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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第四章 ルーキーズ!
51/181

50th BASE

お読みいただきありがとうございます。


50話に到達しました!

まだまだ課題も多いですが、日々楽しく書かせてもらっております。

今後とも応援よろしくお願いいたします!

《七回の裏、亀ヶ崎高校の攻撃は、三番センター、糸地さん》


「よろしくお願いします」 


 晴香がバッターボックスに入る。ここまで一打席目も二打席目も良い当たりを放っているが、野手の正面を突きヒットには繋がっていない。打者心理としては非常にやきもきした状態が続いている。


 一球目、ストレートが高めに外れる。マウンドの黒川は未だ制球に苦しんでいるようだ。


(今みたいな投球を見せられると、どうしてもじっくりボールを見極めてフォアボールを期待したくなるわね。今日の私にはツキが無いことを考えると尚更だわ。けれどさっき風は、待球をして失敗した。ここは(おじ)けず、良い球は打ちにいく)


 晴香はバットのグリップを絞る。二球目、甘いコースにストレートが来た。晴香はそれを逃さずに捉える。


「ショート!」


 二度あることは三度ある。またもや野手の正面に飛んだ。ショートの香坂は一歩も動くことなく捕球体勢に入る。しかし前までとは違い、打球は突如勢いを増す。


「うおっ⁉」


 香坂は慌てて腕を伸ばして飛び跳ねる。ボールはグラブの先を掠めながらもその上を通過し、レフトの前に落ちた。


「おお! ナイバッチ!」


 晴香は一塁をややオーバーランしてストップ。迷いを絶ち、バットを振り切ったことが打球に最後の一伸びを齎した。不運な流れを、晴香は己のスイングで吹き飛ばしたのだ。


《四番レフト、宮河さん》


 反撃の体勢が整い、四番の玲雄を迎える。隆浯はゆっくりと腰を上げた。


(再びノーアウトランナー一塁。……どうする?)


 この試合を通して、隆浯の采配はあまり上手くいっていない。ここは挽回のチャンスである。


(表の攻撃で点が入った。試合は生き物。動き始めれば続く可能性が高い。鉄は熱いうちに打て……だな)


 隆浯がサインを送り、玲雄と晴香の二人はそれを受け取る。


 初球。黒川の足が上がる。それに合わせて晴香は二塁に向かってスタートした。


「走ったよ!」


 投球は内角低めへ。ボール気味だが、玲雄は打ちに出る。隆浯が選択した作戦はヒットエンドランだ。


「行け!」


 隆浯が小声で叫ぶ中、玲雄が弾き返した打球は一二塁間へ転がっていく。抜ければビッグチャンスになる。


「させるか!」


 だがセカンドの万里香がダイビングしてボールを捕った。彼女は膝立ちの姿勢から一塁へ送球し、アウトにする。


「惜っしい……」


 亀ヶ崎ベンチから残念がる声が聞こえてくる。隆浯も思わず口をきつく結んで背中を反らした。悪い案では無かったが作戦成功とまでは行かず。それでも、同点のランナーは二塁に進めた。


《五番ファースト、紅峰さん》


 続くバッターは五番の珠音。右打席に入り、スクエアスタンスでバットをゆったりと立てて構えを作る。いわゆる神主打法と呼ばれるフォームだ。


 一球目、黒川は内角のストレートを投げる。珠音の腰が微妙に動いたが、スイングせずに見送る。球審はストライクをコールした。


(真っ直ぐはそこそこ力ありそうだな。けど打てない球でもないかな。次は打とう)


 二球目もストレート。一球目とは反対のコースに来たが、珠音は構わず振っていく。鞭のように(しな)らせたバットにボールを乗せ、右方向へと鮮やかに飛ばす。


「ライト」


 打球があっという間に外野へ抜けていく。絵に描いたみたいに華麗な流し打ちだ。球足が速かったため、二塁ランナーの晴香は三塁で止まる。


「ナイバッチ!」

「うーん……。まあこんなもんか」


 ヒットを打ったものの、珠音はあっけらかんとしている。ベンチからの声にも対しても素っ気無い。ともあれ、これでワンナウトランナー一、三塁。珠音まで生還すれば亀ヶ崎のサヨナラ勝利となる。楽師館は一度タイムを取り、マウンド上に輪を作る。


《六番サード、外羽さん》


 楽師館の打ち合わせが終わり試合再開。杏玖は頬を小さく膨らませて息を吐き、気持ちを整えてバッターボックスに向かう。


(よし、ランナー還すぞ)


 楽師館の内野は前進守備を敷く。ホームで三塁ランナーを刺そうという考えのようだ。


 初球、楽師館バッテリーは大きくピッチアウトする。ここは単に打つだけでなく、スクイズなどのあらゆる戦法が使える場面。守備側も当然警戒を強めている。


 二球目。黒川はカットボールでストライクを取りにくる。その間に一塁ランナーの珠音が二塁へ盗塁。セカンドもショートも前に来ているためベースカバーには入らず、キャッチャーも送球の振りを見せるだけ。これでワンナウトランナー二、三塁、カウントはワンボールワンストライクと変わる。


(スクイズをやるならここか。ここで怖がってたら、本番でも躊躇っちまう。行くぞ! 決めてこい!)


 強くなっていく心音に飲み込まれてしまわぬよう、隆浯は険しい顔つきを装う。そうして、この試合で一番の肝となるであろうサインを出す。


(うわ、スクイズかあ。怖……)


 杏玖は唾を呑み込む。忽ち彼女の表情が硬くなった。


 マウンド上の黒川がセットポジションに就く。一塁と三塁のランナーを交互に一回ずつ見てから、投球モーションに移った。


「ゴー!」


 ランナーコーチの掛け声と共に、晴香と珠音が一斉に走り出す。杏玖もバントの構えに入る。しかしボールが黒川の手を放れようかというところで、東城が立ち上がり、左バッターボックスの方に寄る。


 投球は打者の立ち位置からは遥か遠くへ。スクイズを読まれていたのだ。杏玖は腕を伸ばして飛びつく。胸から地面に落ちながらも、辛うじてボールをバットの表面に触れさせた。


「ファール、ファール」


 ボールはバックネットに当たる。杏玖はうつ伏せで倒れたまま大きく息をつく。


「はあ……」


 ひとまず万事休すの展開は乗り越えた。けれども今の一球で追い込まれてしまい、スクイズのサインも出しにくくなる。


(よく当ててくれた。……あとは任せる)


 隆浯は手を叩いて杏玖を鼓舞し、ベンチに腰を下ろして静かに切歯扼腕(せっしやくわん)する。今日は悉く采配が噛み合わず、監督としての課題が多く残った。


(スクイズはもう無い。打って還すしかないってことか。この投手に代わってからの配球を考えると、きっと余分な球は投げてこない。直球傾倒ばっかりだし、当てることは難しくない)


 杏玖はバットを構え直す。四球目、速い球が真ん中付近に来た。


(打てる!)


 しめたという思いで杏玖はスイングする。だがボールは鋭く横に滑り出し、外へと逃げていく。杏玖のバットは空を切った。


「ストライク、バッターアウト」

「あ、ああ……」


 フォロースルーをとったまま、杏玖はあんぐりと口を開ける。スライダーだった。黒川のもう一つの決め球であり、この試合で初めて見せたボールだ。杏玖は見事に引っかかってしまった。


 これでツーアウト。そして打席が回ってきたのは、洋子に代わり七番の打順に入っていた紗愛蘭である。真裕の予言は的中した。


(嘘でしょ。本当に回ってきちゃった……)



See you next base……


WORDFILE.21:ウエストピッチとピッチアウト


 バッテリーは戦術のためにわざとボール球を投げることがある。その中でも、投手が有利なカウントで敢えてボール球を投げることをウエストピッチ、ヒットエンドランやスクイズを防ぐためにバットの届かないところに投げることをピッチアウトという。

 ウエストピッチの語源はwaste(無駄)で、日本語では遊び球、見せ球などと訳される。もちろん本当に意味なく投げるのではなく、打者を打ち取るための布石として効果的に使わなければならない。


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