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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第六章 夏大に向けて
64/181

63th BASE

お読みいただきありがとうございます。


少し前になりますが、U-18の野球日本代表がアジア3位に輝きました。

おめでとうございます!

甲子園を沸かせた彼らが、今後どのような道を拓いていくのかとても楽しみですね。

 空が二回表のマウンドに上がる。この回の教知大の攻撃は四番の蜂谷(はちや)からだ。


「よろしくお願いします」


 蜂谷の体を見渡すと、上半身から下半身にかけて満遍なく付いている筋肉に目が行く。教知大の他の選手と比べても、体格の良さは群を抜いている。打席に入る前に行っていた素振りでは、軽くやっているように見えて鋭い音を鳴らしていた。怖い打者ではあるが、優築は最初に決めた通りストレート主体で攻めることにする。


(本当はこういうバッターには力勝負を挑むべきじゃない。だけどこの打席は特別。空さん、打たれても構わないですから、真っ直ぐで押し込みに行きましょう)

(了解。打たせる気は更々無いけどね)


 蜂谷への初球、バッテリーはストレートで懐を抉る。蜂谷は打って出る。


「ファール」


 打球は突き刺すようにバックネットを直撃。優築は球審から新しいボールを貰い、マウンドの空に渡す。


(タイミングは合っていた。もう少し低かったら飛ばされていたかも。ならその対角線はどう?)


 二球目。優築の要求は外角低め。空はストライクかボールか際どいところに投げ込む。


(良いコース。これは流石に打たないか? いや……)


 優築の予想に反し、蜂谷はバットを出してきた。脇に巻きついた右腕を瞬時に伸ばしてボールを押し込み、逆方向へと弾き返す。


「セカン!」

「オーラ……あれ?」


 物凄いスピードのライナーが飛ぶ。セカンドの光毅にジャンプする時間すら与えず、ボールは彼女の頭上を越え、そのまま右中間を破っていく。あっという間にフェンスまで達した。


「ボールサード!」


 センターの晴香が素早く中継の光毅にボールを返す。半身の体勢で受け取った光毅はサードに送球しようとしたが、蜂谷が二塁をオーバーランしたところでストップしていたため、投げるのを止めて走って内野に戻る。


「ナイバッチ、ブンブン!」


 教知大ベンチが楽しそうに声を弾ませる。打った蜂谷も二塁ベース上で笑顔でガッツポーズを見せる。


「びっくりした。気付いたらフェンスまで行ってんだもん」

「ほんとだよ。アウトコースギリギリをあんな風に飛ばすなんて。怖ろしいわ」

「ま、打たれたものは仕方無いし、切り替えていこ。上は限界があるけど、下の打球は全部止めるからさ」

「サンキュ。頼むよ」


 ボールを返しにきた光毅と会話を交わす空。それから緩んだアンダーシャツの袖を整え、次の打者と対峙する。


(完封目指すって言った矢先に点を取られたら恥ずかしい。ノーアウトだけど、ここは抑えきるよ)


 バッターは五番の北田(きただ)。その初球、空は外角高めの直球でストライクを取る。


 二球目、今度は内角に入っていくスライダーを投じる。北田は打ち返したが引っ掛けてしまい、サードへのゴロとなる。これを杏玖が捌き、蜂谷を目で牽制してから一塁へ送球。セカンドランナーを進ませずにアウトカウントを増やす。空の心を汲みつつも一点を覚悟していた優築だったが、これでゼロに抑えられる可能性も見えてきた。


(淡泊に打ってくれて助かった。元より空さんは点をあげるつもりはないみたいだし、それが良い方向に向いてくれれば)


 打順は六番の遠藤(えんどう)に回る。教知大のスタメンの中では、彼女が唯一の左打者だ。


 一球目にストライク、二球目にボールと続いた三球目、遠藤はやや外寄りのストレートを強引に引っ張る。平凡なゴロが一二塁間へ転がる。


「オーライ」


 ファーストの珠音がベースから離れた位置打球を捕る。カバーに入ってきた空と呼吸を合わせ、ボールをトス。受け取った空がベースを踏んでアウトにする。その間に蜂谷は三塁へと進んだ。


「ナイスファースト。トスもバッチリだったよ」


 珠音に声を掛け、空がマウンドに戻っていく。先頭に二塁打を許したものの、ツーアウトまで漕ぎ着けた。打席には七番の大村(おおむら)を迎える。


(ツーアウトを取ったけど安心はしちゃ駄目だ。ここで打たれたらもったいない)


 緩みかけた心を引き締め直し、空は初球のサインを覗う。ここも優築は力で押す方針は崩さない。アウトローへのストレートを要求する。


(分かった)


 空は頷き、セットポジションに入る。ランナーはいるが大きく足を上げ、大村に対して一球目を投じる。

 大村は積極的にバットを振っていくも空振り。スイングの軌道はボールが過ぎた後を通っている。もちろんこれは優築もしっかりと把握していた。


(全くもって振り遅れてる。外から何球も見てたはずなのに。これなら深く考えず、真っ直ぐ一本で行ってしまっても良さそう)


 二球目も外角低めへの直球。少々ボール気味になったが、大村はスイングし、バットが空を切る。


「はっや。全然当たんないんだけど」


 ずれたヘルメットを整えながら大村が呟く。優築はその言葉を聞き逃さなかった。サインを出した彼女は中腰でミットを構えると、右手を振って何やら空に合図する。


(高めのボールゾーンでお願いします。けれど外すのではなく、空振りを奪うつもりで投げてきてください)

(オッケー。これで片を付けるってことね)


 追い込んだ状態での三球目、空は優築のミット目掛けて思い切り腕を振る。スピンの効いた直球が、一直線に進んでいく。


「うわっ」


 大村は思わず反応してしまい、慌てて動かしたバットを止める。


「振った振った!」


 空と優築はすかさずハーフスイングをアピール。球審がジャッジを尋ねると、一塁塁審は右腕を上げ、スイング判定を下す。


「バッターアウト、チェンジ」

「おっしゃ!」


 三振が成立してスリーアウトとなり、亀ヶ崎はピンチを脱出。空は左手で小さな拳を作った。


「最後の球、良いボールでした」

「おう、そっちもナイスリード」


 ベンチ前でお互いのグラブでタッチを交わす空と優築。空の表情は非常に活き活きとしている。


(大会前ということもあって、空さんも大分気持ちが乗ってるみたい。それがボールにも表れてる。にしても、向こうのバッターはチャンスなのに誰一人何の工夫も見られなかった。様子を見ているのか、高校生だからって舐めているのか。それとも元々この程度の実力なのか……)


 優築は教知大のベンチに目をやる。チャンスを潰したにも関わらず、誰かが叱咤の声を上げることもなければ、重たい雰囲気になっている様子も無い。気の抜けたような笑みを浮かべながら、それぞれの守備位置に散っていく。いくら練習試合とはいえ、緊張感が無さすぎるのではないか。そんな風に思えてしまうところに小さな不快感を抱きつつ、優築は自分たちの攻撃の準備に掛かった。



See you next base……


WORDFILE.27:ハーフスイング

 

 打者が打ちにいこうとしたバットを中途半端な位置で止めること。スイング判定されれば空振りとなる。判定は基本球審が下すが、捕手または守備側の監督から要請があれば、右打者の時には一塁塁審、左打者の時には三塁塁審に委ねなければならない。因みに打者には要請する権利はない。

 ハーフスイングの基準については、手首が返ったかどうか、出したバットがフェアゾーンにかかっているかどうかなど諸々言われているが、明確な基準はルールブックには記載されていない。審判は打者が打つ意思を持っていたかどうかを見ている。しかし目で見て分かるものではないため、全て審判自身の判断次第となる。


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