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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第五章 学生の本分は……?
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57th BASE

お読みいただきありがとうございます。


こうやって小説を書いていると、自分が当たり前のように使っているある言葉が、実は方言だったことに気づかされることがあります。

今回も「電信棒」が方言だと初めて知りました(笑)。

大抵の方言は意識的に取り入れていますが、もしかしたら無意識の内に使っているものもあるかもしれません。

 暫くキャッチボールを続けていると、仕事を終えたお母さんが帰ってきた。


「あら、今日はどうしたの?」

「あ、お母さん。おかえり」

「おじゃましてます」


 私の後に続き、紗愛蘭ちゃんたちが挨拶する。お母さんは左肩に水色のバッグをかけ、右手には今日の夕飯が入っているであろう買い物袋を持っている。


「皆で勉強してたんだよ。お兄ちゃんに見てもらいながら」

「なるほど。でも今は勉強やってるようには見えないけど」

「いや、これはちょっと息抜きで……」


 お母さんからの鋭い指摘に、私たち四人は目を泳がせる。


「大丈夫だよ母さん。勉強してたのは本当だから。俺ずっと付いてたし」

「ふーん。飛翔が言うなら信じてあげよう。そうだ、どうせなら皆晩ご飯食べてく?」

「え? もうそんな時間ですか?」


 紗愛蘭ちゃんが焦った様相でスマホを確認する。お母さんが帰宅したということは、概ね時刻は七時を超えるか超えないかといったところだ。夕焼けのオレンジ色もほとんど消え、辺りは薄暮の模様を呈している。気がつくと家の前にひっそりと立っている街灯にも、灯が点いていた。


「ごめんなさい、あまり遅くなるわけにはいかないので……」

「嬉しいお誘いですけど、私もすみません」


 紗愛蘭ちゃんと祥ちゃんが順に断る。


「それは残念。またの機会にね。京子はどうする?」

「遠慮しときます。こ……勉強しないといけないですし」

「えー、ほんとに勉強するの?」

「し、しますよ!」


 京子ちゃんは口を尖らせる。だが本音は攻略や勉強のためというより、お母さんからの攻撃を回避したいのかもしれない。このまま誘いに乗ってしまえば、確実に京子ちゃんは食卓で集中砲火を食らうことになるだろう。


「飛翔、皆を車で送ってあげて。女子高生を一人で帰らせるのは危ないから」

「了解」


 お兄ちゃんがお母さんから買い物袋を受け取り、一旦家の中に入る。私たちもキャッチボールを切り上げ、足早に帰り支度を整えた。


 お兄ちゃんの車は五人乗り。後ろの席にはたくさんの参考書類が積まれていたが、それをトランクに移動してスペースを開けた。そこに京子ちゃんたち三人が腰掛け、私は助手席に座った。


「ありがとうございました」

「ばいばい。また明日ね」


 祥ちゃんが家へと入っていくのを確認し、お兄ちゃんは車を再発進させる。紗愛蘭ちゃん、祥ちゃんを送り届け、あとは京子ちゃんを残すのみだ。


「最後は京子か。お前ん家行くの久しぶりだわ」

「え? そうだっけ?」

「少なくとも大学入ってからは初めて」


 お兄ちゃんが京子ちゃんと取り留めのない会話を交わす。私は窓の外を見つめながら、そのやりとりをぼんやりと聞き流していた。


 目に映る街並みは馴染み深いとまではいかないものの、間違いなく一度は見たことのある光景だ。誰もが知っているような飲食店が連なり、所々で洋服屋やコンビニなどが顔を出す。平日ではあるが、どこもそれなりにお客さんが入っている。私の家の近くはどちらかというと閑散としている方なので、見ていて僅かながら新鮮な気分になる。


「お前もちゃんと勉強しろよ。ゲームばっかりやってないでさ」

「分かってるって。ウチだって赤点は取りなくないもん」


 いつの間にか、京子ちゃんとお兄ちゃんの話す内容が変わっている。京子ちゃん、色んな人からテストの心配をされて大変だ。


「そういうことじゃねえよ。日頃からやる癖付けておけよって話」


 私の耳がぴくりと反応する。お兄ちゃんは、私の思っていたこととは違うことを言おうとしていた。


「勉強すんのが嫌なのは分かる。俺もそうだった。けどさ、ちょっとで良いから我慢してやっておくと、いざという時に役に立つんだよ。ゲームの知識とかそんなのじゃなくて、もっと大きなことにな」

「い、言われなくても、勉強が大事なことなんて分かってるよ」

「嘘つけ。ほんとは分かってねえだろ。ていうか、お前らみたいな高校生に分かるはずないんだよ。勉強の大切さなんて」


 一見皮肉っぽく聞こえるが、お兄ちゃんの話し方には私たちへの真心が籠められていた。しかし、どこか後ろめたく、声の隙間には憐憫が隠れているようにも感じられる。


「今は分かんなくても良い。こういうものは離れてから分かるもんだ。だけど……、いや、だからこそしっかりと勉強しとけよ」

「はーい」


 京子ちゃんが暗い声色で返事をする。何だかまるで、お兄ちゃんが先生で京子ちゃんが生徒みたいだ。


「真裕、お前もな」

「え? あ、うん。……分かった」


 唐突に話を振られ、慌てて私は首を小刻みに縦に動かす。そこでちょうど、車が赤信号に引っかかる。


「えっと、ここって左折だっけ?」

「違うよ。もう一個次の信号」

「そうだったか。さんきゅ」


 お兄ちゃんが何を伝えたかったのか、私にはいまいち理解できなかった。でも今の時点では仕方無いのだと思う。


 結局高校生である以上、私たちは勉強せざるを得ない。野球ばかりやっているわけにもいかない。お兄ちゃんの言葉通り、いつかそれが自分のためになる時が、意味を持つ時がきっと来る。私たちはそう信じて取り組むしかないのだろう。何となくではあるが、お兄ちゃんと監督が言っていることは、どこかで通じているような気がした。


 信号が青に変わる。私たちを乗せた車は、徐々に暗くなっていく道のりを走り出した。


 テストが終了した。その翌日の授業からは、次々と答案が返却されていく。


「お、数学八〇点あった。イエーイ」

「六四点かあ。もうちょっと欲しかったな」

「三八点! 赤点じゃない!」


 勉強会を機に気持ちを入れて取り組んだ私は、全科目で七〇点超を記録。一年生の最初のテストということを差し引いても、個人的に十分満足できる結果となった。

 京子ちゃんも苦手としている数学を乗り切り、赤点は無かった。お兄ちゃんの言葉に刺激を受け、それが良い方向に作用したのかもしれない。テストを受ける前、中学時代よりも相当勉強したって自分で言っていたし。


 野球部全体に目を移すと、紗愛蘭ちゃんは学年総合で五番以内に入ったそうだ。部内でも大きな話題となり、その時の紗愛蘭ちゃんの真っ赤な顔といったら可愛くて堪らなかった。

 また、奇跡的?に赤点を取った人は一人もいなかった。一番危険視されていた光毅さんも、風さんがテスト期間中につきっきりで指導し、何とか点数を確保できたらしい。一ヵ月後には二期考査があるが、これでひとまず勉強に関しては一安心だと言える。私たちはこうして、普段通りの野球部の日常へと戻っていった。



See you next base……


一期考査総合順位(一年生)


全279人中

真裕  43位

京子  229位

祥   115位

紗愛蘭 本人の申し出により非公表(5位以内)

丈   27位

勇輝  107位

碧来  138位


男子野球部「椎葉頭良くない⁉」

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