表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第六章 夏大に向けて
65/181

64th BASE

お読みいただきありがとうございます。


プロ野球のペナントレースも佳境に入り、続々と引退表明をする選手が出てきました。

個人的に思い入れのある選手もいるので、最後までできる限り応援していきたいと思います。

 二回の裏、亀ヶ崎にチャンスが訪れる。先頭の珠音が三遊間を破るヒットで出塁すると、一死後、七番の空がライト前ヒットを放つ。この一打で珠音は三塁まで進塁した。


「よろしくお願いします」


 ワンナウトランナー一、三塁となり、バッターは八番の優築。右打席に入ってベンチからの指示を確認する。一球目は何のサインも出ない。


(自由に打って良いってことね。こういう時は狙い球が来たら、積極的に行かないと)


 マウンドには教知大学の先発、鬼頭(きとう)が上がっていた。優築はじっと彼女を見つめ、相手バッテリーの配球を考える。


(このピッチャーはコントロールに困るようなタイプじゃないみたいだし、さっきからストレート以外でもストライクを取ってる。カーブやスライダー系統に絞ってみるか)


 その初球、早速狙っていた球種が来る。優築は果敢にバットを出し、真ん中から外に曲がっていくところを捉える。


「セカンバック!」


 セカンド後方に小フライが上がる。センター、ライトが揃って前進してくるが、打球は三人の中間地点に落ちる。


「はい、これでまず一点ね」


 三塁ランナーの珠音が悠然とホームベースを踏む。先制の適時打となった。


「ナイバッチ優築!」


 二塁へと進んでいた空が拍手を送る。優築は一塁ベース上でヘルメットの鍔を触り、会釈をして応える。


(とりあえず打てて良かった。でも向こうのバッテリー、ピンチなのに簡単にストライクに投げてきてた。私が八番だからって油断してたのかしら?)


 もちろんここは打った優築を褒めるべきだが、教知大バッテリーの入りが不用心であったことも否めない。優築の見立て通り、鬼頭は決してコントロールには苦しんでいない。だとすればもう少し際どいコースを狙っても良かったのではないか。結果論ではあるものの、守備側の立場からすると打たれるべくして打たれたという感じになってしまった。


 尚も得点圏にランナーを置き、九番の洋子に打順が回る。レギュラー争いをしている身としては、ここは是が非でも打っておきたいところだ。


(追い込まれたら中々ヒットは打てない。優築の勢いに乗って、初球から振る)


 バットを構えた洋子の、両肩の筋肉が強張る。一球目、外角低めに来たストレートに対し、洋子は打ちに出る。


「ストライク」


 空振り。体の重心が崩れる程の大きなスイングだったが、バットには当たらない。


(おいおい、初球であそこのコース振らなくてもいいでしょ。こっから見るとボール臭いよ。それにそんなに大振りしたら逆に飛ばないって。何を追い詰められてるんだよ)


 空は洋子の姿勢に懐疑を抱く。二塁ランナーの彼女にとってホームの位置は真正面に当たるため、球種やコース、加えて打者の様子がよく分かる。空の目から見て、洋子は明らかに冷静さを欠いていた。


 二球目は外角へのスライダー。ストライクゾーンからは大きく離れていたが、洋子はこれも振ってしまう。


(くそっ、なんでこんなボールに手を出すんだ。今のは曲がる前から外れてただろ)


 スイングした後、洋子は自らに怒りの言葉をぶつける。だが頭では分かっていても、体が言うことを聞いてくれない。それが今の彼女の状態である。


 一つ見せ球を挟み、カウントはツーボールワンストライクとなる。洋子は変化球への警戒を強める。


(まだボールを投げる余裕がある。ここは変化球で振らせにくる可能性が高い。さっきみたいに手を出さないようにしないと……)


 四球目。鬼頭が投げてきたのは、真ん中低めへのストレートだった。


(……しまった)


 裏を掻かれた格好となり、洋子は何とかカットしようとする。けれども手首を返すだけの中途半端なスイングしかできず、ボールはキャッチャーミットに収まる。


「ストライク、バッターアウト」

「く……」


 苦虫を噛み潰したような表情をヘルメットで隠し、洋子は肩を落としてベンチに下がっていく。


 先取点を取り、畳みかけていきたいところで何もできずに三振。これではチームの勢いを止めてしまいかねない。首脳陣に与える印象としても最悪だ。それは洋子自身が一番理解していた。


(次こそは……、次こそは打たないと……)


 グラウンドの方に目を向け直すと、打席には一番の光毅が入っていた。ツーアウトになったといってもチャンスは途絶えていない。光毅が打てば、手放しかけている流れを引き戻すことができる。


(最初の打席で見た感じ、こっちがびっくりするようなボールは持ってない。強く振れそうなとこに来たら打つ)


 光毅は球種よりもコースに狙いを定める。ワンボールからの二球目。真ん中高めに、浮いたスライダーが来た。


(お、打てそう。もらった!)


 光毅は迷わずフルスイングする。真芯を食った打球が、鮮やかに左中間を破っていった。


「バックホーム! ショートもっと奥まで追って!」


 教知大のキャッチャーが大声で叫ぶ中、まず二塁ランナーの空がホームを駆け抜ける。それに続いて、一塁ランナーの優築も三塁ベースを蹴る。


「優築、外に滑って!」


 ホームインした空と次打者の風が、大きな身ぶりでスライディングの指示を出す。中継のショートからボールが返ってきた。優築はキャッチャーの背後に回り込み、スライディングを試みる。


「セーフ、セーフ!」


 キャッチャーにタッチされる前に、優築は左手でホームベースに触れた。打った光毅も二塁まで達しており、二点タイムリーツーベースとなる。


「ナイバッティン、ナイスラン!」


 ベンチのムードも一気に上昇。ナインたちは皆笑顔を弾けさせ、空と優築を迎える。ただし、一人の選手を除いて……。


「抜けた! 回れ回れ」


 この後の風にもヒットが飛び出し、光毅が生還する。最終的に亀ヶ崎はこの回、四得点を挙げる攻撃を見せた。



See you next base……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=825156320&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ