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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第四章 ルーキーズ!
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44th BASE

各地で夏の甲子園予選が始まりました!

私の母校は既に一回戦敗退……。残念な結果となってしまいました。

それでも二年半やり続けた三年生の皆さんには、本当にお疲れ様と言いたいと思います。

《一回の裏、亀ヶ崎高校の攻撃は、一番ショート、城下さん》


 一回裏の亀ヶ崎の攻撃が始まった。楽師館の先発ピッチャーは二年生サウスポーの苑田(そのだ)。エースではないものの、それに劣らぬ実力の持ち主である。右打席に入った一番の風は、脳内で注意点を復唱しながらバットを構える。


(投球練習を見る限り、スリークォーターから投げるクロスファイヤーが武器みたい。差し込まれないように気を付けつつ、打てそうな球は一発で仕留めないと)


 ノーワインドアップから、苑田が一球目を投じる。外角へのストレート。風はボールと判断して見送る。


「ストライク」

「え?」


 しかし球審はストライクを取った。手元から離れた瞬間は外れているように見えるが、斜めに傾いた軌道でボールが進んでいくため、最終的にはベースの上を通り過ぎている。打者とすれば非常に厄介な球だ。


(あそこストライクなのか。バンバン決めてこられたら厳しいな)


 二球目もほぼ同じコースだったが、微妙にずれてボールとなる。次の三球目、苑田は真ん中付近に半速球を投げてくる。


(甘い。だけど……)


 風はスイングしかけて止める。ボールは変化してインコースに移動。スライダーだ。


「ストライクツー」

(追い込まれた。でも今くらいのボールなら十分追える。塁に出るのも大事だけど、一番バッターとしてはできるだけ球数を投げさせておきたい) 


 四球目。楽師館バッテリーは再び外角を攻めてきた。打ち辛いコースだが、一球目よりもやや内に入ってきている。風はカットしようとバットを出す。


(ん?)


 だがまたもやボールは変化。今度は沈みながら外へと逃げていく。風は上体を前に出され、片手で打たされる形となる。


「セカン」


 小さな飛球が打ち上がり、セカンドの万里香がほぼ定位置で捕球する。粘りたい風だったが、結果的に四球で凡退してしまった。ベンチへと帰っていく風に、ネクストバッターズサークルに入ろうとしていた三番の晴香が質問する。


「今の球は?」

「多分シンカー。スライダーは見極めやすいけど、こっちは変化するのが遅いから対応しにくいかも」

「なるほど」

「無理に引っ張るよりも、おっつけて右に流すのがおそらく効果的」

「そうみたいね。ありがとう」


 苑田が投げていたのはシンカー。左投手が投げる場合はスクリューとも呼ばれる。これが彼女の決め球と捉えて良いだろう。


《二番セカンド、戸鞠さん》


 続いて打席には二番の光毅が立つ。今日は男子野球部との試合の時と一、二番の打順が入れ替わっている。


(久しぶりに左と対戦するな。でも右よりも好きだし、ヒット打って走りまくるぞ)


 そう息巻く光毅は、積極的に初球のストレートを打った。けれどもボールはバットの下に当たり、転々と三遊間に転がる。


「オーライ」


 サードの三波が軽快に打球を処理し、一塁は悠々アウトとなる。監督の隆浯はこれを無表情で見つめていたが、心の中ではその内容に歯がゆさを感じていた。


(うーん……。光毅は打ち出すと止まらないけど、駄目な時はこうやってあっさりと終わっちゃうんだよな。とはいえ初球から打ちにいくなとは言えんし、どうにか良い落としどころはないものか)


 選手個人の長所と短所は表裏一体。光毅の場合はそれが顕著に見られる。こうした選手の起用方法は、オーダーを考える上で実に悩ましい点だ。


《三番センター、糸地さん》


 ツーアウトとなり、晴香の第一打席目を迎える。


(五球でアウト二つか。私まですんなりと終わって、相手投手を調子付かせることはしたくないわね)


 前の二人の結果を踏まえ、苑田のリズムに乗せられないよう、晴香は態とゆったり構えに入る。そんな彼女に対し、楽師館のキャッチャー、東城(とうじょう)は警戒を強める。


(糸地は亀ヶ崎で一番気を付けないといけないバッター。選手権のことも考えて、この試合で向こうにちょっとでも嫌なイメージを持たせておきたい)


 その初球、内角低めのスライダーで体勢を揺さぶる。咄嗟に足を払う晴香だったが、腰は退かず、打つ姿勢を保ったままで見逃す。


(風の言っていた通りね。スライダーは張っていなくても全然追えそう)

(簡単には崩れないか。でも執拗(しつよう)に行かせてもらうよ)


 二球目、バッテリーは直球でもう一度インコースを攻めてくる。角度の付いたクロスファイヤーが、晴香の右の脇腹の前を通過する。


(しつこく内側を抉ってきてるわね。先のことを考えてのことかしら。だとすればここでむきになっては相手の思う壺。冷静に打てる球を待とう。左投手がインコースに投げ続けるのは精神的にかなり苦しいはずだし、どこかできっと外に来る)


 三球目。晴香の読み通り、ストレートが外角の打ちやすいコースに来た。晴香はしっかりとバットを振り切って打ち返す。


「おお!」


 快音を残し、鋭いライナーが飛ぶ。女子野球ベンチからは歓声が上がった。しかし……。


「アウト。チェンジ」 


 コースが悪く、ファーストの真正面だった。守っていた小和泉(こいずみ)が仰け反りながらもがっちりとボールを掴み、スリーアウトとなる。良い当たりではあった。ただ東條は予め予想できていたかのように動じていなかった。


(そりゃそのコースを狙ってくるよね。しかもしっかり打ってくるところは流石だわ。でも野球のポジションっていうのは、真芯で捉えた打球をアウトするために考えられてる。だから狙いが合いすぎるとこうなることも多いんだよね。これでひとまず一打席目は抑えたし、こういうアウトって、打者としては結構嫌でしょ)

「ナイピッチ。ナイファースト」


 一回裏、亀ヶ崎の攻撃も三者凡退で終了。楽師館ナインが全力疾走でベンチへと引き揚げていく。それと入れ替わり、真裕がマウンドに登る。


(相手投手の調子良さそうだし、そう簡単には点が入らないかも。それなら私もゼロに抑えて付いていかなくちゃ)


 二イニング目は、四番の綾瀬(あやせ)との対戦からだ。


See you next base……


PLAYERFILE.22:円川(まるかわ)万里香(まりか)

学年:高校一年生

誕生日:7/16

投/打:右/右

守備位置:二塁手

身長/体重:157/54

好きな食べ物:カキフライ


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