表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第六章 夏大に向けて
59/181

58th BASE

頭が痛くなる勉強の話はこれくらいにして(笑)、ここから新たな章に入ります。

今回はやや長くなると思います。

お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

 テスト明け初めての土曜日。今日は午前中練習の日だ。私たちがグラウンドで軽く体を動かしていると、集合時間の五分程前になったところで監督が姿を現す。


「おはようございます」 

「おう、おはよう」


 私たちは例の如く、帽子を取って挨拶をする。だが今日は少しだけ違うことがあった。監督の隣に、一人の見知らぬ男性がいたのだ。有名ブランドのロゴが入ったウェアに身を包み、左肩には小型のバッグを背負っている。


「お久しぶりです。いつもありがとうございます」

「いやいや。大会も大分近づいてるし、晴香ちゃんたちには調子を上げてもらわないといけないからね。喜んで協力させてもらうよ」

「おはようございます」

「おお風ちゃん。暫く見ない内にまた可愛くなった?」

「そ、そんなことないです……」

「へへっ。やっぱり風ちゃんの声聞くと元気出るわあ。どう? 今日の練習終わったら俺と一緒にお茶でも……いてっ! ちょっと隆さん、どうして蹴るんですか⁉」

「来て早々ナンパしてんじゃねえよ。うちの部員が穢れる」


 会話の内容はさておき、先輩たちは男性と親し気に接している。晴香さんは久しぶりと言っていたし、女子野球部にそれなりに馴染みのある人なのだろう。


「集合!」

「はい!」


 私たちは監督の元へ集まる。練習に入る前に、男性は私たち一年生に向けて自己紹介をしてくれた。


「どうも初めまして。藤原(ふじわら)(さとし)と言います。木場監督には大学の時に野球部でお世話になって、僕が二年後輩でした。今年からは地元の企業で働きながら、あまり強くないですが社会人野球に参加しています。ポジションはピッチャーです」


 如何にも数か月前まで学生だったという、若々しい話し声の藤原さん。何となくだが、雰囲気は監督と似ている気がする。背丈や筋肉の付き方も一緒くらいだ。


「敏には偶に練習の手伝いをしてもらってる。俺と違ってまだまだ現役だし、持っている知識や技術も豊富だ。一年生も遠慮せず、質問があったらどんどん聞いてほしい」

「はい」

「あ、もし変なことされそうになったら俺に言ってくれ。すぐにしばき倒してやるから」

「変なことなんてしないですよ。少し可愛い女子高生と戯れるだけですって……いて!」


 またもや監督が藤原さんを蹴り飛ばす。


「それが変なことなんだよ。全く、最近何かとそういう類で話題になってるんだから、まじで勘弁してくれや」


 監督は眉を顰める。私たちは揃って苦笑を浮かべた。


「じゃあまずはアップから入ろう。今日は敏に投げてもらって、実戦形式のバッティングもやるぞ」


 練習が開始される。私たちはアップを済ませ、いつもより個人の持ち球を減らしたフリーバッティングを行う。その後最初に監督が話したように、シートバッティングに移った。


「ワンナウトランナー一、二塁。内野ゲッツー、外野はバックホームね」


 キャッチャーの菜々花ちゃんから大きな声が飛ぶ。マウンド上にいるのはもちろん藤原さんだ。今日のシートバッティングでは三班に分かれ、一班がランナーとバッター、残りの二班が守備を務めるのをローテーションする。私は最初に打つ班となった。


「一巡目!」


 先頭の玲雄さんがバッターボックスに入る。予定としては一人三打席。一巡目はランナー一、二塁、二巡目は一、三塁、三巡目は満塁とケースが変わっていく。


「よろしくお願いします」


 初球、玲雄さんはストレートを見逃す。


「ボール」


 藤原さんは私たちに合わせて抑えて投げているようだが、球速自体はまずまず出ている。傍から見る限りでも、男子野球部の人たちとほとんど大差無い。


 二球目。玲雄さんは同じボールを打ち返す。若干振り遅れた打球がサードに飛ぶ。


「オーライ」


 杏玖さんがワンバウンドで掴み、二塁へ送球してアウトにする。一塁は間一髪セーフとなった。


「ナイサード。けどもうワンテンポ送球早くしよ。ゲッツー取れるよ」

「は、はい」


 打った玲雄さんはそのままランナーに入り、次の洋子さんに打順が回る。私は三番目なので、この後に打席が来ることになる。


「ストライク、バッターアウト」


 洋子さんはあっけなく三球三振に終わる。三球全て空振りで、タイミングが全然取れていなかった。


「ありがとうございました……」


 項垂れるように礼を言い、洋子さんは私にバットを預けて一塁へと走っていく。憔悴した面持ちで、疲れた目をしていた。

 先日の試合で死球を受けてから、洋子さんは打撃の調子を落としている。テスト週間が明けても改善の兆しは見られず、悩まし気にバットを振っているシーンも目に付く。ライトのレギュラーとしてずっと試合に出ている人なので、少々心配だ。


「よろしくお願いします」


 ともあれ私の番になった。ヘルメットを外して藤原さんに挨拶し、バットを構える。

 初球は真ん中付近のストレート。積極的にスイングを試みるも、私のバットは空を切る。


「おお……」


 物凄く速いストレート、というわけではない。ただボールのスピンが強く、打つ手前で伸びてくる。いわゆるキレのある質の良いストレートだ。そのため実際の速さに比べて、体感速度は雲泥の違いがある。

 これを打つのは至難の業。けれども攻略法が無いわけじゃない。こうした回転数の多い球は、バットの芯にコンタクトさえすれば自ずと飛距離が出る。無理に引っ張るでもなく、流すでもなく、ピッチャーの胸元に返すイメージで……。


 二球目。藤原さんは同様のコースに投げてくる。私は来る球に対して素直にバットを出す。


「キャッチ!」


 バットには当たったが、ホームベースよりも後方へフライが上がる。そのままバックネットに直撃した。


「ちょっとすみません」


 私は一度打席を外す。これでツーストライク。今のはボールの下を叩き、力に押される形となってしまった。今度はもう少し始動を早くしなければいけない。


 打席に入り直し、迎えた三球目。ここも球種はストレート。コースも二球目までとそんなに変わらない。私はさっきまでの反省を活かし、バットの芯にボールを当てた。


「うおっ!」


 打球は綺麗に藤原さんの股下を抜けていく。センター前ヒットだ。


「ナイバッチ!」


 私が一塁を回ったところで、周りから疎らに拍手が起こる。良いバッティングができた。私は思わず笑みを溢す。


 といっても、普通の試合ではあんな風に真ん中の直球を続けてはくれない。これは多分、さっきみたいな甘い球を一発で仕留めるための練習だ。


「ストライク、バッターアウト」


 二打席目以降は変化球を混ぜられ、私はあえなくきりきり舞いにさせられる。藤原さんはストレートだけでなく、スライダーやカーブも一級品であった。全国大会ではこうした好投手を打てなければ、勝ち上がることはできない。そのことを私は身をもって痛感させられた。試合に出られる可能性がある以上、少しでも食らいついていけるようになろう。



See you next base……


PLAYERFILE.23:藤原(ふじわら)(さとし)

学年:社会人一年目

誕生日:12/4

投/打:右/右

守備位置:投手

身長/体重:178/86

好きな食べ物:パクチー、フォー


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=825156320&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ