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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第四章 ルーキーズ!
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49th BASE

お読みいただきありがとうございます。


今年も甲子園が開幕!

記念の100回大会ということで、例年よりも多くの高校が参加しています。

その分ドラマも増えると思います。

熱い熱い大会になることに期待しましょう!

《一番セカンド、円川さん》 


 互いに一度長い呼吸を行い、二人のルーキーが対峙する。真裕と万里香の四度目の対決は、試合の勝敗を決定づける局面で巡ってきた。


(ここで打ったらヒーローになれる。風さん、見ててくださいよ)

(さっきはヒットを打たれたけど、良い当たりはされてない。自信を持っていこう)


 打席の万里香が構えに入る。気持ちを作り込んでいるのか、その一連の動作は過去三打席よりも少しゆったりしているように見える。


 一球目。外角へのストレートがストライクとなる。優築のキャッチャーミットからは、力の籠った音が鳴った。 


(良い球。ここでギアを上げられるところは流石ね。一番の子はここまであまりタイミングが取れていない。満塁だし、早めに追い込みましょう)

(柳瀬さん、まだまだ力残ってるみたいだ。そう来なくちゃ。ふふっ)


 万里香の心臓に刺激的な感覚が走る。彼女はにわかに口角を上げる。

 二球目、真裕はカーブでタイミングを外しにいく。万里香はフルスイングで応戦する。


「ストライク」


 空振り。バッテリーは思惑通り、二球で追い込むことができた。


(気持ち良いくらいに振ってくるなあ。あれだけのスイングができるのは羨ましいよ)


 真裕は胸の辺りに汗が溜まっていくのを感じていた。優築からの返球を受け取ると、渇いた唇を潤すように舌先で舐める。


 三球目もカーブを投げたが、これはストライクゾーンには決まらず見送られる。


(二球続けてカーブか。さっきも似たような配球だったな。ということは次は速い球で決めにくるのかな?)

(……なんてことを思ってるでしょうし、ここはその裏を突く。真裕、もう一球カーブをお願い)

(はい!)


 真裕の足が上がる。四球目、バッテリーは三球連続のカーブで勝負に出る。


(え、そっち⁉)


 頭に無かった球種に体が固まり、万里香はバットを振ることができない。ボールが優築のミットに収まるのを見届けるしかなかった。


(決まった!)


 投げ終わった真裕の体が、ベンチの方に動きかける。


「ボール」

「え⁉」


 真裕と優築が揃って肩を落とす仕草を見せる。二人はストライクだと確信していたが、球審の手は上がらなかった。


(あっぶな。完全に終わったと思ったわ)


 思わず安堵の表情を表に出す万里香。何はともあれ、彼女としてはツーボールツーストライクの並行カウントまで持ち直した。


(見逃し方からして攻め方は間違っていなかった。そう思うと残念だけれど、引きずっては駄目。まだ球威は衰えていない。これを活かして直球で押し込む)

(ストレートですか。今日は良い感触で投げられてるし、優築さんもそれを信じてくれたのかな。だったらそれに応えなくちゃ) 


 サインに頷きながら、真裕は親指で人差指と中指を交互に擦り合わせる。指先の固くなった部分と、ボールの縫い目との抜群の引っかかり具合が、威力あるストレートを生み出している。今日の真裕はその感覚を確かに掴んでいた。


 優築の構えは内角高め。真裕はひりつくような緊張を解き放つかの如く、ミット目掛けて全力で腕を振った。


(打てるものなら、打ってみろ!)


 白球が万里香の胸元を抉る。万里香は腕を畳んでスイングしたが、ボールはバットの根っこに当たる。


「いって……」


 詰まった打球が三遊間に転がる。サードの杏玖がクラブを伸ばすも追いつけず、その後ろで風が逆シングルでボールを捕った。


(ファースト間に合う……あっ)


 送球のために踏ん張ろうとした右足が若干滑る。それでも風は上体を逸らし、背筋を使って一塁へ投げる。ハーフバウンドとなったが、珠音は上手く掬い上げた。万里香も手の痺れを堪えて全力疾走しており、際どいタイミングとなる。


「セ、セーフ」


 一塁塁審が両手を広げる。内野安打だ。


「バックホーム!」


 と思ったのも束の間、優築が大きな声でボールを呼ぶ。二塁ランナーも本塁に突っ込んできていた。珠音は急いでホームに投げる。送球を受け取った優築は、振り向き様に滑り込んできたランナーの爪先にタッチする。


「アウト、チェンジ」


 ここは冷静に対処し封殺する。しかし、楽師館に待望の先制点が入った。


「くう……、打ち取ってたのに」


 鼻根(びこん)の辺りに皺を作り、渋い顔をして真裕がベンチに引き揚げていく。最終回まで投げ切って申し分ない投球内容だったが、最後の最後で点を与えてしまった。


「ドンマイ。ナイスピッチだったよ」


 紗愛蘭が真裕の肩を叩いて労う。


「でも最後に点取られちゃったし、やっぱり悔しい」

「ご、ごめんね真裕ちゃん。打ち取ってたのにアウトにしてあげられなくて」


 二人の後ろから、風が両手を合わせて真裕に謝りにくる。風の中ではアウトにできる自信があった。だが投げるまでの動きがワンテンポ遅れ、そのせいで一塁はセーフとなった。


「そんなに謝らないでください。風さんのせいじゃないですよ。寧ろ今日は一杯助けてもらいましたし。それより、次の攻撃に向かいましょう」

「そ、そうだね」

「二人出れば紗愛蘭ちゃんです。それに期待しましょう。ね!」


 真裕がお茶目に笑って紗愛蘭の顔を見る。


「ええ、私? そ、その前に先輩たちがサヨナラにしてくれるよ」

「いやいや。何か知らないけど、私は紗愛蘭ちゃんに回ってくると思う。頼んだよ」


 果たして真裕の言ったことは現実となるのだろうか。亀ヶ崎の最終回の攻撃は、三番の晴香からだ。




See you next base……


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