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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第四章 ルーキーズ!
44/181

43th BASE

今日はW杯決勝戦ですね。

個人的にはクロアチアに勝ってほしいです。

初の決勝進出ということで、歴史の扉をこじ開けたというところにどうしても惹かれてしまいます。

今から楽しみです!

 両チームが準備を整え、定刻を迎える。亀ヶ崎と楽師館、それぞれの選手たちがホームベースを介して向かい合う。


「ただいまより、楽師館高校と亀ヶ崎高校の試合を始めます。礼!」

「お願いします!」


挨拶を済ませ、後攻めの亀ヶ崎ナインが守備に散っていく。マウンドに立つのはもちろん、先発投手に指名された真裕だ。


(このマウンド、全然でこぼこが無い。土の質も関係してるんだろうけど、日々の手入れがしっかりされてる証拠だよね)


 投球練習をしながら、真裕は足元の感触の良さに驚く。踏み込む際に土がスパイクの歯に馴染み、非常に力を入れやすい。


《守ります、亀ヶ崎高校のピッチャーは、柳瀬さん。キャッチャー、桐生さん》

「おお?」


 真裕が二球ほど投げ終えたところで、グラウンドにアナウンス音が聞こえてきた。あどけない可愛らしい声が、亀ヶ崎の守備陣を順々に紹介していく。


《セカンド、戸鞠さん》

「すげー! 全国大会みたい!」


《サード、外羽さん》

「雰囲気出るねえ。こういうのがあるのは羨ましいわ」


《ショート、城下さん》

「うう……。恥ずかしい……」


 自分たちの名前が読み上げられ、選手たちは様々な反応を見せる。あまり味わったことのない体験に、自ずと緊張感は増す。これも一つの貴重な経験値となるだろう。


《一回の表、楽師館高校の攻撃は、一番セカンド、円川さん》


 楽師館の一番は円川万里香。先ほど風と会話していた一年生である。


「お願いしまっす!」


 飛び跳ねるような声を響かせてから、万里香が右打席に入る。手首をしなやかに使ってバットを構え、見るからに柔らかそうなフォームをしている。中学時代の後輩の早速の登場に、ショートの位置から見ていた風は僅かに口角を持ち上げる。


(いきなり万里香か。いくら練習試合といっても、一年生でトップバッターを任せられるなんて凄いよ)


 ただし今となってはもう敵同士である。風はすぐさま表情を引き締め直し、現在の後輩に声を掛ける。


「ま、真裕ちゃん、焦らず一人ずつ打ち取っていこう。まずは先頭切るよ!」

「はい!」


 一方、打席の万里香は、かつての先輩の声を聞いて一層心を躍らせる。


(ふふっ。風さん気合入ってるな。ここは一丁、二年越しの私の成長をお見せしよう)


 球審が試合開始を宣告する。マウンド上の真裕は小さく息を吐いて肩の力を抜き、優築の出すサインに頷く。


(円川さんは良いバッターなんだろうけど、私と同じ一年生なんだ。先頭バッターだし、絶対抑えてやる)


 真裕が大きく振りかぶる。前の登板に比べて幾分か落ち着いた心持ちの中、この試合の第一球目を投じた。


「ストライク」


 アウトコース高めへの直球が決まる。万里香はバットを出さずに見送った。


 続く二球目。同じストレートだったが、バッテリーは一転して万里香の臍付近を抉る。これはボールとなった。


(良い球投げるじゃん。二球見ただけだけど、球の速さも勢いもある。これで一年生っていうのは凄いね。あ、それは私も同じか)


 万里香は思わず白い歯を溢す。真裕のボールに感服しながらも、球筋をしっかりと見定める。


(ストレートの見逃し方は悪くない。じゃあ変化球はどうだろうか?)


 一、二球目の様子を踏まえ、優築は次の球にカーブを要求する。万里香の遅い球に対する反応を探りにいく。

 三球目、真裕の投球は少々高めに浮く。胸の辺りに落ちてきたボールを万里香は咄嗟に打ち返す。


「ファール」


 芯で捉えたものの、タイミングが早かった。打球は三塁コーチャーズボックスの横を通過する。


(今のはカーブか。甘く入ってきたから反射で打っちゃったよ。もうちょっと引きつけないと)

(しっかり振り切ってきた。でもタイミングは崩せたし、これでツーストライク。焦りは禁物だけれど、ねちっこく粘られる前にどんどん勝負していきましょう)

(分かりました)


 四球目、真裕は外角の際どいコースへストレートを投げ込む。追い込まれていた万里香は打ちにいかざるを得ない。


(こんにゃろ!)


 前のカーブとの球速差で、差し込まれ気味のスイングになった。それでも万里香はきっちりとミートし、ボールを前に飛ばす。


「ショート!」

「抜けちゃえ!」


 勢いのあるゴロが二遊間を襲う。だが素早く動き出していた風が正面に回り込み、ボールを捕って一塁へ送球。万里香が駆け抜ける前に珠音のグラブに収まる。


「くっそー。やっぱ巧いわあ」


 懸命に走った万里香だったが判定はアウト。先輩のプレーに脱帽しつつ、悔しさを露わにする。


「ナイショート! 助かりました」

「ナ、ナイピッチ。ワンナウトね」


 帽子の鍔を触って軽めの会釈をする真裕に、風は控えめに手を挙げて応答する。 


(予めセンター側に守っておいて正解だった。優築のミットも外に寄ってたし。真裕ちゃんの投げたコースも良かったけど、万里香も巧く合わせてきてた。暫く会ってない内に大分上達してるみたい)


 後輩が見せた成長の跡に風は喜ぶ。けれどもここは自らの技術でそれを上回った。この好プレーもあり、一年生対決の一打席目は真裕に軍配が上がる。加えて先頭打者をアウトにできたことで、その後の投球にもリズムが出る。


「オーライ」


 二番の錦野(にしきの)は二球でライトフライ。続く三番の三波(みなみ)は……。


「スイング、バッターアウト」


 ストレートで空振り三振を奪う。真裕は初回を三者凡退で片付けた。


「よし」


 軽く拳を握り、はにかみながら真裕はベンチへ戻っていく。強豪楽師館相手に上々の立ち上がりだ。



See you next base……


STARTING LINEUP


亀ヶ崎

1.城下 風   右/右  ショート

2.戸鞠 光毅  右/右  セカンド

3.糸地 晴香  右/右  センター

4.宮河 玲雄  右/左  レフト

5.紅峰 珠音  右/右  ファースト

6.外羽 杏玖  右/右  サード

7.増川 洋子  右/右  ライト

8.桐生 優築  右/右  キャッチャー

9.柳瀬 真裕  右/右  ピッチャー


楽師館

1.円川 万里香 右/右  セカンド

2.錦野     右/左  ライト

3.三波     右/右  サード

4.綾瀬     右/右  センター

5.香坂     右/右  ショート

6.東城     右/左  キャッチャー

7.小和泉    右/右  ファースト

8.谷沢     右/右  レフト

9.苑田     左/左  ピッチャー


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