った。それは自然と、洋子にも伝わってしまう。


(あれ? なんかおかしい……)


 金縛りにでもあったかのように、洋子の左腕が急激に硬直する。ボールがゆっくりと落ちてきたが、差し出されたグラブの土手に当たり、そのまま地面に弾んだ。




See you next base……


WORDFILE.28:失策

 

 守備を行っている野手・投手のミスにより、アウトにするはずの打者・走者をアウトにできなかったり、余分な進塁を許したりすること。「エラー」とも言われる。

 失策で出したランナーに関しては投手の自責点にはカウントされず、得点しても防御率に影響しない。また、ツーアウトから失策でランナーが出て、その後の打者に本塁打を打たれた時のように、本来失策が無ければスリーアウトになっていた状態から失点した場合も、自責点にはカウントされない。

 失策は記録上の「ミス」ではあるが、守備範囲が広い故に際どい打球を捕れなかったり、守備範囲が狭いことで打球に追いつけず失策が記録されなかったりするため、失策数だけでは守備の良し悪しを測ることはできない。


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