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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第六章 夏大に向けて
63/181

62th BASE

お読みいただきありがとうございます。


今回の試合はレギュラー争いをテーマにしています。

所々厳しい描写もありますが、その辺りもお楽しみいただけたらと思います。

 教知大学との練習試合の日がやってきた。真裕たち女子野球部は朝早く亀高に集合し、隆浯たちの車に乗って移動。一時間近く掛けて教知大学のグラウンドに到着した。


 教知大学は郊外に建てられており、同じ県内にある都市部の大学に比べ、キャンパスが深緑に覆われている。この季節の木々は優美で荘厳な緑色を身に着け始めており、見る者の心を柔らかに手懐けていく。

 そんな自然味溢れる情景に心を奪われつつ、静かに耳を澄ましてみると、グラウンドからは少女たちの威勢の良い声が聞こえてくる。


「一番セカンド、光毅」

「はい!」


 亀ヶ崎ナインは既にアップを済ませ、現在は一試合目のスタメンを発表しているところだ。先日隆浯が話していたように、この練習試合は夏の大会のメンバー選考前の最後の試合。言わば今回の各人の成績が、直接メンバー選考の行方を左右することになる。主軸の座を死守したい者、レギュラーを奪取したい者、何とかしてメンバー入りを掴みたい者、多種多様な想いと思惑が、試合開始前からチーム内では交錯している。


「九番ライト、洋子」

「……はい!」


 自らの名前を呼ばれ、二年生の増川洋子が一拍置いてから返事をする。彼女はこの試合に並々ならぬ危機感を持って臨んでいた。

 走攻守バランスの取れたオールラウンドプレイヤーで、どんなプレーも冷静沈着に率なく熟す。加えてチームでも指折りの努力家であり、学年問わず人望も厚い。そうした点が評価され、昨夏から一年間、ずっとライトのレギュラーとして起用されてきた。


 しかしここに来て、その地位が揺らいでいる。きっかけはゴールデンウィークにあった楽師館高校との練習試合だった。洋子はデッドボールを受けて途中交代。代わって出場した一年生の紗愛蘭が鮮烈な活躍を見せ、雲行きは怪しくなった。デッドボールの影響で洋子のバッティングも狂ってしまい、ここ最近の練習では紗愛蘭との差が顕著に見られている。今日の内容を受け、もしも隆浯が洋子よりも紗愛蘭の方が良いと判断すれば、夏の大会で紗愛蘭がレギュラーになることも十分にあり得る。そのことは洋子も痛切に自覚していた。


(ひとまずスタメンで出してもらえた。けれど後できっと、踽々莉の出番もある。絶対に結果を残しておかないと)


 洋子は鬼気迫る表情で唇を噛む。彼女にとって、生き残りを懸けた戦いが始まる。




「ただいまより、教知大学対亀ヶ崎高校の試合を始めます」


 試合開始。一回の表、後攻の亀ヶ崎のマウンドには空が上がる。


(さて、今日も頑張りますか。大会までそんなに試合数もないし、一戦一戦大切にしていかないとね)


 八月に新チームになってから四月まで、亀ヶ崎の投手陣はこの空と葛葉の二人でほとんど回してきた。葛葉は怪我をしやすい体質のためその点に気を配らなければならず、連日長いイニングを投げることはできない。その反面、空は高校に入ってから大きな故障無くここまで来た。常に第一線で投げ続けてきた彼女は紛れもなく亀ヶ崎のエースピッチャーであり、真裕が入ったとはいえその位置付けは変わらない。夏の大会でチームを勝利に導く投球ができるよう、これからの練習試合は重要な調整の場となる。


「一回の表、三人で切るぞー!」

「おー!」


 空の投球練習が終わり、この試合の最初のバッターが右打席に入る。教知大の一番、奈須野(なすの)だ。


(教知の野球部はそこまでレベルが高いわけじゃない。それでも、パワーもスピードも私たちよりは一回り上手。仮想強豪校としてはぴったりね。変に(かわ)そうとせず、空さんの今ある力でどれくらい通じるのか、確かめていきたい)


 優築はいきなり膝元にミットを構える。ランナーはいないが、空はセットポジションから足を上げ、一球目を放る。


「ストライク」


 直球がミットに吸い込まれていく。奈須野は全く反応しなかった。


 二球目。バッテリーは反対のコースにストレートを続ける。奈須野はベルトの高さに浮いたところを叩いたが、振り遅れて力の無い飛球が上がる。


「オーライ」


 ライトの洋子が少し右に走って落下点に入り、落ちてきたボールをシングルハンドでキャッチする。まずは一つ目のアウトが灯った。


「ナイライト! ワンナウト!」


 空は人差指を掲げ、洋子に向かって大きな声を掛ける。洋子は内野にボールを返すと、口元を結んだまま僅かな間だけ指で一を作り、定位置へと戻っていった。


(何だよ洋子の奴、今日はいつも以上に連れないなあ。まあ良いや。とりあえず二球で一番を打ちとれた。今日は真っ直ぐの走りが良いみたいだ)


 自らのストレートの出来に好感触を持つ空。優築も同じことを感じでいた。


(トップバッターを詰まらせたんだから、力勝負でもある程度は通用するみたい。行けるところまで直球中心で組み立ててみるか)


 続いては二番の朝賀(あさが)。ここもバッテリーは一球目、二球目とストレートを使って攻める。そして三球目、朝賀は奈須野と似たようなフライを打ち上げる。


「センター」


 今度はセンターへの打球となった。前進してきた晴香が足を止め、余裕を持ってボールを掴む。


「よし、ツーアウト」


 二者連続でアウト。この流れに乗り、空は次の三番、諏訪(すわ)もショートゴロに打ち取る。初回を三者凡退で終わらせた。


「ナイスピッチです」


 ベンチに戻ってきた空を真裕が迎える。真裕の登板はこの後の第二試合で予定されており、この試合はベンチで観戦となる。


「調子良さそうですね」

「うん。いくら大学生相手って言っても、この時期に来てみっともないピッチングはできないからね。今日は一点も与えないよ」

「お、期待してます」


 空は左拳を握り、得意顔で完封宣言をする。真裕はその姿を頼もしく思いつつ、先輩にエールを送った。


 一回裏の亀ヶ崎の攻撃は無得点。普段以上に張り詰めた空気感が漂う中、試合自体は静かな立ち上がりとなった。



See you next base……


STARTING LINEUP



1.戸鞠 光毅  右/右  セカンド

2.城下 風   右/右  ショート

3.糸地 晴香  右/右  センター

4.宮河 玲雄  右/左  レフト

5.紅峰 珠音  右/右  ファースト

6.外羽 杏玖  右/右  サード

7.天寺 空   左/左  ピッチャー

8.桐生 優築  右/右  キャッチャー

9.増川 洋子  右/右  ライト


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