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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第四章 ルーキーズ!
48/181

47th BASE

今日から高校女子野球の夏の選手権大会が始まりました!

男子に負けじと、今年も熱い戦いが繰り広げられそうです。

準々決勝からはインターネット配信もあるそうなので、ぜひ見てみてください!

《三番サード、三波さん》


 ランナーを得点圏に置いた状態で迎える楽師館のクリーンナップ。優築はより注意深く配球を考える。


(ここまでの二打席は打ち取れてる。でも楽師館の三番を打っているわけだし、三巡目ともなれば細かく分析してくるはず。さあ、駆け引きを始めましょうか)


 三波への初球、バッテリーは外角へのカーブから入る。しかしあっさりと見送られる。


「ボール」


 二球目もカーブを選択する。こちらはストライクゾーンへと投じた。三波は一球目と同様に手を出さない。


(どうやら速い球に標準を合わせているみたい。けれど二球連続で遅い球を見せられた。それが活きてくれれば)


 優築が次の球のサインを出す。真裕は惑うことなく首を縦に振る。


(ツーシームか。向こうもある程度張ってきてるだろうし、少しでもタイミングをずらしたい)


 真裕がセットポジションに就く。ランナーの万里香の動きを一瞥した後、彼女はクイックモーションで三球目を投げた。コースはやや内寄りの真ん中低め。三波はそれを待っていたかのように打ち返す。


 三波の打球は真裕の右の足元を抜けていく。だがバットの先端部分に当たっていたためそこまで勢いが無く、予めベース寄りに守っていた風が危なげなくボールを捕る。二塁ランナーの万里香が三塁へと進んだものの、一塁はアウトにした。


「ナイショート。ツーアウト」

(よし。上手く引っ掛けさせられて良かった。ツーアウトまで来たし、ここで気を緩めないようにしないと)


 真裕はロジンバックを叩き、もう一回気持ちを作り直す。それを無言で注視しながら、綾瀬がバッターボックスに向かう。


《四番センター、綾瀬さん》


 綾瀬は前の打席、バッテリーがストレートで押し込もうとしたところをヒットにしている。ここもそれを狙っていると読んだ優築は、一球目、外角へのツーシームで攻める。


「ファール」


 打ちに出た綾瀬だが、打球は一塁側の防球ネットの方に切れていく。


 二球目。真裕は内角高めのボールゾーンへ投げ込み、綾瀬の体を起こしにかかる。続く三球目はツーシームが低めに外れる。


(あ、バッティングカウントにしちゃった)

(案ずることはない。大事なのはここから。次はこの球で行きましょう)

(分かりました)


 四球目、優築が真裕に投げさせたのはカーブだった。内角から真ん中に入り甘くなったところを綾瀬が捉える。


 レフト方向へ大きな弧を描いた打球が飛ぶ。しかしフェアゾーンからは程遠く、ファールとなる。


(おお、危ない危ない)


 打たれた瞬間、真裕は肝を冷やした。けれども前の速い球三つが効いていたようで、綾瀬は微妙にタイミングをずらされていた。


「はあ……」

「ふう……」


 息詰まる攻防に真裕と綾瀬の両者が息を吐く。知らぬ間にグラウンド全体にも、張り詰めた空気が蔓延している。


(……凄い。真裕ちゃん、四番の人が相手でも全く怯んでない。それに比べて私は……)


 ライトから真裕の姿を見守りながら、紗愛蘭はもどかしそうに唇を噛む。


(私があの打球を捕れていれば、この回はもう終わってた。真裕ちゃんがピンチを迎えることもなかったはずなのに……)


 五球目。綾瀬が外角のストレートをカットする。紗愛蘭は少しでも力を与えられればと、真裕に声援を送る。


「頑張れ、真裕ちゃん!」


 しかし続く六球目、更に七球目でも勝負を決められず。どちらもファールにされ、依然としてツーボールツーストライクのカウントは変わらない。


(くっそー、もう一押しなのに……)


 焦れったさに、真裕は表情を仄かに歪ませる。すると彼女の投球にも乱れが生じた。


「おっと……」


 ストレートを叩きつけてしまう。ベース手前でのワンバウンドとなり、優築が体に当ててボールを止める。


「ナイキャッチ。ピッチ大丈夫だよ、気にせずに」

「まだ打たれてないよ。攻めていこう」


 苦心の真裕をバックが盛り立てる。ただ今の一球でフルカウント。優築はフォアボールも覚悟する。


(向こうもタイミングが合ってきてる。ここはもう歩かせても止む無しか。ボールになっても良い、カーブを振らせにいきましょう)

(カーブ……。四球になったら嫌だな……)


 真裕は首を横に振り、優築のサインを嫌う。


(そう。ならツーシームでどうかしら?)

(……分かりました)


 真裕が投球モーションに入る。これで九球目だ。


「あっ……」


 真裕はリリースの寸前、指先を滑らせてしまった。外角高めの抜け球となり、変化も小さい。綾瀬は逆らわないバッティングで右方向へと弾き返す。


「ラ、ライト!」


 芯を食った低い飛球がライトの前へ。紗愛蘭は前に出るが、ダイレクトで捕るのは厳しそうだ。


(追いつけない。だけどもしかしたら……)


 ボールが地面に弾む。三塁ランナーの万里香は悠々ホームイン。だが紗愛蘭はワンバウンドで捕ると、すぐさま送球動作を起こす。


(私のせいでこうなった。それなら、私が落とし前を付けないと!)

「ファースト!」

「え?」


 なんと紗愛蘭は一塁へと投げた。左手に付けた黄色いグラブが、送球の反動で彼女の後頭部に舞い上がる。地を這うようなレーザービームが、珠音の元に向かって一直線に突き進む。


「嘘でしょ⁉」


 綾瀬は懸命に一塁へと駆け込む。珠音もしっかりとボールを受け取った。果たして……。


「アウト!」


 間一髪で送球が勝った。記録はライトゴロ。スリーアウトとなり、三塁ランナーの得点もカウントされない。


「うおお! 紗愛蘭ちゃん!」


 真裕は思わず右拳を突き上げてガッツポーズする。他の選手からは嘆美の声が上がった。紗愛蘭自身も驚いており、時が止まったかのように呆然とその場に立ち尽くす。


「や、やった……」

「ナイスプレー。素晴らしい送球だったわ」

「あ、はい。ありがとうございます」


 晴香に背中を叩かれて我に返り、紗愛蘭は慌てて走り出す。そんな彼女をベンチは総出で迎えて称える。中でも真裕は喜びのあまり、紗愛蘭に思い切り抱きついた。


「最高! 完全にヒットだと思った!」

「ちょ、ちょっと真裕ちゃん、流石に恥ずかしいよ……」


 紗愛蘭は頬を真っ赤に染める。ただすぐに嬉しさが込み上げ、笑顔が弾けた。


(これだ。私が求めていたものは。やっぱり楽しい。ありがとう、あっちゃん)


 綾瀬が気を抜いて走っていたわけではない。紗愛蘭の咄嗟の判断力と強肩が生み出した(まが)う方無きファインプレーである。そしてこのプレーが、紗愛蘭を本当の意味で亀ヶ崎の一員としたのだった。


See you next base……


WORDFILE.19:レーザービーム


 強肩の外野手の送球をレーザービームと表現することがある。レーザーの放つ光の如く、一定の高さを保ったまま一直線に進むボールに対して使われることが多い。ある日のメジャーリーグの試合で、ライトを守っていた当時マリナーズのイチロー選手が鋭い送球でランナーをアウトにした際、実況のアナウンサーが「レーザービームだ!」と叫んだことに由来する。

 これができる選手は、とりあえずそれだけでかっこいい(※個人の見解です)。


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