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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第一章 野球女子!
6/181

5th BASE

お読みいただきありがとうございます。


最近奴らが脅威を増してきましたね。

……そう、花粉症です!

目は痒いし、くしゃみは出るしで本当に辛いです(´;ω;`)

これがなければ春は良い季節なんだけどなあ……。

「よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします」

「……よ、よろしくお願いします」


 グラウンドに向かって一礼をする私たちを見て、祥ちゃんも慌てて合わせる。グラウンドではバッティング練習が続いていた。


「まだ監督来てないみたいだし、とりあえずキャプテンに挨拶しようか」

「分かりました」

「晴香、新入生連れてきたよ」 


 光毅さんが呼びかけると、ゲージの後ろで素振りをしていた一人の先輩が反応し、こちらへ走ってくる。この人が主将みたいだ。


「こんにちは。キャプテンの糸地(いとち)晴香(はるか)です。よろしく」


 鷹のように鋭利な目つきと、長く下ろした黒髪。加えて一回り大きな体から放たれるオーラが、如何にもチームリーダーとしての威厳を放っている。


「柳瀬ま、真裕です。よ、よろしくお願いします」


 気後れした私は、名乗る途中で噛んでしまう。


「陽田京子です……」

「きゃ、笠ヶ原祥です!」


 京子ちゃんも祥ちゃんも私と似た感情を抱いたようだ。祥ちゃんに至っては、身体が委縮しているのが目に見えて分かる。


「あはは。そんなに緊張しなくていいのに。晴香は見た目は怖いけど、話してみるとそんなことないんだから」

「あら、私今そんなに怖かったかしら?」 


 晴香さんは表情を変えず、淡々とした口調で尋ねる。その横で光毅さんは、物怖じしている私たちを和ませようとおどけてみせる。


「ほらね。本人は全然そんなつもりないんだよ。というかそうやって怖がられると、顔には出さないけど落ち込んじゃうみたいだから、あまり怖がらないであげて」

「わ、分かりました」


 少しだけ心臓の強張りが(ほど)ける。


「ということで晴香、京子と真裕は経験者らしいからこのまま守備に入ってもらって、初心者の祥は私とキャッチボールって感じにしようと思うんだけど、どうかな?」

「良いんじゃないかしら。経験者ならどんな動きをするのか見てみたいわ」


 晴香さんが私を見る。一瞬にして胸が締め上げられそうになった。やっぱり暫くは、晴香さんと対峙したら恐縮してしまうと思う。


「笠ヶ原さんのことは光毅に任せるわ。柳瀬さんと陽田さんの二人は、アップが終わったら適当に入ってきて」

「は、はい」


 私たちの返事を聞き、晴香さんは練習へと戻っていく。私と京子ちゃんは準備運動と肩慣らしのキャッチボールを手早く済ませると、それぞれ守備位置に就く。


「京子ちゃんはショート行く?」

「そうだね。真裕はどうするの?」

「外野かな。ピッチャーしない時はライトやってたし」


 私は外野のポジションを確認する。ライトとセンターは二人いたが、レフトは一人しか守っていないみたいだ。


「人数合わせるためにレフト行くよ」


 私は飛んでくる打球に気を付けつつ、レフトへと全力疾走。久しく出逢っていなかった快感に、私は喜びを噛みしめる。


「ちわっす!」

「ちわっ」

「柳瀬真裕です。よろしくお願いします」

桐生(きりゅう)優築(ゆづき)。二年生よ」


 優築さんは抑揚の無い話し方で自己紹介する。表情こそあまり動かないが、透明感のある声質をしており、晴香さんほど怖さは纏っていない。ベリーショートと呼べるくらいの髪が帽子で隠れ、顔だけ見れば男子と間違えてしまいそうだ。野球をやるならこれくらい短い方が良い気もするが、私にそこまでする勇気は無い。


「レフト!」


 鈍い打球音が鳴り、白球がこちらへと飛んでくる。詰まっているため伸びはなく、平凡なレフトフライだ。優築さんは前進して落下点に入り、難なくキャッチした。


「あれ?」


 そこで私はあることに気付く。優築さんのグラブの形が普通とは違うのだ。帰ってきた優築さんに、私は質問してみる。


「優築さんってキャッチャーなんですか?」

「そうよ。これ見て分かったの?」

「はい」


 優築さんが付けていたのはキャッチャーミットだった。親指と小指の部分が他のグラブよりも分厚く、形状もやや丸い。キャッチャーは一試合で百球以上のボールを受けるため、突き指を防ぎ、捕球しやすい造りになっている。


「こうやって他のポジション守る時も、キャッチャーミットを使ってるんですか?」

「大抵はね。一応外野で試合に出られるようにもしているけれど、ノックを受ける時以外はこれを使ってる。これが私のグローブだもの」


 優築さんはミットを見つめ、何度か閉じたり開いたりを繰り返す。ポケットの辺りが真っ黒に焼けており、相当使い込まれていると推測できる。しかし色がげているところはなく、艶も出ている。丹念に手入れされている証拠だろう。グローブは身体の一部だと言うが、この人はそれを自覚し、実践している。


「あの私、中学ではピッチャーやってました。ここでも続けるつもりです。だからバッテリー組んだ時はよろしくお願いします!」

「そう。ウチはピッチャーが不足してるし、ちょうど良いわ。楽しみにしてる」


 優築さんの口角が微かに上がる。


「はい、頑張ります」


 この人は野球に真摯に向き合っている。少し話しただけだけれど、その確信が持てる。こうした人と野球が出来て、しかもバッテリーを組めるなんて素直に嬉しい。私の心は、高揚が増すばかりだ。


「レフト行ったよ!」


 再びこちらに打球が飛んでくる。私は一直線に落下点に向かい、ボールを掴んだ。


「ナイキャッチ!」

「はい。ありがとうございます」


 私はボールを内野へと返し、定位置に戻る。


「中々良い動きしてるじゃない。経験者っていうのは本当みたいね」

「ありがとうございます」

「ラスト!」


 バッティングゲージから大きな声が上がる。次の一球を打つと、バッターは足元に転がったボールを集め始めた。


「これでバッティング練習は終わりね。片付けましょう」

「分かりました」


 優築さんと協力し、私は二塁ベース付近にあった防球ネットを片付ける。その最中、校舎の方から一人の男の人が歩いてきた。


「あ、監督が来た」

「あの人がですか?」

「ええ」


 部員たちは作業を止め、監督の方を向く。そして速やかに帽子を取り、晴香さんの後に続いて挨拶をする。


「ちわっす!」

「ちわっす!」

「おう、こんにちは」


 監督は悠然と立ち止まり、小さく会釈をする。私たちは片付けを再開。監督は一塁側のベンチに腰掛ける。


 今日の練習メニューは、これで終了となった。



See you next base……


PLAYERFILE.5:糸地晴香(いとちはるか)

学年:高校三年生

誕生日:1/28

投/打:右/右

守備位置:中堅手

身長/体重:165/57

好きな食べ物:白米、味噌汁


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